記事一覧
ふつうであるということ
最近どう?
仕事は順調?
結婚はしないの?
したほうがいいよ
子どもはまだ?
いたほうがいいよ
やっぱり子どものためには
両親がいないと
とりわけお母さんがいないと
みんなそうだよ
あなただけじゃないし
こっちだって苦しい
誰だって苦しい
あなたは男性で
男のくせに女々しい
もしくは女性で
女のくせに雄々しい
わかってる、わかってる
いろんな人がいる
個人的には気にしないけど
他の人はどうだろ
殺し屋の華麗なるレッスン
久しぶりに郵便受けを見にいこうと、バケツ片手にアパートの階段を降りた。郵政省の古い規格に則った赤い郵便受けで、開けると大量のチラシとダイレクトメールとポケットティッシュ付きの広告が足下に置いたバケツ目がけてどさどさと落下した。
アパートの敷地には建物と同じくらいの面積をもった庭があり、その隅に今どき珍しい焼却炉があった。焼却炉にはアパートの持ち主が近所の住民と協議を重ねた結果、屋根より高く伸
溶かして冷ますガラス入り白線
財布をどこかで落としたらしいと、帰ってから気がついた。
交番に届けたらたぶん、諸手を挙げて歓迎してくれるだろう。何しろ我らが駐在さんは人が良すぎて詐欺に引っかかるほどの正義漢なのだ。よかったらお茶でもどうぞと手厚くもてなしてくれるかもしれない。しかしそうしている間にも誰かが拾ってしまったら、そしてその誰かが僕みたいなタイプだとしたら、こいつは天の恵みだぞと感謝することにおそらく何の抵抗もない
コンキスタドール/ogres island attack
やってきた男は美しかった
目を奪い、心を奪い、
やがて力づくで
何もかも奪っていった
3人の手下を連れて
片っ端から、それこそ
エルナン・コルテスみたいに
何もかもだ、容赦なかった
男は美しかった
着物はきらびやかで
見目はうるわしく
仕草も雅びていた
神の使いだと
信じたのも無理はない
ほどなくして村は
彼らの手に落ちた
立ち向かった者は
残らず葬られた
見たことはすべて
忘れろと言われ
狐の嫁入りダンロップ・フォート
上空からぽたんとひとつ、テニスボールが目の前に降った。大きく撥ねたとおもったら、またひとつふたつ、ぽつんぽつんと降ってきた。それから、撥ねる余地もないくらいにざあっと降り出した。あわてて移動して、降り止むまでのその場しのぎにちかくの軒先を借りた。そんな予報が出ていたのかどうか、雲はあっても晴れていたから、狐の嫁入りらしかった。青い空を背に時速95キロで次から次へと黄色い球体が落下してくる様子は、
もっとみるパンと菌/it's been a long time, Mr. B
親爺さんはもういない
助手の娘も結婚したよ
今は年賀状の
やりとりだけだな
パンか、パンはもう
焼いてもらってない
てか自分で焼いてる
勉強したんだ
誰に食わせる
齢でもないしな
変わったと言えば
つぶあんになったよ
聞いたぜ、ガキが
いるんだってな
笑えるじゃないか
父親だなんて!
あのオレンジの娘にも
ずいぶん無沙汰だ
嫁さんなんだろ
その子もふたりの
おいおいウソだろ
いや、まあ…
メアリ・ジョンソンアンドジョンソンによる未完の短編
はじめにことわっておかなければいけない。これは作家である友人メアリ・ジョンソンアンドジョンソンが熱に浮かされていたときに書いたものである。すっかり調子をとりもどした現在の本人にその記憶はない。なぜこの話はこんな中途半端な終わりかたをしているのか、だいじなことなのでもう一度言うがなぜこの話はこんな中途半端な終わりかたをしているのか、たずねてもただ首をかしげるばかりで、さっぱり要領をえない。それどこ
もっとみる火を吹く果実の薬剤師
ある晩夏の夜、アパートの住人が「実家から送ってきたんで、よかったら」と言ってドラゴンフルーツを持ってきた。いろんなおすそわけがあるものだとおもった。さっそくその晩その果実に包丁を入れ、教えられたとおりにスプーンですくって食べてみた。しいてたとえるなら、それは人生の味がした。怪獣の卵みたいな形をしていて、赤むらさき色の果肉に真っ黒な種子がつぶつぶと埋まっていて、さっぱりしているが甘みはすくなく、き
もっとみる脱落者/formerly known as super brother
椎茸を踏みつけ
亀を蹴り飛ばし
花に火をつける
気は晴れない
壁を殴り
小銭を稼ぐも
着の身着のままで
替えの服もない
地下はきらいだ
暗くてさむい
誰かいないのか?
また椎茸を踏む
穴にも落ちた
棘にも刺さった
やることなすこと
命にかかわる
そうして何度
死んだか知れない
おまえのほうが
向いてるよ、ルイージ
全部くれてやる
おれはもう降りた
休ませてくれ
女はもういい
紙芝居を安全に楽しむために
紙芝居……それはアニメやマンガと並んで日本が世界に誇る文化のひとつです。
その歴史は古く、まだ紙芝居という概念がなかった時代から、そういうのあったらいいよね、という強い欲求があったと言われています。生まれる前の子どもからすでにこの世を去った大人まで、今も世代を超えて支持されつづける大衆娯楽の代表格です。
多くの含蓄と教訓に富んだ物語、今にも飛び出してきそうな躍動感みなぎる一枚絵、その両者
コーヒーの始まりについての話
むかしむかし、アラビア半島のへそのあたりに位置するちいさな王国に、ひとりのお姫さまがおりました。姫は真夜中に大好きな母親を亡くして以来、すっかり夜ぎらいになり、日が暮れると部屋にカギをかけて閉じこもり、誰とも口をきこうとしません。困り果てた王様がわらにもすがる思いで祈祷師に相談したところ、一計を案じた祈祷師は姫の前で空に手をのばし、夜をひとさじ掬って、一杯の湯にぽたりとたらしました。するとどうでし
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