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ドゥニ・コテ『That Kind of Summer』カナダ、性欲過剰者の共同生活から何が見えるか

2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。3人の性欲過剰の女性を集め、二人のセラピストと共同生活をする中で、彼女たちの問題に寄り添う?話。ドゥニ・コテはこれで3本目だが、どうも浅いところを只管グルグル回って煙に巻く感じのヌルい映画を撮る人という印象で、本作品はそれが悪い方に作用していると思う。というのは、冒頭でセラピストの言う"あなたたちは病気ではないので治療するわけではない"という言葉を忠実に守って、自慰に耽ったり、トラウマを語ったり、共同生活から抜け出して近所の男たちと見境なくセックスしたりする三人をただ並べているだけなのだ。一応、もう一人のセラピストで唯一の男性であるサミから問題は彼女たちの"自尊心の低さにある"との指摘があり、それを裏付けるような過去や現在のエピソードが並べられていて、彼女たちが自発的に気付いて変化するのを優しく促しているようでもあるのだが、そもそもその静かな寄り添いには気付けないからこうなっているのでは?と。そのせいで、寄り添うことにも興味がなさそうで、過激な描写だけが前景化してくる。例えば、参加者の一人レオニーは過去に父親から性的虐待を受けていて、それを告白する際に"乾いた精液の感触が好き"みたいなことを言うわけだが、セラピストは"そうなんだ"とだけ返して終わってしまい、なんなら緊縛の映像まで付け加えるという意地の悪さを見せる。なにがしたいかまるで意味が分からん。

・作品データ

原題:Un été comme ça
上映時間:137分
監督:Denis Côté
製作:2022年(カナダ)

・評価:40点

・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . カルラ・シモン『Alcarràs』スペイン、ある桃農家一族の肖像
2 . カミラ・アンディニ『ナナ』1960年代インドネシアにおけるシスターフッド時代劇
3 . クレール・ドゥニ『愛と激しさをもって』生まれ変わった"私たちは一緒に年を取ることはない"
6 . リティ・パン『すべては大丈夫』リティ・パンはお怒りのようです
7 . パオロ・タヴィアーニ『遺灰は語る』兄ヴィットリオ・タヴィアーニに捧ぐ物語
8 . ウルスラ・メイエ『The Line』スイス、トキシックな家族関係について
9 . ホン・サンス『小説家の映画』偶然の出会いの連なり
11 . ミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』人生の中で些細な瞬間を共有すること
12 . フランソワ・オゾン『苦い涙』ピーター・フォン・カントの苦い涙
13 . ミヒャエル・コッホ『A Piece of Sky』スイス、変質していく男と支え続ける女
14 . アンドレアス・ドレーゼン『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』ラビエ・クルナズと国家の1800日戦争
15 . リー・ルイジュン『小さき麦の花』中国、花と円形は愛のしるし
16 . ウルリヒ・ザイドル『Rimini』"父親"を拒絶し、"父親"となる歌手の兄
17 . ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語
18 . ドゥニ・コテ『That Kind of Summer』カナダ、性欲過剰者の共同生活から何が見えるか

★エンカウンターズ部門選出作品
1 . アルノー・ドゥ・パリエール『American Journal』フランス、独り善がりなシネマエッセイ
3 . Jöns Jönsson『Axiom』ドイツ、嘘とパクリで構成された人生
4 . Syllas Tzoumerkas&Christos Passalis『The City and the City』テッサロニキとユダヤ人の暗い歴史
5 . ベルトラン・ボネロ『Coma』停止した"現在"は煉獄なのか
7 . Kivu Ruhorahoza『Father's Day』ルワンダ、"父親"を巡る三つの物語
11 . アシュリー・マッケンジー『Queens of the Qing Dynasty』カナダ、"期限切れ"の未来
13 . 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』聾唖のボクサーの日記

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