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短編【不味いカレーは、愛情たっりぷり 】小説



不味い。
とにかく、不味い。
どうして、こんなに不味い料理が出来るのか。

私は妻を愛している。
結婚してこの一年間、一度も妻に文句を言った事はない。
それは、愛しているからだ。
喧嘩するほど仲が良いなんて言葉があるが、あれは友情関係の仲のよさの事で愛情関係では『喧嘩しないほうが仲が良い』に決まっている。

だから私は妻に一度も文句を言ったことは無い。
お陰で結婚してからの一年間、一度も喧嘩をした事はない。
実際、文句の付けようのない良い女房なのだ。

…料理以外は。
しかし、不味すぎる。
どうしたらこんなに不味いカレーが出来るんだ。

「どう?今日のカレー?おいしい?」
「ん?うん。美味しいよ。でもちょっと、何ていうか、アレだね」
「え?何?美味しくなかった?」
「ん?そんな事はないよ!美味しい美味しい!」
「そんなに美味しいの?お替り沢山あるから、ドンドン食べてね」
「お前は食べないのか?」
「うん。先に食べちゃった」
「そうか、いつも先に食べるね。たまには一緒に食べようよ」
「うん。それよりお替り、沢山あるからドンドン食べて」
「う、うん」



我ながら、このカレーは不味い。
不味いカレーを作るのは美味いカレーを作るより難しい。
そこそこ食べられる程度に不味くつくる。
それが難しい。

私は夫を愛しています。
私の夫の長所は優しいトコロで、短所は優し過ぎるトコロ。
本当の私は料理は上手い。
自慢じゃないけど、料理コンクールで金賞と獲った事も有ります。

一年前に、初めて夫にグラタンを作りました。
私とした事が緊張のあまり失敗してお世辞にも美味しいとは思えないグラタンを出してしまいました。
でも、それを夫は美味しい美味しいと食べたました。
料理自慢の私は正直ショックでした。
塩と砂糖の分量を間違えたグラタンが美味しいワケが有りません。

そんな優しさはいらない。
私はただ、正直に言って欲しかっただけ。
だから、今日も不味い料理をつくります。
あの人が不味いと言ってくれるまで……。

「どう?今日のカレー?おいしい?」
「ん?うん。美味しいよ。でもちょっと、何ていうか、アレだね」
「え?何?美味しくなかった?」
「ん?そんな事はないよ!美味しい美味しい!」
「妻そんなに美味しいの?お替り沢山あるから、ドンドン食べてね」
「お前は食べないのか?」
「うん。先に食べちゃった」
「そうか、いつも先に食べるね。たまには一緒に食べようよ」
「うん。それよりお替り、沢山あるからドンドン食べて」
「う、うん」
「ねえ」
「ん」
「ほんと~~に美味しい?」
「うん。ほんと~~に、美味しい」
「本当?」
「うん本当」
「ほんと〜〜に、美味しい?」
「うん。ほんと〜〜〜に、美味しい」

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拝啓、清涼院流水様

義務と演技

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