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フランソワ・オゾン『苦い涙』ピーター・フォン・カントの苦い涙

2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。フランソワ・オゾン長編21作目。近年の縦横無尽なテーマ選びが今回も炸裂。本作品はオゾンのキャリアで二度目のファスビンダー原作の映画(一度目は『焼け石に水』)で、今回は『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』の映画化作品である。主人公はファスビンダー本人を模したペトラから、より本人に近いペーターもといピーターに変更され、それに伴って職業がファッションデザイナーから映画監督に変更されている他、恋人の名前もアミール・ベン・サレムとエル・ヘディ・ベン・サレムを想起させる名前に変更されている。ファスビンダーの内側に触れられないなら外側をファスビンダーにしちゃえ、ということである。事実、映画は脚本を辿っているだけという感じで、その裏にあるはずのエモーションをあまり感じなかったのだが、巨漢ドゥニ・メノーシェが演じることでオスカー・レーラー『異端児ファスビンダー』とかをしっかり思い出したので、変更は結構観客側の補正には有利に働いていると思うなど。それにしても、元々の『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』出演者であるハンナ・シグラの登場はアツい。前作『すべてうまくいきますように』での登場が伏線だったのか?そういや、シグラは『異端児ファスビンダー』には名前の使用許可すらださず、レーラーは当て付けのように"『マリア・ブラウンの結婚』でスターになったマルタ・ヴィチュレックよ"とか言わせてたのを思い出した。あと、ドゥニ・メノーシェってあの体躯に似合わず、簡単にやられることが多い。アミールなんかタックルしたら吹っ飛ばせるだろ!!!

・作品データ

原題:Peter von Kant
上映時間:85分
監督:François Ozon
製作:2022年(フランス, ドイツ)

・評価:70点

・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . カルラ・シモン『Alcarràs』スペイン、ある桃農家一族の肖像
2 . カミラ・アンディニ『ナナ』1960年代インドネシアにおけるシスターフッド時代劇
3 . クレール・ドゥニ『愛と激しさをもって』生まれ変わった"私たちは一緒に年を取ることはない"
6 . リティ・パン『すべては大丈夫』リティ・パンはお怒りのようです
7 . パオロ・タヴィアーニ『遺灰は語る』兄ヴィットリオ・タヴィアーニに捧ぐ物語
8 . ウルスラ・メイエ『The Line』スイス、トキシックな家族関係について
9 . ホン・サンス『小説家の映画』偶然の出会いの連なり
11 . ミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』人生の中で些細な瞬間を共有すること
12 . フランソワ・オゾン『苦い涙』ピーター・フォン・カントの苦い涙
13 . ミヒャエル・コッホ『A Piece of Sky』スイス、変質していく男と支え続ける女
14 . アンドレアス・ドレーゼン『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』ラビエ・クルナズと国家の1800日戦争
15 . リー・ルイジュン『小さき麦の花』中国、花と円形は愛のしるし
16 . ウルリヒ・ザイドル『Rimini』"父親"を拒絶し、"父親"となる歌手の兄
17 . ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語
18 . ドゥニ・コテ『That Kind of Summer』カナダ、性欲過剰者の共同生活から何が見えるか

★エンカウンターズ部門選出作品
1 . アルノー・ドゥ・パリエール『American Journal』フランス、独り善がりなシネマエッセイ
3 . Jöns Jönsson『Axiom』ドイツ、嘘とパクリで構成された人生
4 . Syllas Tzoumerkas&Christos Passalis『The City and the City』テッサロニキとユダヤ人の暗い歴史
5 . ベルトラン・ボネロ『Coma』停止した"現在"は煉獄なのか
7 . Kivu Ruhorahoza『Father's Day』ルワンダ、"父親"を巡る三つの物語
11 . アシュリー・マッケンジー『Queens of the Qing Dynasty』カナダ、"期限切れ"の未来
13 . 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』聾唖のボクサーの日記

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