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パオロ・タヴィアーニ『遺灰は語る』兄ヴィットリオ・タヴィアーニに捧ぐ物語

2022年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。兄ヴィットリオ・タヴィアーニ亡き後に弟パオロの撮った一作。ノーベル文学賞受賞者ルイジ・ピランデッロの遺灰を巡る物語で、遺灰目線の物語なのでもはや『EO』と言っても過言ではない。遺灰移動が終戦直後ということもあってか、アメリカの軍用機が登場したり、復員兵とドイツ人少女のカップルが登場したり、酔っ払った駐留アメリカ軍兵士に悪態をつくシーンがあったりするんだが、途中から誰の遺灰かすらもどうでもよくなってくる。冒頭で"兄ヴィットリオに捧ぐ"とある通り、本作品はピランデッロよりもヴィットリオの方を向いている気がする。そう考えると、冒頭で病床に伏せるピランデッロが子供たちを見ているシーンや、シチリア島での葬儀で参列客が笑ってるのも、密かに遺灰を持ち出して海に撒くのも、全部ヴィットリオを透かし見ているような気もしてくる。すると、ピランデッロの遺作短編の映像化作品が唐突に始まる。"定めなんだ"と言って喧嘩していた少女を釘で刺殺した少年の物語だが、ここにも去ってしまった者を記憶することというテーマが絡んでくる、気がする。寄り道が多くて散漫としている感じはするが、それを自由さと捉えることも可能か。狐につままれたような気分。ちなみに、遺灰映画というと真っ先にドゥニ・ヴィルヌーヴ『渦』を思い出す。溢れた遺灰は掃除機で吸って元通りという、所詮は物質ですという無情さ。

・作品データ

原題:Leonora addio
上映時間:90分
監督:Paolo Taviani
製作:2022年(イタリア)

・評価:50点

・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . カルラ・シモン『Alcarràs』スペイン、ある桃農家一族の肖像
2 . カミラ・アンディニ『ナナ』1960年代インドネシアにおけるシスターフッド時代劇
3 . クレール・ドゥニ『愛と激しさをもって』生まれ変わった"私たちは一緒に年を取ることはない"
6 . リティ・パン『すべては大丈夫』リティ・パンはお怒りのようです
7 . パオロ・タヴィアーニ『遺灰は語る』兄ヴィットリオ・タヴィアーニに捧ぐ物語
8 . ウルスラ・メイエ『The Line』スイス、トキシックな家族関係について
9 . ホン・サンス『小説家の映画』偶然の出会いの連なり
11 . ミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』人生の中で些細な瞬間を共有すること
12 . フランソワ・オゾン『苦い涙』ピーター・フォン・カントの苦い涙
13 . ミヒャエル・コッホ『A Piece of Sky』スイス、変質していく男と支え続ける女
14 . アンドレアス・ドレーゼン『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』ラビエ・クルナズと国家の1800日戦争
15 . リー・ルイジュン『小さき麦の花』中国、花と円形は愛のしるし
16 . ウルリヒ・ザイドル『Rimini』"父親"を拒絶し、"父親"となる歌手の兄
17 . ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語
18 . ドゥニ・コテ『That Kind of Summer』カナダ、性欲過剰者の共同生活から何が見えるか

★エンカウンターズ部門選出作品
1 . アルノー・ドゥ・パリエール『American Journal』フランス、独り善がりなシネマエッセイ
3 . Jöns Jönsson『Axiom』ドイツ、嘘とパクリで構成された人生
4 . Syllas Tzoumerkas&Christos Passalis『The City and the City』テッサロニキとユダヤ人の暗い歴史
5 . ベルトラン・ボネロ『Coma』停止した"現在"は煉獄なのか
7 . Kivu Ruhorahoza『Father's Day』ルワンダ、"父親"を巡る三つの物語
11 . アシュリー・マッケンジー『Queens of the Qing Dynasty』カナダ、"期限切れ"の未来
13 . 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』聾唖のボクサーの日記

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