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Leida Laius『The Master of Kõrboja』エストニア、湖が導く出会いと別れ

レイダ・ライウス(Leida Laius)長編四作目、初のカラー作品。A・H・タンムサーレによる同名小説の映画化作品。クルボヤ農場の一人娘アンナが都会から帰ってきた日、泥酔して人を殺して収監されていたヴィルも村に戻って来る。アンナの父ラインが彼女を呼び寄せたのは、多くの人が去って運営すら危うくなりそうなクルボヤ農場の行く末を娘に決めてもらうためだった。結婚して新たな農場主を擁立するか売り払うか。そこで彼女が目をつけたのがかつての友人で、お勤めを経て妙にやる気になったヴィルだったのだ。ヴィルは、戦争で亡くなった兄の代わりに棚ぼたでカトゥク農場の相続権を手に入れるも、現当主である父親からは激しく見下されていた。カトゥク農場はクルボヤ農場と土地買収問題でいざこざがあってから犬猿の仲だったので、当然ヴィルの恋人エーヴィがクルボヤ農場の元メイドという出自にヴィルの父親が納得するはずもない。その上、カトゥク農場の最も肥沃な場所には岩が転がっていて、まともに耕作できる環境ではなかった。ヴィルの父親は諦めきった旧世代の象徴のような存在だが、それでもヴィルは父親に認めてほしいと足掻き続ける。アンナがそんな状態のヴィルに執着する理由は"ずっと前から好きでした♡"の一点張りなので、登場人物と観客とでかなりの温度差はあるんだが、ズボンを履いて農地へ赴く都会人アンナは田舎では異質であり、そんな彼女すら"農場主"を擁立しないと農場経営すら許されない伝統規範が彼女に伸し掛かっていることを考えると、田舎に馴染めない二人が近付くのは必然という気もする。これまでの作品でも『The Milkman of Mäeküla』のトヌや『Werewolf』のマルグスのように、優柔不断な男たちを描いてきたわけだが、本作品ではヴィルの内面が丁寧に描かれている。終盤はほぼアンナとの押し問答だったが、丁寧に描かれてきたからこそ、単純な返答にも苦悩が滲み出ていることが分かる。また、カラー作品ということで、季節の変化を色で捉える試みも成功している。夏から秋に時間が流れていく中で、必然的に近付く冬と死が重なっていく。また、基本的に重要なことは全て湖の傍で起こっていることもあって、森の包み込むような温かさも感じられた。『Werewolf』で恐ろしいモノクロの森を作り上げた人とは思えない。DPはアゴ・ルースであり、翌年に『Bumpy』を撮ってるのも納得しかない。

・作品データ

原題:Kõrboja peremees
上映時間:88分
監督:Leida Laius
製作:1980年(エストニア)

・評価:70点

・レイダ・ライウス その他の作品

Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
★ Leida Laius『The Master of Kõrboja』エストニア、湖が導く出会いと別れ (1980)
Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)

・エストニア映画TOP10 とその他の作品

1 . Arvo Kruusement『Spring』エストニア、真実を語りたがる悪党はいない (1969)
2 . Kaljo Kiisk『Madness』エストニア、精神病院にいる英国のスパイは誰だ? (1969)
3 . Peeter Simm『The Ideal Landscape』エストニア、種蒔きが…終わりません!! (1981)
4 . Grigori Kromanov『The Last Relic』ロビン・フッド、エストニアの大地を駆ける (1969)
5 . Sulev Keedus『Georgica』エストニア、見捨てられた孤島で二人… (1998)
6 . Kaljo Kiisk『The Adventurer / Happy-Go-Lucky』エストニア、世界の支配者ニペルナーディ (1983)
7 . Grigori Kromanov『Dead Mountaineer's Hotel』密室ホテル殺人事件、光と闇のSFノワール (1979)
8 . Leida Laius & Arvo Iho『Games For Schoolchildren』エストニア、孤児院に生きる少年少女たち (1985)
9 . Grigori Kromanov & Jüri Müür『The Misadventures of the New Satan』悪魔よ、人間が救済するに足る存在と証明せよ (1964)
10 . Olav Neuland『Nest of Winds』エストニア、世界に翻弄される農夫の絶望 (1979)

♪ その他のエストニア映画 ♪ (公開年順)
Leida Laius『The Milkman of Mäeküla』エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路 (1965)
Kaljo Kiisk『The Midday Ferry』ある日、燃え上がるフェリーにて (1967)
Veljo Käsper『Postmark from Vienna』エストニア、切手を巡る"真実"ゲーム (1968)
Leida Laius『Werewolf』エストニア、陽光の煌めきと幻惑の森 (1968)
Virve Aruoja & Jaan Tooming『Colorful Dreams』エストニア、カティのワンダーランドを垣間見る (1975)
★ Leida Laius『The Master of Kõrboja』エストニア、湖が導く出会いと別れ (1980)
Helle Karis-Murdmaa『Bumpy』エストニアの"ヘンゼルとグレーテル"は平和を訴える (1981)
Peeter Simm『Arabella, the Pirate's Daughter』海賊の娘、善悪を知る (1982)

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ライナル・サルネ『The Idiot』全時代へ一般化されたエストニアの"白痴"
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ヴェイコ・オウンプー『Autumn Ball』エストニア、タリンの孤独な人たち

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