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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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#短歌

夏を感じる卯月のことなど

夏を感じる卯月のことなど

 6時半ごろ帰宅したら8歳の長男がピアノを弾いていた。上手いねと誉めたら失敗ばかりだったよと口をとがらせた。
 幼稚園は自由登園だった。だから下の二人は一日妻といて夕飯以外のやるべきことは大体すませていた。一方長男は小学校の後にずっと遊んでいたらしい。妻がイライラしている。ピアノの後は英語のレッスンと学校の宿題。長男はちっとも始めず遊んでいる。妻ががなる。
 仕方が無いから僕はお尻をかいてる長男に

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【新古今集・冬歌17】詠み継がれる時雨

【新古今集・冬歌17】詠み継がれる時雨

時雨かと聞けば木の葉の降るものを
それにも濡るるわが袂かな
(新古今集・冬歌・567・藤原資隆)

(訳)
おや時雨が降ってきたかと
よくよく聞いてみると
木の葉が降るのだったけれども
そんな木の葉が降る音にまでも
濡れてしまう私の 袖口

 時雨は晩秋・初冬のにわか雨だ。『万葉集』ですでに約40例みられる(『万葉ことば事典』)。晩秋の時雨は木の葉を染める仕事もあったようだ。ところが平安時代に入る

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《新古今集》月と涙

《新古今集》月と涙

いつまでか涙曇らで月は見し
秋待ちえても秋ぞ恋しき
   (秋歌上・379・慈円)

 月はまぼろしをまといます。遠くの友人、親兄弟、そして恋人。
 しばしば自らの憂愁も投影されます。
 だから『新古今和歌集』にもこんなやりとりが載せられました。

 月を見てつかはしける      
見る人の袖をぞしぼる秋の夜は
月にいかなるかげかそふらん
    (409 藤原範永朝臣)
   返し
身にそへ

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《新古今集》ワンワールド

《新古今集》ワンワールド

行く末は空もひとつの武蔵野に草の原より出づる月影
       (新古今集・秋歌上・422・藤原良経)

 野に立ちぐるり見渡すと、360度の地平線。草原が彼方まで広がり空と接し、目線の高さに月が出ます。

 大きな大きな風景です。
 この歌の現場は武蔵野でなければなりませんでした。京の周辺は山がちですし、巨景が望めそうな北海道には京文化が及んでいません。そんな日本で遙かな地平を見渡す世界といえば

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《新古今集》有家の稲妻

《新古今集》有家の稲妻

風わたる浅茅が末の露にだに宿りもはてぬ宵の稲妻
        (新古今集・秋歌上・藤原有家朝臣)

 稲妻を歌う歌だ。
 稲妻の何が歌になるだろう。光?恐ろしさ?豊穣?

 歌人が歌にしたのはその刹那だ。雲がこすれて蓄えられた力が大地に向けて放出された光。その刹那の、短さ。せつなさ。

 稲妻の存在する時間は短い。その存在は短いから、風に吹かれて消えゆく露にさえ、宿り果てる、つまり最後まで宿るこ

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《新古今集》西行の夕立

《新古今集》西行の夕立

よられつる野もせの草のかげろひて涼しく曇る夕立の空
              (新古今集・夏・西行)

 雨が降ると、降られた僕たちには何かボンヤリした憂鬱が共有されます。でもそうはならない雨もあります。驟雨やにわか雨、村雨なんて呼ばれる雨たちです。近年ではゲリラ豪雨という概念に含まれてしまった気もしますが。
 夕立もそうした雨の一つです。急に曇ってざあっと降り、すぐさま降り止んで、夜が来る前に

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〔新古今集〕琵琶湖と月の和歌

鳰の海や月の光のうつろへば波の花にも秋は見えけり
           (新古今集・秋歌上・藤原家隆)

 9月に入り、暑さが少し和らぎました。夜の静けさも何か少し深まったように感じます。

 静かな秋の夜には月が似合います。中でも水面と月の取り合わせは静かさの中にも華やかさがあるようで、僕が一番好きな風景の一つでもあります。

 歌。
 「鳰の海」は琵琶湖の別称です。穏やかな水面が視界いっぱいに

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7月19日(月) 最後とは知らぬ最後

7月19日(月) 最後とは知らぬ最後

 娘(3歳)が唐突に「娘ちゃんはパパと結婚する」と宣言した。

 感動もしたが混乱もした。「これがあの伝説の・・・」という気持ちを抱いた。一方で発言の脈絡の無さに心のもっていきかたを見失った。

 見失っている間に娘は踊り出す。当然のように僕は王子さまだ。娘をくるくる回す。すると次男がくっついておんぶをせがむ。長男がパンチを繰り出す。結婚はどこに行った。

 子どもの成長には脈絡が無い。こちらが気

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7月17日(土) 期末試験

7月17日(土) 期末試験

 本日まで期末試験でした。生徒は今日終業式で、明日から夏休み。生徒たちはマグマのようなテンションを抱えて試験と向き合いました。僕はそんな彼らを眺めながら監督し、午後からは採点開始です。

セミのなく声すら遠い教室は熱気渦巻く夏休み前
例えば君 投網で池を掬うように全ての範囲を復習してれば
問いを読めもう一度言う問いを読めその行その文字ああなぜ読まぬ

7月15日(木) ゴミ捨てと梅雨の月

7月15日(木) ゴミ捨てと梅雨の月

 昨年からゴミ捨てに次男(五歳)と娘(三歳)がついてくるようになった。置いていくと泣く。何が君たちを駆り立てるのだ。

 梅雨の時期を迎え、道ばたでカタツムリを見かけることが増えた。彼らは白いガードレールの上にいることが多く、そういうものたちは見つけやすい。五歳が見つけると喜んでつつき、落とす。

 雨は続く。晴れの日もある。ガードレール上でカタツムリを見かける日も見かけない日も経験した。夜の内に

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7月14日(水) 甑島今昔

7月14日(水) 甑島今昔

 昨日は観光地としての甑島について調べ、書いてみました。本日はもう少し具体的に、かつ多様な角度から甑島について調べてみようと思います。自分でもちょっと何をやっているのか分からなくなってきているところがありますけど。
 

1,甑島の現在 ー山下賢太さんのことー 甑島のレジャーを調べ始めるとまず出会うのが「こしきツアーズ」さん。  フェリーの乗船券から、宿泊、食事、レンタカー、そしてレジャー。すべて

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7月4日(日)僕のかき氷と崇徳院の秋

7月4日(日)僕のかき氷と崇徳院の秋

 街角でかき氷を買って食べた。地元の名物だが、昨年は食べられなかった。
 柔らかな氷に梅のシロップがたっぷりとかかる。シロップは思ったより甘みが抑えられており、刺激になら無い程度の酸味が涼やかさを増す。
 大きめのカップにあふれるほど盛られた氷だが、泡雪のように軽く、口をつければ冷えた空気を吸うほどの抵抗感しかないまま消えていく。旨い。

アステカの都で王が食べてたら多分神話になるこの氷



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7月3日(土)

7月3日(土)

 今日は梅雨らしい1日だった。朝から駐車場の屋根を叩く雨音が激しくて、驚いた妻がカーテンを開けた。
 あんまり雨が激しいといっそ清々しくなる。屋根も壁も木も花も、全部水に洗われて仕舞えば良い。雨上がりの直後はきっと、世界が一番綺麗な姿になるはずだ。

書を捨てて森に出かけよ世界中で一番綺麗な水を見つけに

 焼酎が無くなったので買いに行った。
 なじみの酒屋には、普段見かけない銘柄や夏だけ販売され

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7月2日(金)

7月2日(金)

 今日の夕ご飯はビビンバだった。

 チャーハン系が好きな長男、米なら何でも食べる次男はがっつく。しかし最近米を食べない娘は一口食べて吐き出して、妻と喧嘩した。きっと米の間にあるもやしが気に食わなかったんだと思う。
 怒った娘は僕の胸元に飛び込んでしゃくり上げる。文脈を無視して頬ずりする僕を妻は叱らない。僕を見上げる娘の瞳は涙で濡れていて綺麗だ。

つやつやの涙と君の唇がとがっているのと丸めたおて

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