ユホ・クオスマネン『コンパートメントNo.6』フィンランド、一期一会の寝台列車
2021年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。前作『オリ・マキの人生で最も幸せな日』は初監督作品ながらカンヌ映画祭"ある視点"部門で作品賞を受賞し、次作となる今回はコンペ入りを果たした。本作品はフィンランドの作家ロサ・リクソムの同名小説を基にしているが、同作の時代設定がソ連崩壊前後だったのに対して、本作品ではその約10年後の90年代後半を舞台としている。カセットテープやビデオカメラ、公衆電話、ポラロイドなどが登場するが、それを"古いものが好きなんだね"と言及することから、全体として時代設定がいつなのかはフワフワし続けている。それは場所や時間を限定しない普遍的な意味での人間同士の出会いというテーマを強調する意味もあるが、登場する田舎町はある意味で時間が止まっているような環境なので、わざわざ時代を90年代後半にする意味を見出だせずにノイズのようにも感じてしまった。
1990年代後半のモスクワでハイソなパーティに参加するフィンランド人女学生ローラは大学教授イリーナと交際していたが、ムルマンスクまで洞窟壁画(ペトログリフ)を見に行く旅行は一人で行く羽目になってしまう。数日かかる寝台列車の同じ部屋になった男リョーハは鉱夫として働きに行く途中で、酒の臭いと煙草の煙の充満した密室で問題のある発言を繰り返す彼との道中をローラは悲観している(果たして金のない鉱夫が働きに出るだけで二等寝台に乗るのか)。しかし、あらゆるクリシェを身に纏った若きロシア人鉱夫は、その実普通の人間であることが、彼と過ごす数日のうちに朧気に見えてくる。本作品は列車で出会う男女の一期一会の出会いを描いた作品としてリチャード・リンクレイター『ビフォア・サンライズ』と比較されていることが多い。しかし、同作に続く二作を知っている我々からすると、本作品のビターな距離感は同じく寝台列車映画の大傑作イエジー・カヴァレロヴィッチ『夜行列車』に近い気がする。
ただ、リョーハから受ける不快な第一印象が悪すぎて、好転するまでに不自然なジャンプが何度か訪れる。それに、緩やかに惹かれ合う過程を100分かけて描いているので、明らかに間延びしている。爽やかなラストで打ち消されるには打ち消されるが、もう少しスッキリしていても良かったかなと。それでも十分に魅力的ではあるんだが。
・作品データ
原題:Hytti nro 6
上映時間:106分
監督:Juho Kuosmanen
製作:2021年(フィンランド, ロシア, ドイツ)
・評価:70点
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