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短編小説

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2022年2月の記事一覧

短編【不味いカレーは、愛情たっりぷり 】小説

短編【不味いカレーは、愛情たっりぷり 】小説

不味い。
とにかく、不味い。
どうして、こんなに不味い料理が出来るのか。

私は妻を愛している。
結婚してこの一年間、一度も妻に文句を言った事はない。
それは、愛しているからだ。
喧嘩するほど仲が良いなんて言葉があるが、あれは友情関係の仲のよさの事で愛情関係では『喧嘩しないほうが仲が良い』に決まっている。

だから私は妻に一度も文句を言ったことは無い。
お陰で結婚してからの一年間、一度も喧嘩をした

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短編【霧が晴れたら】小説

短編【霧が晴れたら】小説

志島洋は混乱していた。
見覚えのある浴室。
大伯母の家の浴室だ。
その浴室で血に塗れて倒れている大伯母と気絶している看護師がいる。
べっとりと血に染まっている自分の右手を見つめて志島洋は混乱していた。

「【ニーラカーラ物語】で知られる童話作家、志島佳代さんが殺害されるという痛ましい事件が起きてしまいました。犯行に及んだのは志島さんの姪孫にあたる志島洋容疑者27歳。警察によりますと、容疑者は犯行を

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短編【小説を読まぬ大人の成れの果て】小説

短編【小説を読まぬ大人の成れの果て】小説

「鷲見泉、あの小説な。少し書き直してくれないかな」

職員室に呼ばれた鷲見泉勇人は担任であり歴史教師でもある白石忠文にこう言われ、反射的に

「どうしてですか。嫌です」
と言った。

「うん。わかる。そう言うと思った。だけどな鷲見泉。あの小説は学級新聞にはふさわしくないと先生は思う」

勇人が通う私立汝自知学院附属中学校では二年生になると年に二回、学級新聞を創ることになっている。

それは大きめの

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短編【招かれた客】小説

短編【招かれた客】小説

私があの方に出会ったのは仕組まれた運命のだったのかしれない。
私の人生の僥倖も、それによって得た地位も財も全ては、あの方に出会うためだったのだ。
イア!イア!クルウルウーフンタング!

ミルトン・フィッシャーは、いつもの様に頭の中に響く謎めいた言葉を聴きながらホルマリン漬けされた脳味噌が入っているガラス瓶を愛おしく撫でた。

ミルトンの両親はネブラスカ州の貧しいトウモロコシ農夫だった。
父は息子の

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短編【嗤う者】小説

短編【嗤う者】小説

単なる空耳だと思っていたのに、これでは幻聴だ。
『…オノ……………』
夜になると聴こえてくる。

殺人事件の報道をテレビで見ると、ときおり被害者の顔写真と名前と年齢が画面に映し出される。
俺はそれを見る度に、知人の顔がそこに有ったらどういう気持ちになるのだろうと思っていた。

「……会社員、遠藤弥一郎(38)さんが胸を刺され、自宅の寝室で発見されました。先月起こった御津市の事件と手口が似ている為、

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短編【朝顔と紅葉】小説

短編【朝顔と紅葉】小説

わりと早い時期から結婚をしようと私は決めていた。

浅河尾紅葉という名前が恥ずかしかったからだ。
まるで程度の低い小説家の程度の低い小説に出てきそうな安易な名前だ。

なんて事を言うと友人たちは、そんな事はないと言う。
確かに文字で書くと綺麗な名前だとは思う。

それが音になると、途端にお気楽な名前になる。
病院などで
「あさがおさーん、あさがおもみじさーん」
と呼ばれた時の恥ずかしさ。
お笑い芸

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短編【拝啓、清涼院流水様】小説

短編【拝啓、清涼院流水様】小説

私は妻を愛している。
だが、だからといって妻に対して秘密が全く無いわけではない。

その秘密。
誰にも決して言ってはならない秘密の源流は十八年前に遡る。
十八年前、私は十六歳で清涼院流水という作家の作品に出会った。

それは角川書店から発売された『キャラねっと:愛$探偵の事件簿』というノベルス本だ。
その時、清涼院流水と言う、発音すると舌が心地よく回る作家名の本を何気なく買った。

今にして思えば

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短編【羊雲に乗って】小説

短編【羊雲に乗って】小説

シープの口車にまんまと乗って汽車で二時間の地方都市へ向った。
紳士靴屋に就職するために。

僕は高校の午後の授業を早退けしてシープに言われるまま汽車に乗った。
早退けと言うか事実上の自主退学である。

退学届を出したわけではないので先生たちは僕が学校を辞めたなんて、つゆほども思ってはいないだろうけど僕は今日、学校を勝手に辞めた。

両親が死んでから二年間、面倒を見てくれた叔父も叔母も特に僕には愛着

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短編【出し尽くしても出し尽くしても】小説

短編【出し尽くしても出し尽くしても】小説

二年ぶりのデートだ。
そんな事を思ったら、あのコは怒るかな。
畠山きみえは、ふふと笑ってアイスコーヒーを飲んだ。
ふと、店のガラス越しに外を見た畠山きみえは呼吸の仕方を忘れるほど驚いた。
死んだはずのあのコが外を歩いていたからだ。

「すみません、畠山さん。ちょっと遅れましたあ!」
畠山は【かふぇ サラスヴァティー】の壁掛け時計を見る。
11時18分。
待ち合わせの時間より12分も早い。
やって来

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短編【ニーラカーラ物語《巨人と小鳥》】小説

短編【ニーラカーラ物語《巨人と小鳥》】小説

ニーラカーラ島の伝説。

昔、むかしの大昔。
ニーラカーラ島の北の村にのろまだが力持ちの巨人がいました。
巨人は村人の為に川から水を引き田畑を作りました。
巨人は村人の言う事は何でも聞き、よく働きました。

ある日、この村に旅の占い師がやってきました。
占い師は言いました。

あの巨人を始末せよ。
さもなければ惨劇が起こる、と。

村人達は名も知らぬ占い師の不吉な予言に初めは広い心で笑って受け止め

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短編【自由意志の行方】小説

短編【自由意志の行方】小説

「【ニーラカーラ物語】で知られる童話作家、志島佳代さんが殺害されるという痛ましい事件が起きてしまいました。犯行に及んだのは志島さんの姪孫にあたる志島洋容疑者27歳。警察によりますと、容疑者は犯行を全面否認しているようです。容疑者は志島さんの実の弟の孫に当たり、志島さん自身には子供はいませんでした。事件当日、志島さんは入浴介助サービスをうけており、看護師も事件に巻き込まれた様子です」

どの角度から

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短編【震える脳】小説

短編【震える脳】小説

アンジェリカ・バキンズがブルックリンにやってきたのは六年前の事だった。
家政婦としてフィッシャー家へ奉公にきたのだ。
そのとき19歳だったアンジェリカは今は25歳になっていた。

フィッシャー家の主人、ミルトン・フィッシャーはブルックリンで劇場と酒場を経営する実業家だった。
元々、ミルトンは小説家になりたかったらしいのだが文才はなく、代わりに商才はずば抜けていたようで一代で富を築き上げた。

ミル

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短編【領空侵犯】小説

短編【領空侵犯】小説

十三時が過ぎた。
そろそろ彼がやってくるころだ。
ところが約束の時間に店に入ってきた客は私の知らない別人だった。

なんだ、同姓同名か。 
がっかりしたと同時に少しほっとした。
考えてみれば、そんな偶然があるわけがない。
あの人に会ったら、私はまた狂ってしまうかもしれない。
そう思うと私はもう一度、ほっと胸を撫で下ろした。

山川宏。
フェイスブックで検索すれば五、六人は出てきそうな名前じゃないか

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短編【凡ての創口を】小説

短編【凡ての創口を】小説

「もう二十二年が経ってしまったのか」
墓前で一人の老人がつぶやいた。
想っていた事をつい口に出してしまい、それが少し芝居がかっている気がして老人は少し笑った。

時が怒りを忘れさせてしまう。
そのような意味の言葉を哲学者だか聖職者だかが言っていたことを老人は思い出した。
誰が言った戯言だったか。

しかし、二十二年の月日というものは笑顔をも引き出してしまうのも事実だ。
こうなってしまったら、もう、

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