道産子太郎と花子の『老いの小文』 第一話
第一話 『笈の小文』
太郎:……というわけで始まりました!「道産子太郎と花子の『老いの小
文』」でございますけどもね……。
花子:何ですかそれ?
太郎:いや、ですからね、その……「トーク」ですよ。今日から僕たち二人
でね、ほら毎日テレビ見ていろいろ話してるじゃないですか……。
花子:そうね、いつもいつもテレビ見ながら文句ばっかり言ってるよね。
太郎:いやいや、文句って言いますけどね、自分が生きて来た中で身に着
けた常識ってあるべさ。その常識からみてね、変だよそれっていうこ
とをさ、口に出してるだけでしょう。
花子:んんん、うーん、だからそれを世間ではね、文句っていうんですよ
「おじいさん!」
太郎:なんだよ、自分だっておばあさんでしょうが!
花子:違うわよ!まだ孫の一人もいないんだから、お婆さんじゃありません
から。
太郎:じゃあ、俺だってさ、おじいさんじゃないだろうさ!
花子:そのね、発想の仕方がね、お爺さんだっていうの。
太郎:しょうがねえべさ、もう60過ぎてんだから。
花子:ほら、立派なおじいさんじゃないの。まあ、どっちにしたってアラフ
ィフとアラカンの二人でしかないけどね。
太郎:アラフィフってあんたさ、もう50からうんと離れたんだから、なん
ぼ50代だからってアラフィフのわけないでしょうに。立派なアラカン
だって。
花子:えー!じゃあ、あんたと同じ仲間ってわけ?
太郎:いやさ、実はつい最近気が付いたんだけどね、俺はもう60代半ば過ぎ
ちゃったからさ、アラカン卒業してさ、「あらコキ?」かな。
花子:何なのそれ「あらコキ?」って? 聞いたことないよー。
太郎:いやいや、そんな言葉はないんだろうけどさ、60歳は還暦で70歳は
古希っていうからさ。還暦よりちょっとだけ古希に近くなってきたか
らね、「あらコキ」かなーと思ってさ。
花子:なんか語呂が悪くない。変な奴みたいでしょ。まあ、ある意味変な奴
だからいいか。まあ、どっちにしても「爺さんと婆さんのひま人トー
ク」ってことでしかないわけね。
太郎:まあ、そういうことでいいんジャネ!
花子:言葉だけ若いふりしてもさ、髪の毛は真っ白だって。
太郎:いや、その髪の毛真っ白だってさ、若者の中で流行ってるっしょ!
花子:なんかいきなり、北海道弁になってる。
太郎:テレビ見てるとさ、今の若い子たち……って、本当は幾つなんだか知
らないけどさ、みんなね、髪の毛は白も黄色もピンクも、もうほんっ
とにレインボ―だし、顔の色はまっちろでしょ。なんか気持ち悪くな
い? 男がああいう状態だってのはどうなのさ。
花子:馬鹿だね、あれはね「BTS」って知ってる? 韓流のグループで世界的
に人気になっているっていう男の子のグループ。あの人たちの真似し
てるんですよ。
太郎:なんでそんなの真似しなきゃなんねえのさ。日本人でしょに。あんな
に顔色が白いってオカシクネ!
花子:だから、あんたがそんな若者言葉使っても似合わないからやめなさい
って。その言葉はね、あの子たちが使うから許されるの。韓流の真似
するのだってさ、なんか特徴出さなきゃね、目立たないっしょ!たい
して特徴ないんだし、芸能人は目立たなきゃ売れないんだから。いい
んじゃないの! かえってかわいらしいっしょ! 汚らしい恰好のよ
り、よっぽどいいと思うけど。
太郎:でもよあれって、どうやって白くしてんだ? 昔のさ、花魁とか舞妓
さんのね、おしろいとは違うわけでしょうに。
花子:時代が違うでしょうに。男性用化粧品がいっぱいあるんですよ。若い
子たちはみんなそこにお金使ってるんですよ。だからかわいい子がい
っぱい増えてるんですよ。いいじゃないそれで。
太郎:車に金かけてた時代とは違うわけだ。今の子たち車持ってないのが多
いらしいしな。免許も持ってないのかな? 車見てわくわくしたりす
ることないのかな? 自分が運転してどこでも行けるっての楽しいと
思わないんだべか?
花子:免許もね、「オートマ限定免許」だよ! うちの子たちもそうだった
し。
太郎:オートマだとさ、坂道発進とかも楽になったよな。俺なんか冬に免許
取ったからさ、雪の積もった坂道発進なんか何回もバックしてしまっ
て、まいったもんだけどね。
花子:スタートの時にさ、よくノッキングしてたよね。クラッチつなぐのタ
イミングわかんなかったもんね。
太郎:だけど逆にさ、クラッチあった方がさ、踏み間違いとか少なかった気
がするけどね!最近やたらと多いっしょ、ブレーキとアクセル踏み間
違えちゃうの……。
花子:そうそう、高齢者ばっかりだしね。あれってやっぱりオオトマ車だか
ら多くなったんだろうさね。あんたも……そろそろ?!
太郎:何言ってんの、俺なんかまだまだ元気いっぱいだっての。
花子:そう言っても「あらコキ」じゃあねえ。
太郎:年齢じゃねえっての。個人差いっぱいなんですよ、こういうのはさ。
見た目は爺さんでも中身はまだまだ元気、判断もまとも!!
花子:まあ、運動神経だけはよかったかな。昔はね!
太郎:まだまだだって。
花子:でも、実際に事故起こしちゃう人たちもさ、おんなじ感覚だったのか
もしれないぞ!
太郎:なんだよ、偉そうによ! そこまで言うんだったらもうドライブ行か
ねえぞ。
花子:それって最近の唯一の楽しみじゃないのさ!それなくなったら、一緒
にいる意味ないじゃないのさ!
太郎:俺は「アッシー君か!?」
花子:あのね、そんな言葉はね、もう死語ですって!
太郎:「死後?」……まだ立派に生きてるっしょ。
花子:もうなんだか意味わかんなくなったから今日はもうやめましょうよ。
ああっと、その前にさ、なんでこのタイトル「太郎と花子」なのさ?
ちゃんと名前出すわけにはいかないのわかるけどね、「花子」ってあ
んた、おおざっぱすぎない?「太郎」だって……。
太郎:いやー、これこそさ、代表的な日本人的名前でしょうが。一家の長男
は太郎でね、女の子は花子。ジスイズニッポンって感じでしょうが。
花子:それにしたってもっとなんか気の利いた名前ないのかなあ。
太郎:あんたさ、中学の時の英語の教科書覚えてる? 「トムとジェリー」
じゃないや、「トムとスージー」じゃなかった?
花子:ずいぶん古いこと覚えてるんだ。……わたしは、多分「ジャックアン
ドベティー」だったような気がするけど。
太郎:お前それはなんかのメーカー名とかグループ名とかじゃないのか。
花子:昔過ぎて覚えてないって。
太郎:まあどっちにしてもさ、「トムとスージー」だってね、アメリカさん
のね「太郎と花子」みたいな定番の名前なわけでしょ。だからね、こ
のタイトルもこれでいいんですよ。それともさ「時事放談」っていう
昔のテレビ番組があったんだけどね、別名「じじい放談」って言われ
てたみたいにさ、「ジジババ放談」にしますか?
花子:「時事放談」ってうちの父親見てたやつだわ。すんごい前の番組でし
ょう。日曜の午前中だったような気がするけど。
太郎:たしかさ、「細川さんと藤原さん」っていう評論家の方々がズバッと
世相を切って!というかなんでもはっきり言いきっている番組だった
と思うけどね、そこまで専門的で深い話はできないけどさ、普通の人
たちだって世の中のこと考えてるんだってこと知らせたいじゃない。
だからさ、俺たちもさ、そんな雰囲気でやってみない「ジ
ジババ放談」
花子:「ジジババ……」よりはいいかもね。でもさ、私はあんたとは考え方
違うからね。それでいいよね。
太郎:もちろんでございますよ。同じ考えの人が話してたって面白くないで
しょう。漫才だってさ、違う方向を見てる二人がやり取りするから面
白いんだし。それでいきましょうよ。
花子:なんだ、結局漫才やりたいわけなんだ。
太郎:まあまあ、そこのところはどうなるかわからないけどさ、本音をね、
ちょっと柔らかくオブラートに包んだふりして「放言」してみること
にしたいね。
花子:まあしょうがないかな。外は雪がいっぱいでドライブもいけないし
ね。雪かきの間に「じじばばトーク」やってみましょうか。
太郎:というわけで「道産子太郎と花子の『笈の小文』」1回目の終了で
す。2回目以降どんな話題がどのタイミングで「放言」されるか予想
できませんが、耳障り、目障りでなければご覧ください。
では、雪の北海道から……、また今度。
花子:ちょっとちょっと、待った待ったー。
太郎:なんだよここまで来て、何を待てって?
花子:いや、何にも説明ないからさ。このタイトル?『笈の小文』って何な
のさ?
太郎:あれっ? 言ってなかった? だからさ「笈」とね「老い」をかけて
ね、ちょっと洒落てみたわけよ。
花子:いや、だから「老い」は分かるよ。ジジババだからね。でもその
「笈」ってのは何なのって?
太郎:あらあら、「笈の小文」ってあの有名な芭蕉先生の紀行文をご存じあ
りませんでしたか。困りましたねー。
花子:芭蕉と言えば「奥の細道」でしょ?
太郎:いやー、芭蕉先生はね、たくさん旅してるんですよ。最大の旅が白川
の関を越えた「奥の細道」ですけどね。その前に大阪周辺を旅した時
の紀行文が笈の小文なんですねー。でさ、芭蕉の紀行文には珍しくね
「評論」的な文章が挟まれてるんですよね。だから、ちょっとそのあ
たりのこと含めてね、真似てみたってえことよー。
花子:あららら、ついに江戸時代の人になっちゃって……。まあいっかー。
どうせ暇なんだから二人とも。いつものようにテレビ見て文句聞いて
ればいいわけでしょ。
じゃあ、ほんとに今日はここまでってことで。じゃあねー!
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