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季語哀楽

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季語をテーマにした投稿まとめ。 365日が目標。
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2021年3月の記事一覧

踏青

踏青

素足に感じる青草の感触が、魂を揺さぶる。

土が薫り立つ。

新緑に染まる虹彩、

葉擦れの音に包まれる。

青き踏む。

足裏で繋がった、
この星に早送りで生きる私たちへ。

大きく息を吸う。

全身で、
春を味わう。

踏青(とうせい)

*******
春の野山で青草を踏む「踏青」は、「野遊び」や「摘草」つながる、中国の古い信仰行事のひとつだそうです。

下記ウェブサイトで紹介されているHA

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木の芽時

木の芽時

春になり、いろいろな樹々が芽吹く頃。
華やぐ季節の一方で、
その変わり目は古くから心身の調子が乱れやすいとされている。

悪い芽も顔を出しているだけだとしたら。
養分が無ければ枯れるかもしれないし、
花まで咲かせてみたら意外と美しいのかもしれない。

悪い芽も顔を出しているだけだとしたら。
それに「木の芽時」という名前を与えて
この時期のせいにしてしまえばいい。

例えどんなに想っても
永遠などは

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雪の果

雪の果

雪の果(はて)。

実るは華やかな真白のレース編み。
銘々の結晶が身を寄せあって
手を伸ばしてはゆらゆら揺れる。

冬は終わりと雪が凪ぎ、
春がふわりと雪柳。

枝垂れ白波、狂咲きランウェイ。

遥か彼方にこれが最後と雪が舞う。

最果てにて、
生まれ変わるのなら。

雪の果(ゆきのはて)

鳥曇

鳥曇

3月〇日 花曇(はなぐもり)
風は生暖かく、空は霞んで曇りがち。
太陽には暈(かさ)がかかっていた。
明日も広く桜の花びらが降るでしょう。

3月×日 鳥曇(とりぐもり)
渡り鳥が北へ帰っていくのが見えた。
波は穏やか。雲居に紛う。
あっという間に消えちゃって、曇り空と僕だけが残される。

3月△日 風曇(かぜぐもり)
ふううん、じゃないよ。かぜぐもり。
僕が付けた造語なので悪しからず。
換気扇が

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蝶の昼

蝶の昼

今日は、外にも出ずゆったりと家で過ごした。
洗濯機を回したり、食事のためのご飯を作ったり、溜まっている本を読んで、眠くなったら昼寝する。良い休日だ。

日常は他人とのしがらみが多すぎる。
意志の弱い私は、大して行きたくもない誘いを断り切れず、自分の時間を切り売りしては、理由を付けて何とかそれに意味を見出そうする。どこかしらエンターテイナー気質な私としては、フットワークの軽さが売りではあるのだが、人

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春夕焼

春夕焼

春夕焼(はるゆやけ)。
季語だからか、「ゆうやけ」ではなく「ゆやけ」と呼ぶ。
はるゆやけ。
茜色、鴇色、桃色、うすぼんやりと滲む空。

とぷん。

ぷくりと小さな泡を立てて
カクテルの海に包まれる。

リュックの中でぶつかった
ドロップで色付く空を瞳でなぞる。

足を一歩、
ちょっと遠くに踏み出せば
軽やかに音が飛んだ。

春夕焼(はるゆやけ)

******
お散歩してきたよ。

……あと、毎日

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片栗の花

片栗の花

好きな花は何ですか?
僕の問いに、彼女はこう答えた。

「片栗の花。」

カタクリの花?僕の頭にはイメージが湧かなかったが咄嗟に言葉が口を突いて出た。

今度プレゼントしますね。

伏目がちに珈琲を飲む彼女の目がふっと僕を見上げる。再度視線が手元に落ち、ありがとう、と呟くように彼女は言った。
長い睫毛がとても綺麗だった。

帰って片栗の花を調べると到底花屋では買えない代物であると分かり僕は酷く赤面

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斑雪

斑雪

今や雪も遠くに聳える山々に、斑らに解け残るのみとなった。
晴れた日の連峰は美しい。その隆々たる山肌を引き立てるべく、残雪の白が一際輝きを放つ。

ここ最近の陽気で、街ではあちこちで花が咲き誇っている。

本日、桜の開花宣言が出た。
ということは、まだ標本木で5、6輪といったところか。しかしこの気温では、今週末にはすっかり見頃を迎えるかもしれない。

踏めば消えてしまうような、薄く積もった春の雪。

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茎立

茎立

春、温かい日が続いて、大根や蕪などの花茎がぐんぐん伸びることを「茎立(くくたち)」という。一般的には、「薹(とう)が立つ」という言い方のほうが馴染みが深いか。つい、袋入りで買った人参なんかを使いきれず、鬆(す)が入るまで置いてしまった時とかは、申し訳なく思う。

薹(とう)が立つ。でも、この表現はあまり好きじゃない。
なんでって、人に使う輩がいるからだ。

大根や蕪だって、いかに太陽を効率よく受け

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花辛夷

花辛夷

辛夷(こぶし)と白木蓮(はくもくれん)。これを機に両者を調べると確かに互いはよく似てる。私も今まで混同していた。遠目ではよく似ているものの、しかし違いは多々とあるようだ。例えば、白木蓮はすべて上向きに咲くのに対し、辛夷はあちこちを向く。花弁の枚数も、6枚が辛夷、9枚が白木蓮らしい。

ちなみに、辛夷の由来は、そのつぼみが赤ちゃんの拳(こぶし)に似ているからだとか。枝ぶりに白い花を見かけたら、今度は

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土筆

土筆

頭がこんがり茶色くなって、笠が開き切っている土筆(つくし)を揺すると、黄色い胞子が飛ぶのが見える。
辺りに生えているのは昔から知っていたけれど、初めてそれを見たときは生命の神秘に驚きつつ、花粉もこんな感じなのかと多少ぞっとした。

幸いにして未だ花粉症ではない私は、いつか訪れるやも知れない審判の時を恐れている。各々に許容量のコップがあって、それがいっぱいになると発症するというのは本当なのだろうか。

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蒲公英

蒲公英

「綿毛をせーので吹き飛ばしてさ、
どっちが遠くまで飛ばせるか勝負しよう?
で今度、芽吹いたたんぽぽを探しに来て答え合わせしようよ」

そんなの、どっちが飛ばした種か見分けられないし、ましてや、僕たちが吹いた分じゃないかもしれないし。

「じゃあ君は白いたんぽぽにして、
……勝敗は、花占いにする?」

もはや勝負ですらないじゃないか、と言おうとして思い留まる。これは理屈じゃないのだ。

せーの。

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春分

春分

バス停までの道すがら国旗が掲げてある家を発見し、今日が祝日だと思い出す。行き先をgooglemapで調べてみると、「春分の日は営業時間が変わる可能性があります」と忠告された。これが現代の祝日の感じ方だろうか、とつい苦笑する。

私が高校に通っていた時分は、まだ床が木のバスも現役だった。あの色褪せた木目に残る靴跡や、ぼこりと沈む安っぽいビロードの座席も好きだったよ。伝わる振動が心地よくて、ついボタン

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春霞

春霞

霞(かすみ)は気象学上は定義のない言葉で、
視界状況によって霧(きり)と靄(もや)とに使い分けられる。
しかし文学上では、
霧と言えば秋、
春と言えば霞で、
夜になると朧(おぼろ)、というのが
古来より受け継がれた繊細な言語感覚だそうだ。

ふふ、知らなかったことばっかりだ。
でも、これで少しは引き継げたかな。

明障子からは、朝の色が零れている。
薄紫色のじゅらく壁に取り付く違棚に、たなびく雲を

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