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Kivu Ruhorahoza『Father's Day』ルワンダ、"父親"を巡る三つの物語

2022年ベルリン映画祭エンカウンターズ部門選出作品。ルワンダで活動するKivu Ruhorahozaの長編四作目。本作品では、現代ルワンダを舞台に三人の"父親"の物語が交錯していく。一つ目は最近息子を事故で亡くしたばかりの母親を中心に語られる。彼女はマッサージ師として働いており、仕事に行けばクソ客からセックスしないかと誘われ、家に帰ると無謀なチャレンジばかり繰り返して負債を大量に抱えているバカ夫が、仲間に仕事内容を言えないという理由でマッサージ師の仕事にケチをつけてくる。二つ目は肺移植を必要とする老父を介護する若い女性を中心に語られる。病院では彼女そっちのけで、彼女が父親に臓器提供する話が進んでおり、インドでの手術関連の手続きなんか全て終わっていた。しかしこの父親、1994年の内戦で虐殺に関わった人物であり、娘は父親を生かす必要性を感じていない。三つ目は泥棒の父親に厳しい指導を受ける少年を中心に語られる。ブルジョワ宅から犬を盗んでは道端で転売する父親に対して、小さな息子は適当な理由を付けて犬を戻している。それぞれが毒々しく、かつ根深く残る"父親"によって苦しめられているわけだが、本作品においてはそれらの破壊や解決ではなく、それらに縛られている人々が人生を模索するという構成になっている。冒頭の、真っ暗な道路を転がってきたデカいタイヤとローラースケート少年が正面衝突するシーンなどに代表される、静謐で省略的な語り口が続けば面白かったと思うが、動きのない画面でひたすら喋ってるだけなのは流石に退屈だった。それでも、介護してる女性がマッサージ師の店を訪れて世間話しているシーンみたいに、何気ない会話によって、八方塞がりな主人公たちが徐々に心を開いていくというのは良かった。

・作品データ

原題:Father's Day
上映時間:111分
監督:Kivu Ruhorahoza
製作:2022年(ルワンダ)

・評価:60点

・ベルリン国際映画祭2021 その他の作品

★コンペティション部門選出作品
1 . カルラ・シモン『Alcarràs』スペイン、ある桃農家一族の肖像
2 . カミラ・アンディニ『ナナ』1960年代インドネシアにおけるシスターフッド時代劇
3 . クレール・ドゥニ『愛と激しさをもって』生まれ変わった"私たちは一緒に年を取ることはない"
6 . リティ・パン『すべては大丈夫』リティ・パンはお怒りのようです
7 . パオロ・タヴィアーニ『遺灰は語る』兄ヴィットリオ・タヴィアーニに捧ぐ物語
8 . ウルスラ・メイエ『The Line』スイス、トキシックな家族関係について
9 . ホン・サンス『小説家の映画』偶然の出会いの連なり
11 . ミカエル・アース『午前4時にパリの夜は明ける』人生の中で些細な瞬間を共有すること
12 . フランソワ・オゾン『苦い涙』ピーター・フォン・カントの苦い涙
13 . ミヒャエル・コッホ『A Piece of Sky』スイス、変質していく男と支え続ける女
14 . アンドレアス・ドレーゼン『クルナス母さんvs.アメリカ大統領』ラビエ・クルナズと国家の1800日戦争
15 . リー・ルイジュン『小さき麦の花』中国、花と円形は愛のしるし
16 . ウルリヒ・ザイドル『Rimini』"父親"を拒絶し、"父親"となる歌手の兄
17 . ナタリア・ロペス・ガヤルド『Robe of Gems』メキシコ、奇妙に交わる三人の女性の物語
18 . ドゥニ・コテ『That Kind of Summer』カナダ、性欲過剰者の共同生活から何が見えるか

★エンカウンターズ部門選出作品
1 . アルノー・ドゥ・パリエール『American Journal』フランス、独り善がりなシネマエッセイ
3 . Jöns Jönsson『Axiom』ドイツ、嘘とパクリで構成された人生
4 . Syllas Tzoumerkas&Christos Passalis『The City and the City』テッサロニキとユダヤ人の暗い歴史
5 . ベルトラン・ボネロ『Coma』停止した"現在"は煉獄なのか
7 . Kivu Ruhorahoza『Father's Day』ルワンダ、"父親"を巡る三つの物語
11 . アシュリー・マッケンジー『Queens of the Qing Dynasty』カナダ、"期限切れ"の未来
13 . 三宅唱『ケイコ 目を澄ませて』聾唖のボクサーの日記

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