輪廻の風 (45)


「ダルマイン、旧ドアル軍はあんなイカつい戦闘機を保有していたのか?」ロゼが聞いた。

「はい…あれは旧ドアル軍の生き残りの科学者たちが駆使して作り上げた殺戮兵器"インドラ"です…!凄まじい破壊力を秘めた光線を放つと聞いたことが…。」ダルマインは血の気の引いた青白い顔で答えた。

「光線?そんなの撃たれたら大変だ…!」
エンディは焦った様子で言った。

「例えそんな光線を放てたとしても、ラーミアがいる限り撃ってはこないだろう。」
こんな時でもカインは冷静だった。

「あいつら…まだラーミアの力を利用しようとしてるのか…。」エンディは言った。

「そうか、お前らラーミアの力のこと知ってたんだったな。」
ロゼはそう言うと、辺りを見渡した。

旧ドアル軍の突然の夜襲に、皆腰が引けているようだった。

ダルマインは断末魔のような雄叫びを上げながら遥か遠くへと逃げて行った。

ノヴァはインドラが着陸した演習場の方角を、何やら遠い目をしながら眺めている。

「お、おい…やばくねえか?」
「いきなり来やがって…どうすりゃいいんだよ…。」戦士たちはザワザワし始めた。

すると、ロゼが今まで発したことがない様な大きな声を発した。

「うろたえるな!!」

ざわつきは一瞬でピタリとやんだ。

「俺が先陣を切る。迎え討つぞ!」
ロゼは怖気付いた部下たちに激励の言葉をかけようとしたが、旧ドアル軍はすでに侵攻を始めていた。
そのため、そんな悠長な事をしているひまはなく、手短に一言で済ませた。

しかしロゼのこの一言は、バレラルクの戦士達の士気を高めるには充分だった。

先ほどまで意気消沈していた戦士たちの目は、まるで火を灯したようにギラギラし始めた。

「ロゼ、オレたちも行くぜ!」
「若!さすがのカリスマ性ですね!」
エスタとモエーネがロゼのもとへと駆けつけた。

「俺の背中は任せたぜ?エンディとカイン、お前らはラーミアを守ってやれ!」
ロゼがそう言うと、エンディは「はい!」と返事をして、ラーミアがいるロゼの居城へと向かった。カインもエンディの後を追った。


「王子様よ、俺は俺で好きに動かせてもらうぜ?」いつの間にか人間の姿に戻ったノヴァは、ロゼにそう言うととてつもない速度で演習場へと走り出した。

「ボス!俺たちも行きます!」
ノヴァファミリーの戦闘員たちも士気が高まった様子で、ノヴァの後に続いて一斉に走り出した。

それを見ていたラベスタも、急いで後を追った。

「おい待てお前ら!…ったくしょうがねえ奴らだぜ。よし!俺らも行くぞ!」
ロゼがそう言うと、バレラルクの戦士たちは「うおおおおぉ!」と声を発しながら、インドラが着陸した演習場へと向かった。


「エンディ!カイン!よかった無事で…!」
ロゼの居城に着いたエンディとカインを見たラーミアは、歓喜の声を上げていた。

「喜んでばかりいられないぞ、旧ドアル軍が攻めてきているんだ。」 
「そうよ。おそらくまたラーミアを狙ってくるはず。」サイゾーとジェシカが言った。

「なんであいつら、こんなにしつこくラーミアを狙うんだろう…。」エンディは首を傾げながら言った。

「外傷を完璧に治癒できる。そんな力を持った人間が味方にいれば向かう所敵なしだからな。」カインが言った。

「ラーミアさんはボクがまもるんだぁ…!」
アルファはそう言いながら、木の棒をフラフラと振り回していた。

「ラーミア…あれ誰?」
「給仕になったアルファ君よ。私の後輩!」

「あ、初めまして!エンディさんにカインさん、2人のことはラーミアさんから聞いています!ボクもお役に立てる様に精一杯頑張ります!」
アルファはそう言い終えた後、何もないところで突然転んだ。

エンディは、なんだか頼りなさそうな奴だなあと思いながらアルファを眺めていた。

カインはアルファをチラッと見てすぐに視線を外にずらした。
本当にもう後戻りはできなそうだな。と、何か大きな覚悟を決めた様な表情で心の中で呟いた。


インドラから旧ドアル軍の兵士たちがぞろぞろと降りてきた。
お決まりの戦闘服を身に纏って機関銃を両手で支え、足並みを揃えて行進している。

ロゼたちは建物の物陰に隠れて様子を伺っている。
「いいか?俺が合図したら一気に攻め込むぞ。」ロゼが小声でそう言うと、エスタとモエーネは小さくコクリと頷いた。

後ろに控えている兵士たちは、緊迫している様子だった。

旧ドアル軍が演習場の敷地から出ようとした瞬間、ロゼは合図を出そうとした。

しかし、ロゼが合図を出す前にノヴァが単身敵陣に乗り込んで行った。

呆気に取られている旧ドアル軍の兵士たちを、ノヴァはどんどん蹴り飛ばしていた。


「うおおおおっ!!」
そしてマフィアのメンバーたちもノヴァに続き、怒号を発しながらなだれ込んできた。
先頭にはラベスタがいた。

旧ドアル軍対ノヴァファミリーの激闘が始まった。

「はぁ、調子狂うぜ。よし!俺たちもノヴァ達にに続け!!」

ロゼはそう言って、兵を率いて参戦しようとした。

すると、インドラから無数の小型ミサイルが発射された。

空から雨の様に小型ミサイルが降り注ぎ、人々は逃げ惑った。
小型とはいえ、殺傷能力はかなり高そうだった。

ドカーンと、大きな音が何度も鳴り響いた。

「引け!一旦引くぞ!」
危険を察知したロゼは、慌ただしい様子で兵を引き上げさせた。

旧ドアル軍の兵士たちも、インドラへと引き返していった。


ロゼが演習場の方を振り返ると、逃げ遅れたマフィアの何人かは拘束され、インドラへと連行されていくのが見えた。
ノヴァとラベスタの姿は確認できなかった。

「ミサイルとは味な真似してくれるじゃねえかよ!」

「ポナパルト!?お前も来たのか!?」
ロゼは驚いた様子で言った。

「ロゼ王子〜俺もいますよ!レガーロ国王にはバレンティノが付いてるから心配しないでくださいね!」モスキーノはニコニコしながら言った。

「あんなクソ親父どうでもいいわ!それよりお前ら、何をする気だ?」

「決まってるじゃねえですか!あのクソ生意気なインドラとかいう飛行物体をぶっ壊しにきたんですよ!」ポナパルトはとても楽しそうな顔をしながら言った。

「旧ドアル軍共おぉ!全員オレがぶっ殺してやるぜえ!!」
ポナパルトはインドラに向かって雄叫びを上げた。
すると演習場の地面から、アスファルトを突き破って無数の大木がインドラの周りを囲んで防御するように勢いよく生えてきた。

そして、大木の幹から分かれ出した無数の枝が、まるで触手の様に伸びて襲いかかってきた。

ロゼは槍を大振りしてその枝を切り刻んだ。
エスタとモエーネが咄嗟にロゼの前に出て、無尽蔵に生えては襲ってくる鋭利な先端をした枝を必死に防いでいた。

ポナパルトは驚くことに、襲ってくる枝の全てを握り拳をふるって跳ね返している。

モスキーノは軽い身のこなしでヒョイヒョイと避けていた。

攻撃が止んだ、と思ったのが束の間。
城下町の地面から突如、無数の大木が生えてきた。

空爆によって家屋が破壊され炎上している城下町の街並みは、一瞬にして密林地帯の様に変わり果てた姿になってしまった。

何が起きたのか理解できず、みんな頭の中が真っ白になってしまっていた。

「こりゃあ、やべえことになったな。」
ポナパルトがいつもより少し小さな声で言った。

「おいおい、まさかこれって…。」
ロゼが冷や汗をかきながら言った。
エスタとモエーネは絶句している。

「間違いない、これはアズバールの能力だ。」
モスキーノが激しい見幕でそう呟いた。











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