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たまには ほんとうのことを はなしてみたいの
たまには ほんとうのことを はなしてみたいの
わたしが ひとり 眠りにつく 手前で 浮かぶ 言葉に ついて
たまには ほんとうのことを はなしてみたいの
わたしが 何十年も かけて 塗りつぶしてきた この黒目に ついて
たまには ほんとうのことを はなしてみたいの
わたしが あなたと 一緒にいる時の ことと わたしが あなたと 一緒に いない時の ことを
たまには ほんとうのことを はなして
タイムトラベルおばあちゃん
祖母が時間を旅するようになってから、きっと彼女は幸福だっただろうと思う。直線的な時間を生きているわたしたちからすれば縦横無尽なタイムトラベルをひとりでにやってのけてしまう祖母の幸福は妬ましく、煩わしいものであった。
祖母は彼女が生きたおよそ94年間を順不同に経験し直すことができた。新品の炊飯器のような少女がわたしたちを見つめたかと思えば、はじめて男に裏切られた時に世界もろとも呪い殺しかねない鋭さ
「サモエの嫁入り箪笥」第2話(最終話)
どれだけ眠っていただろうか。サモエはすでに暗くなりかかった夕ぼらけの中で重たい頭を持ち上げた。起きてすぐ体温がぶわっと上がって汗が滲んだ。暑くなったのでお水を飲みに井戸の方へと向かった。サモエの家から井戸へは少し歩いたところにある。サモエはふらふらと少しずつゆっくりゆっくり水を求めて歩いていった。これまでこんなにも疲れたことがあっただろうかという気がしてくる。なんだか狐にでも化かされている気分がす
もっとみる「サモエの嫁入り箪笥」第1話
部屋にはサモエと妹のワカ、坊主のカキヤ、そして仏様が一人。仏様は生前はアンといった。サモエの旦那だった。生まれてから心臓弁膜症という病気で、永くは生きられないとわかっていた。一昨日、吐血してすぐに亡くなった。突然の夫の死に接したサモエはテキパキと葬式の手筈を整え、手際よく段取りを進めた。サモエは仏となったアンを通夜の時からじっと眺めていた。カキヤの唱える般若心経は、子供の頃に聞いていたおばあちゃん
もっとみる走馬灯の支度をしながら
「ねぇ知ってる?かまくらって昔は四角だったらしいよ」
しん、と澄んだ空気をワコが吸い込むと喉の奥が急に冷却される。それを押し返すようにワコの体温で温められた空気が世界に戻っていく。それは一瞬、目に見える姿で現れてはすぐに消えていく。
「そうなんだ」
あたりはすでに真っ暗で、横切る人の顔も分からないだろう。カイはかまくらの外を眺めては時々行き交う人らしきそれを消えるまで見送っていた。
「かま