ふつうであるということ

最近どう？
仕事は順調？
結婚はしないの？
したほうがいいよ
子どもはまだ？
いたほうがいいよ

やっぱり子どものためには
両親がいないと
とりわけお母さんがいないと
みんなそうだよ
あなただけじゃないし
こっちだって苦しい
誰だって苦しい

あなたは男性で
男のくせに女々しい
もしくは女性で
女のくせに雄々しい
わかってる、わかってる
いろんな人がいる
個人的には気にしないけど
他の人はどうだろう
ご両親はなんて？

こうあるべきだし
それもいいけど
ふつうはこうで
みんなそうしてる
何が正しいのかは明らかで
みんなそれを知ってる
そうじゃない人もいるかもだし
別に否定してるわけじゃない
ただ少なくとも周りに
そんな人は一人もいないし
今までだっていなかったし
そんな話を聞いたこともない
大勢いるというなら
どうしてここにいないんだろう

あなたがそうだというけれど
どうだろう、そうじゃないかも
そう思い込んでいるだけかも
誰かがあなたの耳に囁いて
それを鵜呑みにしているだけかも
だってそんなはずないから
そのうちわかるんじゃないかな
正直そんな話は聞きたくないし
されても困る

わたしもがんばるから
一緒にがんばろう
わたしでさえできるんだから
あなたにできないはずはない
そう思わない？
同じ人間なんだから
やってみて
やってみて
自信を持ってほしい
人は生まれながらに平等で
誰でも無限の可能性があって
何にでもなれる
なれなかった人は
なろうとしなかっただけ
わたしもその一人かもだけど
あなたはちがう
時間には限りがある
急いで
急いで

まだそんなところにいるの？
まだそんなことをしてるの？
ほらみて、もう誰もいないよ
大人になろうよ
もったいないよ
人生損してる
飲みに行こう
腹を割って話そう
うそでしょ飲まないの
この人生最大の喜びを
味わえないなんて
かわいそう
人生損してる

積み木みたいに簡単で
話はいつもシンプル
そっちとこっちで
こっちが正解
誰かが嘘をついていて
わたしはそれを見破れる
申し訳ないけど
申し訳ないけど
絶対そうだよ
そうに決まってる
差別とかじゃないし
そんなつもりもない
目を覚ましてほしい
あなたなら気づける
真実はここにある
わたしは知っている

それらすべての善意と好意を一身に浴びた誰かが今、丘でひとり一枚の絵を描いている。どうもどこかで何かを間違えてきたらしいが、どこで間違えたのか、何がいけなかったのか、言われたことは尤もで全部だいたい理解できるし、実際そうなんだろうし、みんなそうだし、誰も悪くないのに胸の内が沸き立つ。ぼこぼこと湧いて吹きこぼれそうになる。それを鎮めたくて、一心不乱に描いている。叩きつけるように、ぶちまけるように、それは吐き気がするほど剥き出しで糜爛でグロテスクで誰も見たがらない。とても見えるに堪えない。

そこに年老いた人が
やってきて微笑む
「すてきね
この絵はわたしに似ている
こんな絵をずっと
待っていた気がする」
絵描きは答える
おれもあなたをずっと
待っていたような気がします

ふたりは連れ立って
どこかへと立ち去る
その先にはまた次の
誰かが待っているだろう

吐き気がするほど
剥き出しで糜爛でグロテスクで
息が止まるほど美しい
絵を描く誰かが