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「南風の頃に」 第三部 3 札幌地区大会第二日目
札幌地区大会の二日目が始まった。
「私は昨日ベストに近いの跳べたから、あとは智子に任せるからね。頼むね!」
山野紗季はこの日に行われる走り高跳び予選を棄権した。
混成競技と単独種目とを掛け持ちするのは難しい。特に今回は同じ日に重なってしまい、五種目目の走り幅跳びとも時間が一部重なってしまった。でもそれ以上に山野紗季は七種競技にハマりかけていたかもしれない。
幅跳びは今まで体育の時間でしか経験
「南風の頃に」 第三部 2 高体連札幌地区大会
サブトラックの白線がクッキリと浮かび上がり、やわらかな日差しが漸くあたりを照らし始めた。6月を迎えたばかりの厚別競技場の上空には薄い雲が広がり、行楽日和を喧伝したテレビの天気予報とは違っていた。8時を過ぎるころからやっと青空がのぞき始めたところだった。高校総体札幌地区予選の初日を迎え、南ヶ丘高校陸上部は新入生の12人を加えて総勢31人による一年間の始まりの日となった。
卒業した大迫さんや山野憲輔
「南風の頃に」 第三部 1・覚 醒~陸上部強化大作戦~
9月中旬に行われた全道新人陸上で、中川健太郎は1500mを4分4秒34で三位になった。小椋高校の外国人留学生が3分台の記録を出し圧倒的に速かった。
何年も前から駅伝を中心に活動しているこの高校では、外国人留学生としてケニアやエチオピアといった長距離王国から高校生の年代の選手を留学生という形で「輸入」していた。日本国籍を持たない彼らの力は記録として残るよりも、勝負としては学校の名を高め、本人たち
「南風の頃に」第二部 8 中鉢誠子
川相祥子に勧められた『書道パフォ』の日、野田賢治が武部と川相智子と三人で北園高校体育館についたのは午後1時過ぎのことだった。大きなカメラバッグの中に二台もの一眼レフカメラと大口径レンズを詰めこんだ武部は、筋トレ中のヤセすぎ君の表情をしていた。地下鉄の階段を駆け上ったまでは予定通りだったけれど、三人とも初めての街並みに道順が分かっていなかった。スマホのアプリを睨みながらやっとたどり着いたときには電
もっとみる「南風の頃に」第二部 7 山野紗季
山野紗希が珍しくバーを越える練習をしている。いつもは踏切から跳び上がるところまでなのに今日はマットを敷いてクリア練習を熱心にやっている。札幌地区新人戦が近づいて練習の質が変わってきた。いや、練習だけじゃなく、彼女の表情もいつも以上に真剣に感じた。彼女は全道大会で南ヶ丘唯一の全国大会出場資格を得たのだが、全国大会にはいかなかった。上野先生が自分の高校の選手と一緒に引率できるからと翻意を促しても、彼女
もっとみる「南風の頃に」第二部 6 高松 恵
「おれさ、新聞部に入ることにした。」
ついこの間テニスの全市大会で活躍できなかった話を教室中にバラまいていた武部がそう話し始めた。
昼休みの教室は慌ただしく人が動き周り、昼食を長い時間かけて食べている女の子達が車座になっておしゃべりに夢中になっている。弁当を食べているのかしゃべっているのかわからないくらいに盛り上がっているいつものメンバーだ。僕の弁当は3時間目が終わる頃にはなくなっていて、さっき武
「南風の頃に」第二部 5・マンナン
「あそこ、行ったことある、僕、道案内する」
相変わらずのET言葉を発しながら、珍しく張り切って前を歩いていた健太郎のスピードが落ちた。いつの間にか戻ってきて三人の後ろに隠れるようにしている。みんなが健太郎を振り返るのと同時に声がした。
「オーオ、ナッカガワー、じゃーねーのー」
妙に間延びした、喜びとも驚きとも思えるねばっこいしゃべり方だ。
前に視線を戻すと、両手をポケットに突っ込んで、紺のブレザ