それぞれの生き方③~私の事件簿(笑)~
就労支援センター風の丘(以下、風の丘):今日はゴルフ場運営会社で働いているC子さんにお越しいただきました。ずいぶんと日焼けしてますね。
C子さん:外の仕事が暑かったですからね。でも会社の皆さまが配慮してくださっているので、楽しく仕事ができています。今日も休憩時間には、冷たい飲み物を用意してくださっていました。とてもありがたいです。
風の丘:でも、仕事は大変でしょう。
C子さん:もちろん暑いし、体力も使うので大変と言えば大変ですが、これまでの仕事のことを思えば、もう全然…(笑)。自分のペースでできるし、ひどいことを言う人もいませんし。
「仕事が遅いアンタと組みたくない」
風の丘:いきなりですけど、思い出してみてこれまでつらかったことや苦しかったことって、どんなことがありましたか?
C子さん:これまで一般枠で働いてきて、もうずっと叱られっぱなしで。自分はどうしてこんなに仕事ができないんだろうと、毎日罪悪感ばかりでした。
学校を卒業して最初に働いたのが食品工場で、次がスーパーマーケット。
毎日毎日、“作業が遅い、作業が遅い”と叱られっぱなし。必死に作業をしても、周囲の人のスピードについていけない。それで辞めなきゃならなくなって。
その後もいくつかの工場で働かせてもらったのですが、行動が遅いと、やっぱり怒られて。“仕事が遅いアンタと組みたくない”とか、正面で言われたり…。それで、本当になにもかも嫌になって、家にひきこもってしまいました。
風の丘:そんな毎日では、ひきこもりたくもなりますよね。
C子さん:でも、仕事を勝手に辞めてしまったことを、親にバレないようにするのが大変で。朝はふだん通りに起きて、いったん家を出て…。
両親が仕事に出かけた頃に家に戻ってひきこもって(笑)、それで両親が帰って来る頃にまた家を出て、図書館やコンビニで時間をつぶして…。そしてまた家に戻る。
風の丘:大変でしたね。
C子さん:大変ですよ! それでもやっぱり少したったらバレて、また就職することになりました。
住み込み、セクハラ、パワハラ、土砂くずれ
風の丘:次の職場は、確か旅館だったかな
C子さん:いくつかの旅館やホテル、飲食店などで働いたのですが、やっぱり仕事が遅いと叱られっぱなしで…。
それである会社で働いていたときは、これからも働き続けたいのなら住み込みで働けと言われて、ある飲食店に住み込みで働かされました。
風の丘:住み込みと言うと、休日とかは…
C子さん:休日は月に4日。
深夜も対応しなければならないことがあるので、ほぼ一日中仕事でした。基本的にはその事務所には私一人しかいないので、夜は怖くて…。
風の丘:まともに寝てもいられない
C子さん:でも、途中からは、もうなるようになれと思って、眠ってましたけどね(笑)。
つらかったのは、仕事そのものよりも、社長とか上司の暴言、いじめでした。これは私だけじゃなくて、ほかの従業員も被害にあっている方が多かった。セクハラ、パワハラは当たり前で。
退職後に、何人かの元従業員の方が社長を訴えた裁判があったので、仲良くさせていただいた元従業員の方に連れられて傍聴したこともありました。
風の丘:ひどい職場でしたね…。
C子さん:いつだったか、すごく大雨が続いたときがあったんです。何かおかしいなと思って窓の外を見ると、土砂崩れが起こっていて、すぐそこまで土砂がきている。
命の危険を感じたので、社長に電話をしたら、“自分でなんとかしろ”って。その後、会社の方が来たのですけど、“どうしようもないよね”って。従業員の命なんて、どうでもいいだって思って…。
風の丘:それでも仕事は続けた?
C子さん:他にいくところがなかった。あきらめの気分です。
横領疑惑
風の丘:心が折れることはなかったのですか?
C子さん:私は中学校を卒業してから、ずっと裁縫の教室に通っていたんです。仕事をしているときも。
けっこう授業料が高かったのですが、それをずっと親が払ってくれていた。ところが父親が病気で倒れてしまって経済的に苦しくなったのですが、それでも授業料は払ってくれていた。それを知っているので、仕事を辞めることはできない。落ち込んでいるヒマがなかった。
それと…。そういえば、あのときはアニメと特撮にはまっていたかな…。アニメは『ワンピース』で、特撮は『侍戦隊シンケンジャー』とか、『烈車戦隊トッキュージャー』とか『手裏剣戦隊ニンニンジャー』とか(笑)。自由時間に、それを見て元気をもらっていました。
あとは…、やっぱりケーキとプリン(笑)。大切なエネルギー源でした。
風の丘:でも、その後退職になってしまった。
C子さん:これ、会社から横領疑惑をかけられて…。
会社のお金を使ったと。ぜんぜん身に覚えのないことなので、知りませんと言うと、そのお金を返せと。弁護士が作ったという書類まで見せられて。
家族に話して、警察に相談したところ弁護士の先生を紹介されて、そこでその書類をみていただいたら、これはニセモノですよと。会社を訴えることができると言われましたけど、もういいやと思って。さすがにその場で退職を決めました。
その次に就職したのが、小さな子どもと関わる福祉関係の職場でした。そこでも報告書が書けなかったり、専門用語がわからなくて大変だったのですが、職員の方に一度福祉センターで相談してはどうかとすすめられました。それで障害者手帳を取得することができました。
風の丘:手帳を所得して、どうでしたか?
C子さん:自分でもうすうす障害なんじゃないかと思っていたので、やっぱりそうだったんだと、ほっとしたことを覚えています。
手帳を取得してから、気持ちも変わったし、生活も変わりました。張り詰めていた気持ちが、やっと緩んだというか。
そうなると、子どもに臨機応変に対応したり、書類もたくさんつくらなければいけない今の職場は、やっぱり難しんじゃないかと思い、退職することにしました。
自分は自分のペースで生きていいんだ!
風の丘:そして、風の丘を利用するようになった。
C子さん:はい。相談した方からすすめられて。本当に藁にもすがる思いでした。ここでがんばれなければ、自分はもうダメだと思いましたから。
風の丘:実際に利用してみて、いかがでしたか?
C子さん:まず、身体を動かすってこんなに楽しいんだ、って思いました。「卓球講座」とか「太極拳講座」とか。
「太極拳講座」では、馬歩という姿勢の訓練があるのですが、じっとしているだけなのに、体力がついたことに本当に驚いた。風の丘を利用するときは、じつは歩くのもつらいほど足腰が弱っていたのですが、それが歩けるようになり、自転車をふつうに運転できるようになりましたからね。
それと私は絵を描くのが苦手で、美術が嫌いだったのですが、「アートの時間」でカッターとか定規とかコンパスとか、道具の使い方を覚えてから、とても楽しくなった。いまでは絵を描くのが好きになりました。
あとは「哲学カフェ」で、いろんな人の意見を聴くことができたのも、よかった。人ってこんなにいろんな意見があるんだ、じゃあ私も自分の意見を持っていいんだ、そう思えるようになりました。
風の丘を利用して良かったことは、障害があっても、そのままでいいんだと思えるようになったことかな…。自分は自分のペースで生きていいんだ、ということに気づけたことが、一番大きいと思います。
名義貸しとネズミ講
風の丘:これからの生活で、こうしていきたいなぁと願っていることってありますか?
C子さん:平和で穏やかな人間関係の中で生きていきたい。
風の丘を利用する少し前だったかな、突然昔の友達から電話があって、借金の連帯保証人にされてしまったことがあるんです。「名義貸し」っていうやつですよね。騙されてしまい、このときも弁護士さんに入ってもらったり、大変だった。
あとは、ネズミ講に入らされそうになったこともあったし…。
風の丘で、そういう危険な人の見分け方というか、トラブルを避けるやり方も教えてもらったからか、いまは本当に生活が穏やかななんです。これはこれからも維持したい。
あとは、小さい頃から動きが悪かったためか、ケガが多かった。いまは動きが多少よくなったためか、ケガが減った。運動も続けていきたいです。
手を動かして、口を動かす
風の丘:C子さんのこれまでの半生は、本当に波乱万丈というか、つらさ、苦しさの連続だったと思います。
その中を生き抜いてきたからこそ、いま苦しみのただ中にいる方へ、なにか伝えたいことはありますか?
C子さん:とても、とても、私なんかが何か言えるような立場じゃありません。
それでもあえて言うのなら、やっぱり自分の好きな時間を持つことが大切、ということじゃないかと思います。
先ほど、アニメと特撮の話をしましたけど、あと私は和裁、洋裁…、縫い物が好きなんです。きんちゃくとかつくったり。つらいときは、いつも縫い物をしていました。いつも手を動かしていました。いろいろと嫌なことが頭の中にあっても、縫い物をしていると、いつの間にか縫うことに気持ちが集中して、嫌なことをかんがえなくなる。そんな感じだったと思います。
あと、ぜいたくを言えば、そこに甘いものがあること(笑)。食べ過ぎると怒られてしまうので、大きな声では言えませんが、まぁ、適度に口も動かして(笑)。
手を動かして、口を動かす。それだけでも、なんとかなることがあるような気がします。
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