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ショーン・ペン『フラッグ・デイ 父を想う日』アメリカ、6月14日に生まれて

2021年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。前作『ラスト・フェイス』がカンヌで酷評されたショーン・ペンの5年振り新作。本作品はアメリカのジャーナリストジェニファー・ヴォーゲルによる回顧録『Flim-Flam Man: The True Story of My Father's Counterfeit Life』の映画化作品で、ジェニファーの父親で詐欺師の男をショーン・ペン本人が、主人公ジェニファーを娘のディラン・ペンが、そして彼女の弟を息子のホッパー・ペンが演じており、正に"家族"の映画であることが示唆される。映画は1992年7月、偽札印刷で捕まって罪状認否に現れなかったことから警察に追われている父について、ジェニファーが事情聴取を受ける場面で幕を開ける。そして、彼女は憧れていた父親について語り始める。

父ジョン・ヴォーゲルは明らかに問題のある人物である。保険金目当てに自分のバーガーショップに放火したり、銀行強盗をしたり、様々な犯罪を犯しながら、ジェニファーの前に現れては消える("父は自分が肯定されたいときだけ登場する"という言葉の重さ)。しかし、小言が多く、新しい恋人のレイプ未遂を見て見ぬ振りするような母親の下にいるくらいなら、衝動的だがショパンのノクターン(劇中で何度も登場)が好きな優しい父親に付いていきたい、或いは私が付いていかないなら他に誰が!という思いがジェニファーを突き動かし、結果的に親の愛を求めて彷徨うことになる。映画は再会→小さな成功→大きな失敗→離別というワンパターンを壊れたレコードのようにひたすら繰り返し、ボロボロになっても父親を信じたいジェニファーの心に寄り添い続ける。

撮影は前作と同じく(テレンス・マリックを念頭に置いたような)技巧的なショットで氾濫しているが、正直ショーン・ペンがこれまで出演や製作してきた中で身に付けた"画に対する感覚"にあまり近付けていないだけな気がする(それかセンスが合わないかどっちか)。前作はその中途半端さとアフリカの難民キャンプを舞台としながら白人にしか興味のない感じが最悪の形で融合してしまったわけだが、今回はそんなこともない。確かにナレーション過多だし、音楽もダサいし、物語も表面的なんだけども、映像表現/映画的表現のある種の未熟さはジョンの未熟さ、そしてジェニファーの未熟さへと繋がり、不器用な人々を不器用な映画で不器用に包み込む作品になっていた。空回りはしてるけど、映画に対する向き合い方はとても真摯で、斜に構えていないド直球の温かさを感じられる。この映画をバカにするのはあまりにも簡単だが、みんなが馬鹿にしているから馬鹿にしているように見受けられるレビューも結構あるので、それこそダサいのでは?と思ってしまう。

ショーン・ペンの人脈なのか、レジーナ・キング、ジョシュ・ブローリン、エディ・マーサンがカメオ出演している。最近はサノスがあまりにもジョシュ・ブローリンすぎたので、変な石を集めてない生身のジョシュ・ブローリンにもサノス感を感じてしまって困っているところ。

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・作品データ

原題:Flag Day
上映時間:108分
監督:Sean Penn
製作:2021年(アメリカ, イギリス)

・評価:70点

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