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ヒトトナリ選書

2023年4月3日から14日にかけて、葛尾村復興交流館あぜりあ横トレーラーハウスにオープンした期間限定のセレクトブックカフェ企画「ヒトトナリ」に寄せた選書です。私からは、これから本記事で紹介する15冊を、他にも村内在住者のセレクトを置いていただきました。手に取ってくださったみなさん、オーナーのうえのさん、ありがとうございました!

①重松清『その日のまえに』

高校生の頃までは、本を読むといえば、もっぱら重松清さんでした。ドラマチックでもなければキラキラもしていない、誰かの日常を覗くことができる小説が好きでした。『その日のまえに』から教えてもらったのは、死んでしまっても、仏様になるのでも天国へ行くのでもなく、誰かの中で生き続けられるんだ、ということです。めっちゃ泣きながら読んだ、数少ない本です。

②若林正恭『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込』

大学生のころ、一度、ほんとうに何もできなくなった時期がありました。
サークルもバイトもよくない辞め方をして、おれは悪くないのになんでうまくいかないんだと、ろくなメシも食わずに、薄いマットレスの上で学生寮の天井を見つめながら、ドロドロとした音楽を耳に流し込んでふてくされていました。今考えるとほんとどうしようもない・・・。
それに飽きてきたころ、なんとなく手に取ったのがこの本でした。大丈夫と言うことから大丈夫ははじまるということ、ネガティブを潰すのは没頭であるということ、思いはひとつじゃなくていいこと。短いエッセイをひとつずつ読んでいくことで自分という実存を取り戻していったのを、表紙を見る度に思い出します。「牡蠣の一生」が特にお気に入りです。

③山田ズーニー『あなたの話はなぜ「通じない」のか』

できることは全部やっているのに、なんで物事は動かないんだろう?まわりの人たちはなんでもっと反応をくれないんだろう?こんなにがんばってるのに。
そんな気分のとき、こっそり大学の授業中に読んで、気付けば肩を震わせて泣いていました。単なるハウツー本ではなく、直面している困難に形を与えてくれる、お守りのような本です。

④大友良英『シャッター商店街と線量計 大友良英のノイズ原論』

福島市出身の音楽家で「あまちゃん」のテーマソングを手掛けたことで知られる大友良英さんが、震災後の福島での活動や思いについて語る対談集。2022年も話題作「エルピス ー希望、あるいは災いー」を繰り出した脚本家の渡辺あやさんや、音楽に限らず"ノイズ"を自由に語る高橋源一郎さんとの対談、大友さんの私小説……雑多だけれど、ぼんやりと生きることの希望が浮かび上がる一冊です。

⑤東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』

人生で一番興奮した本です。哲学書なんて難しくて普段は読まないけれど、この本は哲学の素人でも論が追えるようなやさしい筆致。それでいて、政治学からネットワーク理論、ドストエフスキー論までをダイナミックに繋ぎ、ネットとテロとヘイトの現代において、孤独の隘路に陥らず「他者を大事にする」ことは可能か?という大命題に挑んでいます。この本に出てくる「誤配」という言葉は、事あるごとに自分の選択に影響を与えていると思います。

⑥岸政彦・雨宮まみ『愛と欲望の雑談』

『断片的なものの社会学』の岸政彦さんと『女子をこじらせて』の雨宮まみさんによる、薄い雑談本。「おわりに」で雨宮まみさんが語っているように、"「実際に会ってする会話」には、無駄も危険も多い"。それでもままならなさを抱えたまま語る大人ふたりの雑談に、当時就活中の私はほっとすると同時に、こんな素敵な大人になれるだろうかと少し不安にもなりました。面接終わりの新幹線の中で一度読んだきりですが、ずっと心に残っています。

⑦『30代のための社会文芸誌 たたみかた第2号 男らしさ・女らしさ特集』

神奈川県・三浦半島の南端のまちにある夫婦出版社・アタシ社が出している、大好きな雑誌です。創刊号は「福島特集」でこちらもすばらしいのですが、「性」に限らない「生」の多様なテーマを扱う第2号をセレクトしました。「この物語はいつだって捨てられるんだよ」「スプーンひとさじの自己肯定」…登場するこれらのフレーズは、思い出したときに一言心の中で唱えれば、思い出す前よりも自分に優しくなれます。万能じゃないけどじっくり効いてくれる、漢方のような雑誌です。

⑧小松理虔『地方を生きる』

小松理虔さんは、いわき市小名浜を拠点として活動するローカル・アクティビスト。学生時代、福島のことを考えたいけれど「支援/被支援」の関係だけでは限界がある……と思っていた頃に理虔さんの文章に出会って、あくまで世俗的に、楽しさやおいしさから考えてもいいんだ!と、たくさんヒントをいただきました。福島で研究論文を書いたのも、いま葛尾村に住んでいるのも、理虔さんのおかげです。

⑨江永泉・木澤佐登志・ひでシス・役所暁『闇の自己啓発』

正直この本は難しくて、たぶん書いてあることの2割もわかっていないのですが、「まえがき」を読んだ時点で、自分にとって大切な一冊だと確信しました。自分なんて、もしかしたら生まれてこなくてもよかったかもしれない。それでも、千葉雅也さんが帯で書いているとおり、"<闇と共に>思考する"ことができるのは、生きているからです。

⑩斎藤幸平『人新世の「資本論」』

1996年生まれの私は、人生すべてが「失われた30年」にすっぽりと入ります。経済成長に取り残されてきた葛尾村のような地域の行く末がじつはこれからの時代の鍵を握るということ、それほどまでに人間社会は新しい局面を迎えているということが、読むとよくわかります。

⑪『みんなでつくる中国山地 003号 ここで、食っていけるの?』

福島に来るまでは、広島に4年間、島根に3年間住んでいました。「みんなでつくる中国山地」は、「過疎」という言葉が生まれた中国山地という共通の広域地理/文化圏を軸に、年刊誌を100年出し続けるコミュニティです。003号では、いま地方で食っていくとは?というテーマを多面的に扱っています。基本的に中国5県が舞台なのですが、1か所だけ阿武隈山地の話がこっそり載っています。100年先の阿武隈山地には、どんな風景が広がっているでしょうか?

⑫塩谷舞『ここじゃない世界に行きたかった』

いつも洗練された文章で読み手の心を魅了するウェブライター、塩谷舞さん。初のご著書だというこの本を開くと、「人の話をちゃんと聞いていない」とか「海外移住つらかった」とか、思いのほかめちゃくちゃ人間的で、さらに好きになりました。切実に現代の美しさや楽しさを追いかけていく姿勢に、ぐっと引き込まれます。

⑬竹内純子『エネルギー産業2030への戦略 Utility3.0を実装する』

地域新電力の会社に勤めるようになって、エネルギー産業のことを知りたくて読んだ本。冒頭が短い物語になっていて、本編も知的好奇心をあちこち刺激する内容です。難しいエネルギーの話を眠くならずに読める、稀有な一冊だと思います。あたりまえのように使っているコンセント、そこから大きく想像力を広げてみてください。

⑭瀬下翔太・太田知也・鈴木元太・池本次朗『移住と実存』

青春時代に島根県鹿足郡津和野町に移住した4人による、商業出版されていない、いわゆるZINE(自費出版誌)です。<地方創生>(あるいは、福島であれば<復興>)といった大きな文脈の中に移住者が位置づけられ、キラキラしたものとして語られたり、承認を得て気持ちよくなったりするその先に、それぞれの個人の中で何が起こるのか。読めば、ローカルを扱う人気雑誌『ソトコト』や『TURNS』では読めない<移住>のリアルの一端を掴むことができるはずです。

⑮影山裕樹・桜井祐・石川琢也・瀬下翔太・須鼻美緒『新世代エディターズファイル 越境する編集ーデジタルからコミュニティ、行政まで』

ついつい絶望してしまうとき、パラパラとめくれば、いやいや落ち込んでる暇ないやん、と思わせてくれる本。世の中は多様で豊かで、一生未知のものに触れつづけ、気付き続けても足りないくらいです。

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