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短編小説

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記事一覧

短編【ささやかで不確実な完全殺人】小説

短編【ささやかで不確実な完全殺人】小説

監禁状態から解放された時、ぼくは首相が凶弾に倒れた事を知った。

体調の異変に気がついたのは猪烏さんから連絡をもらって二日後の事だった。

「ごめん、春馬くん。俺、コロナ陽性出てしまった。もしかしたら、キミに感染してしまったかもしれん」

その日のうちに病院へ行った。すぐに検査をしてもらえるのかと思ったら唾液収集の容器を渡され、明日の朝九時に病院に提出して下さい、と看護師から言われて帰された。

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短編【名言】小説

短編【名言】小説

私は仕事帰りで立ち寄った古本屋で【日本の名言集】と言うタイトルの単行本を手に取りパラパラと捲った。一番最初に永野重雄の『私の悪口は全て報告せよ。しかし、言った人の名は言うな』という名言が目に入った。

永野重雄。戦後、日本の経済を支えてきた経済界の重鎮。その永野重雄の名言『私の悪口は全て報告せよ。しかし、言った人の名は言うな』という言葉は、私の座右の銘になった。たった今から!

深い。深すぎる名言

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短編【リピート・デイズ】小説

短編【リピート・デイズ】小説

リピート・1

午前六時。私はいつもより早く目覚めた。ドリカムに『決戦は金曜日』と言う名曲が有る。愛の告白を決戦と置き換え、意気込む女性の心の機微を描いた名曲。今日はその金曜日。私にとっても決戦の日。だからと言って告白をすると言うようなロマンチックな意味での決戦じゃない。もっと現実的な意味での『決戦の日』なのだ。私は、ある大手出版会社に務めている。今日、私が記事を書いている音楽専門誌『メロディライ

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短編【悪魔のストラップ】小説

短編【悪魔のストラップ】小説

「あれ?姉ちゃん、珍しいね。日曜日なのに家に居るなんて」
「だって、予定無いもん」
「デートは?毎週毎週、彼氏と出歩いてたのに」
「別れた」
「また?付き合ったばかりでしょ?」
「だって、いい男、見つけちゃったんだもん」
「見つけちゃったって…。今度の彼氏、原子力発電会社で働いてるエリート社員で金持ちだったんだろ?」
「そ。ご飯奢ってもらったり、バック買って貰ったり、旅行に連れて行ってもらったりし

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短編【紫の蝶】小説

短編【紫の蝶】小説

1

「なあ、出来杉」
「なんだ、野比」
「おまえ、一日何時間勉強してたんだよ」
「俺か?最低8時間かな。調子がよけりゃ10時間」
「そうか。お前でもそれくらいしてるのか。じゃ俺はもっとしなきゃならんな…。それにしてもお前は凄いよなぁ」
「何が」
「大学一発で合格してさ。しかも受験勉強中に3人も泥棒を捕まえて表彰もされてさ」
「ああ。アレは偶然だよ。俺の部屋、強盗に狙われ安いんだな」
「強盗に狙わ

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短編【心オーナー】小説

短編【心オーナー】小説

『いらっしゃいませ』

という橙色の文字が光っている自動受付機のモニターをタッチする。何人で来たのか、カウンター席にするのか、などの設問に、それぞれ『一人』と『どちらでもよい』を選ぶ。すると13番と書かれた発券伝票がでてきて「番号に書かれたお席にお付き下さい」と女性の声を模した電子音声のアナウンスが自動受付機のスピーカーから流れる。

《おき寿司》の従業員たちは、お客様の邪魔にならないように、汚れ

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短編【科学者の幸福論】小説

短編【科学者の幸福論】小説

幸福とは何か?いにしえから多くの哲学者や宗教学者が、この出口の無い迷宮に入り込み、答えのない答えを模索して来た。ソクラテス然り、アリストテレス然り。

ソクラテスの幸福論は『生きる事以上に、良く生きる事』を重視した。つまり、ただ日々を生きるのではなく、正しく物事を知る事が即ち幸福であると説いたのだ。

しかし、本当にそうだろうか?知ると言う事は幸福以上に不幸を招くものだと私は思う。悩みというのは知

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短編【回るゴーストライト】小説

短編【回るゴーストライト】小説

一幕。

僕は小説を書いて生計を立てているプロの物書きだ。大学を卒業して、ある小説家に弟子入りをしたのは五年前。今時、小説家になるために弟子入りをするなんて珍しい。だけど、僕はどうしても安西武彦先生の下で文学を学びたかった。僕は安西先生の弟子となり、安西先生の小説のサポートをした。初めは資料集めや取材の手伝いだったけど、いつしか先生の作品も書かせて頂くようになった。つまりゴーストライターだ。僕が書

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短編【バックミラー・ピーピング】小説

短編【バックミラー・ピーピング】小説

《花澤能景の場合》

会社までは車で片道45分の道のり。その間、信号機は9つ。一日平均5回は信号待ちをする。いまの会社に務めて6年になるが、9つ全ての信号機に引っかかるというミラクルは一度しかない。

運転中に信号待ちをするのは軽いストレスになるらしいが私にとって、止まらずに信号機の下を通過する方がストレスになる。いつも信号機に近づく度に『赤になれ!赤になれ!止めてくれ!』と呪文のようにつぶやく。

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短編【節約と倹約の果てに】小説

短編【節約と倹約の果てに】小説

1

節約とは無駄を省いて切り詰める事をいい、倹約とはお金や物を遣わない様に努める事を言う。ならば、無駄を省いて切り詰めつつお金を遣わない様にする事を何て言うかご存知だろうか。…それは、ドケチと言う!

私の妻がまさにドケチなのだ!妻は昔からドケチだった訳ではない。結婚当初は、それはそれは可愛い女だった。私の財布の中身をチェックして小遣いが足りなければソッと入れ足していたりもしていたのだ。

そん

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短編【レッテル】小説

短編【レッテル】小説

一年間の講演回数42回。取得した資格は134。執筆した本は180冊以上。

私がこれまでどんな本を書いてきたのかというと【頭が良くなるイメージ将棋】【三日坊主ジョギング入門】【細胞から変える、超深呼吸美容法】。将棋の本を書いたりジョギングの本をかいたり美容法の本をかいたり、とにかく色んな本を書いている。

だから、周りの人から「先生は子供の頃から頭が良かったんでしょうね」と言われる。だが、実は小学

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短編【ネット検索】小説

短編【ネット検索】小説

「突然だけど、今日、お前の家に泊めてくれないか?」
ゼミ終了後、宮川了に飲みに誘われて大学近くの居酒屋【春夏酔陶】にやってきた平田篤史は、開口一番に言い放った宮川の言葉に少し驚いた。

「え?いいけど、いきなりどうした?その年で家出か?」
「みたいなもんだ」

宮川了と平田篤史は大学で同じゼミナールに通う二年次生で気が合い、いつしか互いに飲みに誘う仲になっていた。平田は地方から出てきてアパートに住

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短編【お婆ちゃん店員】小説

短編【お婆ちゃん店員】小説

「合計で713円になります。レジ袋は」
「あ、結構です。ありがとうございます」
そう言って綾部美香は千円札を出した。そして「大変ですね、お疲れ様です」と、つい言ってしまった。

言われたレジ店員は、照れ笑いなのか苦笑いなのか微妙な笑顔を作って「287円のお釣りでございます」と言った。

綾部美香はお釣りと商品を受け取って、なんだか居た堪れない気持ちになった。目の前のレジ店員が、自分の亡き祖母と同じ

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短編【願いが叶うまで】小説

短編【願いが叶うまで】小説

「まだ、胃は痛みますか?」
「少しは良くなりましたけど、まだ少しシクシク痛みます」
「夜は眠れますか?」
「最近はあまり眠れません」
「そうですか」
「先生、この胃の痛みは何なんですか?」
「ストレスですね」
「ストレス?」
「少し、お仕事を休んで、のんびり過ごしてみて下さい」

ストレスぅぅぅ!!冗談じゃない!自慢じゃないけど、俺は今まで一度もストレスを感じた事はない!思った事はズバズバ言うし、

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