輪廻の風 (40)


エンディとカインは、王宮の敷地内にあるロゼの居城に来ていた。

居城の中は宝石が埋め込まれた装飾品が展示物のように並べられていて、とてもギラギラしていた。いかにも派手好きのロゼが住んでいそうな居城だった。

天井にはおなじみのシャンデリア。エンディは目をチカチカさせながら部屋をキョロキョロしていた。

ジェシカとラーミア、ダルマインも来ていた。

エンディは、さっきノヴァ達に会ってきたことを、ロゼ達に詳細に説明していた。

「なるほどな。俺も今しがた、ダルマインから奴らが地下に潜伏していたことを聞いたところだ。それを聞いたお前が血相変えてパニス町に走って行ったと聞いたからよ、今から軍隊率いて行くところだったんだぜ?」
ロゼはエンディを心配していたようだった。

「ノヴァファミリーは敗戦国の生き残りが集まった多国籍組織だったってわけか。しかもトップの2人がプロント人とはなあ。」
ダルマインは偉そうに腕を組みながら言った。

「確かに、バレラルクにはいまだに"純血至上主義"が根強く残っているわ。昔ほどではないけど…。」ラーミアは深刻そうな表情で言った。

「憎しみの連鎖ね…大陸戦争は終わっても、戦勝国であるバレラルクを恨む人たちは旧ドアル軍の他にもいるってことね。」
ジェシカは真剣な顔をしている。

「俺は前から大陸戦争が全ての諸悪の根源だと思っていた。欲深い権力者達の傲慢なプライドのためにどれだけの人間が犠牲になったか…。大陸統一なんて下らねえ目標掲げて、国の為だとか戦死した英霊達の無念を晴らす為だなんだの言って国民まで巻き込んでよ…。そんな無意味な戦いを500年も続けやがって!」
ロゼはそう言うと、バンッと力強く机を叩いた。

「ロゼ、感情的になるなよ。一国の王子ならもっとビッとしてろ。」
いつの間にかロゼの横に幼い男の子が立っていた。
男の子はロゼに対して偉そうに意見をした。

エンディは、この生意気そうで可愛げのない男の子はいつの間に表れたんだろうと不思議に思っていた。

「何だあこのガキ?ロゼ王子に向かって無礼だぜ?よし、オレ様がお仕置きしてやろう!」ダルマインは指の関節をポキポキ鳴らしながら、男の子に対して威圧的な態度をとった。

「あら団長、いつの間に?」ジェシカが男の子を見て言った。


「おう、紹介するぜ。こいつは王室近衛騎士団団長、エスタだ!まだ12歳だけどよ、めちゃくちゃ強えぜ?」ロゼは鼻高々に言った。

「じゅ、12歳!?」「こんなガキが団長だとぉ〜!?」エンディとダルマインは耳を疑っていた。

「そして私が副団長のモエーネよ!」
ツインテールの派手な少女が、そう言いながら元気よく部屋に入ってきた。
結び目から下をピンク色に染めた、お洒落で可愛い少女だった。
ジェシカはモエーネを見ると、嫌な女が来てしまったと言わんばかりの冷めた顔をしていた。

「話は聞いたわ。ジェシカ、あんた1年もノヴァファミリーに潜伏してたくせに何も知らなかったのね?」モエーネは嫌味ったらしく言った。

「あら、何もしていないあなたに言われたくないわ?見た目ばかり気にしてチャラチャラしてる口だけ副団長さん?」
2人はバチバチと睨み合っている。
ジェシカとモエーネは犬猿の仲のようだ。

「よさねえかお前ら。今は内輪揉めしてる場合じゃねえだろ?」ロゼが言った。

「はーい!」モエーネはロゼに向かって笑顔で元気よく返事をした。

「あなたノヴァ達に"受け止めてやる"って言い放ったらしいけど、どういうつもりなの?」ジェシカはエンディに疑問をぶつけた。

「あいつらの憎しみは話し合いじゃ到底解決できないくらい根深いと思う。だったら、その憎しみ全部ぶちまけて向かってくるあいつらに、こっちも思いっきりぶつかって行けばいいと思った!拳で語り合えば分かり合えるかもしれないだろ!」エンディは清々しい顔で言った。

「あんた新入りのくせに気合い入ってるじゃん。でも少し考えが甘いわね?あいつらはクーデターを起こそうとしてるのよ?」

「これから始まるのは"拳の語り合い"なんかじゃなくて"殺し合い"だぜ?分かり合うなんて不可能だね。」
モエーネとエスタがそう言うと、エンディは返す言葉が見つからなかった。

「いいじゃねえかよ。オレはエンディの考え方好きだぜ?よし決めた!今回の戦い、お前が指揮を取れ!」ロゼが唐突に言い放った。

「え〜〜!?指揮って、俺が!?」
エンディはひどく困惑している。

「ラーミアを守る、苦しんでる人達を救う、敵の憎しみを受け止めて分かり合う。全部お前が言った言葉だ。口で言うだけなら誰にでも出来るんだよ、大事なのはどう行動に移すかだぜ?お前の器量を俺に見せてくれよ。」
ロゼは珍しく厳しい口ぶりで言った。

「若、いくらなんでもそれは無茶ですわ?」
「そうですよ、こんな頼りなさそうな男に何が出来るって言うんですか?」
ジェシカとモエーネがここぞとばかりに反論した。

「これは決定事項だ。異論は認めない。」
ロゼが険しい表情でそう言うと、その場の空気がピリピリと張り詰めた。

「ロゼが言うならそれでいいんじゃねえの?もし失敗したらエンディは口だけ男だったって事で、マフィア共々皆殺しにしてやるぜ。」エスタは両手をズボンのポケットに突っ込んで、ニヤリと笑いながら言った。

主君を呼び捨てにするなんて…いけすかねえガキだぜ!と、ダルマインはエスタを見ながら心の中で呟いた。

すると、ラーミアが両手でエンディの右手をギュッと握った。

「大丈夫、エンディならできるよ?私は信じてる。」優しい笑顔でエンディの目を見ながら言った。

すると、さっきまで全く自信がなさそうだったエンディは、一気に強い目になった。

そして、真っ直ぐな目をして言った。

「約束する。あいつらは絶対に俺が止めるし、誰も死なせない。」

「頼りにしてるぜ?カインとダルマイン、お前らはエンディの援護をしろ。」

「わかった。」「えぇ!?オレもですかい!?」

「これから市民達を避難させろ。軍、保安隊、騎士団は万が一の時の為にいつでも出撃できるよう近くに待機させておけ。」
ロゼが近衛騎士団トップの3人に命を下した。
ジェシカとモエーネは元気よく返事をしたが、エスタは気だるそうに手を挙げるだけだった。

「あの、私はどうすれば?」ラーミアが言った。

「危ないからお前はここにいろ。あ、そういえば最近入った新入りの給仕が全然仕事の出来ねえ奴でみんな手を焼いているんだ。今庭で掃除でもしてるだろうから、お前先輩としてビシビシ指導してきてくれねえか?」
ロゼがそう言うと、ラーミアは返事をして外に出た。

外へ出る前、エンディの顔をチラッと見た。とても凛々しくて頼りがいのある顔をしていた。しかしそれでもラーミアは内心、心配でたまらなかった。

「エンディ…死なないでね。」
ロゼの居城を出た後、誰にも聞こえないように小さな声でそう呟いた。
















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