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片栗の花


好きな花は何ですか?
僕の問いに、彼女はこう答えた。

「片栗の花。」

カタクリの花?僕の頭にはイメージが湧かなかったが咄嗟に言葉が口を突いて出た。

今度プレゼントしますね。

伏目がちに珈琲を飲む彼女の目がふっと僕を見上げる。再度視線が手元に落ち、ありがとう、と呟くように彼女は言った。
長い睫毛がとても綺麗だった。

帰って片栗の花を調べると到底花屋では買えない代物であると分かり僕は酷く赤面した。でも彼女が「ありがとう」と言葉を添えた時、確かに彼女は静かに微笑んでいて。それが僕にとっての唯一の救いだった。
片栗の花は別名で堅香子(かたかご)の花と呼ばれ、万葉集に大伴家持の句が残されている。4500を超える詩が含まれた万葉集に、堅香子の花を詠んだ句はこのたった一首だけらしい。きっとこれは彼の編纂(へんさん)者としての手腕なのだ。ただ一つが在ることで、より印象が強くなる。

彼女にも、「初恋」があったのだろうか。

片栗の花という錨が、僕の心にもしっかりと引っかかっていた。



あの時、黒髪の奥できらりと何かが揺れていた。

美しい紅紫(こうし)色をしたピアスだった。

僕は懸命にその形を思い出そうとした。
まるでそれに何か、彼女の込めた意味があったのだというように。

片栗の花(かたくりのはな)

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片栗の花の花言葉は「初恋」「寂しさに耐える」だそう。種から花が咲くまで最短でも7年かかるのだとか。調べれば調べるほど興味深い花でした。

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