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「介護books セレクト」②『きらいな母を看取れますか?関係が悪い母娘の最終章』 寺田和代

 これまで「介護books」(リンクあり)として、いろいろな環境や、様々な状況にいらっしゃる方々に向けて、書籍を毎回、複数冊、紹介させてもらってきました。

 自分の能力や情報の不足を感じ、これ以上は紹介できないのではないか、と思い、いったんは「介護books」を終了します、とお伝えしたのですが、それでも、紹介したいと思える本を読んだりすることもあり、今後は、一冊でも紹介したい本がある時は、お伝えしようと思い、前回(リンクあり)から復活することにしました。
 いったんは終了します、とお伝えしておきながら、いろいろと変えてしまい、申し訳ないのですが、よろしくお願いいたします。

(介護離職をしたあと、家族介護者への心理的支援を目指し、臨床心理士になった私の経歴は、ここをクリックしてもらえれば、概要を理解していただけるのでは、と思っています)。

「きらいな母を看取れますか?関係が悪い母娘の最終章」 寺田和代

 今回の書籍は、2020年に出版されていますから、比較的、新しい本ということになるのですが、本来でしたら、男性である私には「母娘関係」を語る資格がないのかもしれません。

 それでも、読んで、もしできたら、もちろん当事者の方だけでなく、介護者を支援する専門家の方に読んでいただければ、と思い、紹介することにしました。

 もしかしたら、ここで書かれていることは、すでにご存知だったり、分かっている方も、思った以上に多いのかもしれませんが、それでも、生意気な言い方ですみませんが、こうした貴重な記録でもある書籍を読み、少しでも知ることによって、介護者への理解が進むのではないか、と思いました。

 社会で、児童虐待という言葉が一般的になったのも、それほど古い話ではないと思います。おそらくは、ここ20年くらいであり、それ以前は「しつけ」という言葉で表現され、学校でも体罰が日常的にあり、「殴る方が痛いんだ」という言葉も聞いたくらいですから、今のように「身体的虐待」が心身の成長を妨げるものだという合意がされたのも、そんなに昔ではないはずです。

 ましてや「心理的虐待」も、広く「よくないもの」と理解されるようになったのは、さらに最近で、個人的には、ここ10年くらいだと感じています。

 そうであれば、現在、ご家族の介護をされている方々は、おそらく多くは40代以上になるかと思います。そうした方々が育った環境では、もしかしたら、子供時代では「身体的虐待」はよくないこと、という社会的合意はあったかもしれませんが、「心理的虐待」の弊害は、まだそれほど言われていないかもしれません。

 ですので、もしかすると、そうした「心理的虐待」に近い生育環境にいて、現在、ご家族の介護をされている方々は、思った以上に多いのかもしれない、とこの本を読んで、改めて思いました。

 やや回りくどい言い方になってしまいましたが、こうした「関係が悪い母娘」について、私のような中年男性は、本当の意味で理解はできませんし、語る資格もないと思うのですが、介護する、介護される状況になる前から「関係が悪い」ことがどれだけの辛さにつながるかについて、こうしてきちんとした形にしてもらったことで、少しでも「関係が悪い母娘」による辛さへの理解が進むのでは、と思いました。

「関係が悪い母娘」

この書籍では、具体的な例として6人の方が話をしてくれています。

 たとえば、「ストーリー1 エリコさん 53歳」の場合。
 子供時代は、「周囲からはわかりくい辛さ」の中にいたようです。

 世間的にはよいお父さんなわけです。お酒飲まない、ギャンブルしない、浮気しない。

 ただ、家の外へは漏れない部分で、父親の「心理的虐待」といっていい行動は続きました。

父の不機嫌モードはもっとも長いときで二年間続きました(中略)
私が小学校高学年のころ。同じ家で毎晩毎晩一緒に食卓を囲んでいるのに、二年間ひと言も口を開かないし、顔もまともに見ない。たまに口を開けば母を怒鳴りつけるか、何かわめきながら家具や壁を蹴とばしてるか……。その場に私もいるのにいないものとして扱われてきました。        

 そのことが母親にも、もちろん影響し、しかも、離婚してもおかしくないのに、それはせずに、その歪みが「子供」に向かったといってもいいような状態に思えます。

(母は、どうして離婚しなかったのか)
 現実より世間体が大事という価値観は母も父と同じでしたから、離婚という汚名を避けたかったのでしょう。私の存在も大きかったと思います。母は、自分の人生の空洞を娘で埋めようとしていました。娘のことはなんでも知っているし、娘がしたいことは全部、母が〝決める〟。娘は自分の一部、自分の手足の延長くらいの感覚だったと思います。

 いわゆる「過干渉」という言葉は、他の5人の方からも、よく出てくるのですが、「過干渉」という「心理的な虐待」は、まだ見過ごされることが多いのかもしれません。

 そして、「エリコさん」にとって、その後、いろいろなことがあり、母親と距離をおいた時期もあったのですが、母親が老いて、介護が必要になった時に、再び、「関係の悪い母娘」問題は、表面化します。ただ、そのことについても、苦しみ、考え、試行錯誤した上での、今のところの結論までたどり着いています。これは、読者としての無責任な言い方になってしまうかもしれませんが、困難で、辿り着きにくい場所だと思います。同居はしない、という結論でした。

 赦せない気持ちを抱いたまま、母と向き合いつづけることはできません。お金や公的支援などを使って、なにがなんでも避けるでしょう。一対一で本気で向き合ったら、危険な状況になってしまうのは目に見えているから。それを避けるためにもなんとか〝本当の気持ち〟にふれないまま関係を終わらせたい。本当のことを口にしないことで、静かな別れを迎えられるかもしれない、と思っているんです。

 それは、ある種の達成を感じさせるような考えをもとにしていて、そこに到達するまでの苦難を考えると、それは、安直に言えないものの、大変な結論だったと思います。

だからと言って、今の母を責めようとは思わないし、私の場合はそうすることに意味があるとも思えない。
母が謝れば、スッキリするかといえばそれも違う。

介護を選択しなくてもいい自由

 たとえば親を介護をすることは、子供のうちの誰かがすることが、まだ当然のように思われています。そして、今も、自宅で子供に介護されることが、何よりも幸せのように思う人たちは、少なくないという印象です。それは、でも、そう思うこと自体は、責められることではないと思います。

 それでも、同時に、「介護をしたくない」という方がいらっしゃった場合には、できれば、その意志を尊重していただきたい、という気持ちもあります。

 今でも、家族であれば、事情があったとしても、介護をする人も多く、社会の見えない圧力もまだ強いと思います。ですので、介護をしたくない、という方がいらっしゃったとすれば、それは、本当によほどの事情があり、しかも、簡単に言いたくないようなことであれば、より尊重すべきだと思っています。

 ただ、私が何か言うよりも、こうした書籍が出て、具体的な体験を伝えてくれる勇気のある人と、それを伝えてくれた著者の文章を通した方が、はるかに説得力がありますし、そのことで、これから、「介護を選択しなくてもいい自由」も、少しずつでも常識になっていけば、と考えています。

 きらいな親の介護を無理やりすれば、そのストレスで今度は自分の子やパートーナーにネガティブな感情をぶつけてしまうでしょう。自分の心身の健康もたちまち損なわれるでしょう。怒りや恨みを抱えた人に介護される親も不幸です。いいことはひとつもありません。  

 これも、この「嫌いな親を看取れますか?」の中に登場してくれている人の言葉です。
 本当にそうだと思いますし、もし、介護の専門家であって、「介護をしない人が理解できない」方がいらっしゃったとすれば、それは、私が言う資格もないとは思うのですが、その人は家族との関係がよかった、もしくは、それほど悪くなかった、ある意味で恵まれた人の可能性も高いと思います。(私も男性なので、より比較になりませんが、親にはいろいろと思いもあり、どうして自分が介護をするんだ?という気持ちもありましたが、それでも介護できる程度の関係性がある、恵まれた関係だった、ということだと考えています)。

 だから、介護をしないことを選択している、という家族がいた場合、その人に対して理解ができない、もしくは知らないうちに責めてしまうような介護の専門家がいらっしゃったら、そういう方にこそ、余計なお世話かもしれませんが、できたら読んでいただきたい書籍だと思います。

 母娘の関係に長年、関わってきた専門家も、この書籍の中で、このような表現をしています。

 そんな関係になったのも、もとはと言えばそれだけのことを母が娘にしてきたからです。そこまで追い詰められ苦しんでいる娘たちは、なにも自分のわがままや身勝手から訴えているわけではありません。 (原宿カウンセリングセンター所長 信田さよ子氏)

 さらには、法律のことまで触れられています。
 遺産放棄など、知っておいたほうがいい情報もあります。
 
 また、余計なことかもしれませんが、「嫌いな親」との関係に苦しみ、いったんは距離をおけたものの、年月がたち、介護をするかどうかに直面して悩まれている方にも、読む価値があると思いました。




(他にもいろいろと介護について書いています↓。できたら、読んでいただければ、うれしく思います)。


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