輪廻の風 (39)


「今から18年前、バレラルクはムルア大陸のほとんどの国を制圧していた。残るはドアル王国とその同盟国だったプロント王国のみ。大陸統一を大義名分にバレラルクの猛攻が始まり、戦争は激化していた。そんな最悪の時代に、俺とラベスタは産まれたんだ。」

同盟とは名ばかりで、プロント王国は実質、ドアル王国の傀儡政権だったと言う。

戦時中、プロント王国の兵隊は陽動に使われたり、敵陣に命を投げ捨てて特攻させられたりしていたらしい。

物心つく前に両親を戦争で亡くしたノヴァとラベスタは、プロント王国の田舎にある施設に入った。

「その施設は俺たちみたいな戦争孤児を受け入れてくれる唯一の居場所だった。貧しくてひもじい思いもしたが、あの頃は毎日が楽しかったぜ?」
ノヴァは懐かしそうに顔をほころばせて言った。

「だがそんな日常はある日突然奪われた。忘れもしねえ、俺たちが8歳の頃、バレラルクの軍人が施設を襲撃して来たんだ。無抵抗の神父やシスター、子供たちを虐殺して金品や食料を強奪していきやがったんだ。」
ノヴァの表情は憎悪に満ち溢れていた。

エンディはあまりの壮絶さに衝撃を受け、言葉を失っていた。

「俺とラベスタ、ルシアンの3人は何とか命からがら逃げ出した。それから間もなく、プロント王国はバレラルクに吸収された。」

「ルシアンて誰だ?」エンディが聞いた。

「俺の妹。」ラベスタが答えた。

「行き場を失って途方に暮れていた俺たち2人に、ルシアンは泣きながら言ったよ。"これからは3人で強く生きていこうね。人を恨んじゃダメ。私たちが大人になったら、子供達が元気に笑って生きていける世の中を作ろうよ。"ってね。どんな時も笑顔を絶やさないルシアンの側にいると、俺たちの心から憎しみの感情はどんどん払拭されていったよ。」
ラベスタは無機質な表情で言った。

「だったらどうして復讐を?ルシアンは今どこにいるんだ?」エンディが言った。

「死んだよ。バレラルクの奴らが殺したんだ。」ラベスタは一瞬顔をこわばらせながら言った。

「殺されたって…どうして?」
エンディは唖然としていた。

「俺たち3人はすぐにディルゼンに行ったんだ。前向きな気持ちで新しい人生を始めようと思ってな。だが、よそものの俺たちに対してバレラルク人の風当たりは強かった。」
ノヴァがそう言うと、エンディは首を傾げていた。

「差別だろ?複数の国を吸収して成り立っているバレラルクは多民族国家。異国の血が混ざった人種に対して差別的感情を抱いているバレラルク人は多いって聞いたぜ?」カインが言った。

「そうだ。俺たち元プロント王国の人間も、忌み嫌われ蔑まれていた。ただ歩いているだけで暴言吐かれたりいきなり殴りかかってきたり…俺たちはよくルシアンの盾になって身体中アザだらけになってたな。」
ノヴァは懐かしそうに言った。

「それでもルシアンは絶対に人を憎むことなく、いつか分かり合える日が来ると信じていた。肺炎になったあいつは、どこの医者にも診てもらえなかったよ。元プロント人だって理由でね…!」そう言ったラベスタの顔は無表情だったが、拳を強く握りしめて体は怒りでプルプル震えていた。

「平和を夢見る心の優しいルシアンは、六歳という若さで死んだんだ。」ノヴァが言った。

「そんな…ひどすぎる。」エンディは思わず泣きそうになるのをグッと堪えた。

「それから俺たちは同じように差別に苦しんでいる奴らを集めて徒党を組んで生きてきた。そして4年前、大陸戦争が終結したタイミングでノヴァファミリーを結成したんだ。」
「この4年間、闇ビジネスで必死に資金を稼いだ。その金で旧ドアル軍から武器を買って武装強化していった。バレラルクに復讐をするためにね。」
ノヴァとラベスタは言った。

「それを決行するのが今日か…。」
エンディはそう言うと、しばらく下を向いて何かを考えている様子だった。
そして部屋を出ていこうとした。

「おい、どこへ行く?」ノヴァが言った。

「帰る。」エンディがそう言うと、ノヴァは驚いている様子だった。
ラベスタはボケーっとエンディを見ている。

「お前らの事情は分かった。人を憎むな、復讐なんてやめろ。俺にそんなことを言う資格がない事もよく分かった。だから今日、王宮に来いよ。そこで今までの恨みつらみ、ぶちまけてやれ。俺が受け止めてやる!」
エンディは優しい笑顔で言った。
そんなエンディを見てカインは一瞬、切ない表情を浮かべた。

エンディとカインは部屋を出て、再び地下通路に出て帰路についた。

ノヴァとラベスタは、何か言いたげな表情を浮かべながら、エンディの背中をぼんやりと眺めていた。















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