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クリスマスと精神医学: クリスマスシーズンに自殺は増えるのか?〜海外文献の紹介〜

皆様、こんにちは!鹿冶梟介(かやほうすけ)です。

もうすぐクリスマスですね🎅🎄🎉

クリスマスシーズンの雰囲気、小生は大好きです🥳🍾🎂

クリスマスイルミネーションに彩られた夜の街を歩くと、否が応でもウキウキしますね。

精神医学的にいうと街全体が”軽躁"という雰囲気に包まれている…という気がいたします。

しかし世の中が”ウキウキモードである一方、 孤独感に悩まされる人々がいるのもまた事実です。

そしてクリスマスシーズンに抑うつ的となることを、”クリスマス鬱”と呼び警鐘を鳴らす学者もいるようです。

以前、小生が紹介した記事「誕生日と精神医学(前編): 誕生日は御用心?日本における"誕生日ブルー効果"〜国内文献の紹介〜」で、誕生日に自殺率が上がると言う内容をご紹介しました。

誕生日という 祝うべき日に人は命を立つ傾向があると聞くと虚しいと同時に、このクリスマスシーズンにおいても同様のことが起きるのではと危惧しております

そこで今回の記事では、クリスマスシーズンに自殺率が上がるかどうかについて研究した海外の論文をご紹介いたします

果たしてクリスマスになると人々は死にたくなるのでしょうか…?


【研究紹介】

1.Nothing like Christmas--suicides during Christmas and other holidays in Austria. Ploderl M et al., Our J Public Health, 2015

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25245117/

<目的>
クリスマスに向けて自殺が増えるか否かを調べる。

<方法>
2000年から2013年までの毎日の自殺者数は死亡統計を管理するオーストリア統計局(Statistik Austria)から入手した。各日について、自殺者数の平均を算出した。ポアソン回帰と記述データのために、クリスマス期間は12月24日から31日までと定義した。

<結果>
1年を通しての1日平均自殺率はM=3.73(範囲:2.14-5.57)であったが、自殺率はクリスマスに向けて低下し、年末まで低水準で推移した。しかし元旦に自殺利率は急上昇した後、すぐに平均水準に戻った(図1)。
12月24日の1日平均自殺者数は2.14人で、年間最小値に近い水準であった。
クリスマス期間中の1日平均自殺者数は2.6人で、対照期間の3.4人と比較して有意に低かった。
回帰分析の結果、クリスマス週(12月24日-31日)およびその前週(12月17日-23日)の自殺率は対照期間と比較して有意に減少し、それぞれ25%と22%の減少に相当した。

図1: オーストリアにおける自殺者数の推移
クリスマスにかけて減少し、1月1日に急増している。

<結論>
クリスマス前後に自殺が増加するという俗説とは異なり、実際はクリスマス期間中には自殺は減少する。


【鹿冶の考察】

今回ご紹介した論文によると、クリスマスシーズンに気分が落ち込む“クリスマス鬱”は個々人のレベルでは存在するのでしょうが、統計的にみるとそこまで多い現象ではないようです。

「意外!?」と思われるかもしれませんが、実はこの手の研究は昔から海外であるようで、たとえば20年前に報告された6報レビューアーティクルにおいても、「クリスマスシーズンには自殺は減少する」と結論づけております(文献2)。

なるほど、クリスマス鬱(自殺)は単なる都市伝説..、と思った方、ちょっと待ってください!

今回紹介した論文および20年前のレビューアーティクルの研究は、”キリスト教国"での統計に基づいており、同じことが日本でも果たしている得るかは不明です。

実際、他の研究によるとトルコのように宗教が異なる国では、クリスマスに自殺率が上昇することが報告されており、12月に自殺が減少することはないそうです(参考文献3)。

まぁイスラム国家であるトルコで「クリスマス鬱」が発生した…、ということはありえないとは思いますが、キリスト教国ではない日本でも同様の研究がなされているか調べてみたところ残念ながら目ぼしい論文を見つけることはできませんでした…。

そこで、警視庁が公開している自殺者数をもとに過去6年(2017-2022年)の月別平均自殺者数を計算してみました(図2)。


図2:日本における過去6年の月別平均自殺者数

ご覧のようにクリスマスシーズンである12月の自殺者数は最も少ないことが判明いたしました…。

もう少し詳しく説明すると全体の平均では1754人/月なのですが、12月は1552人/月と最小値であり、最大値の3月(1923人/月)の80%程度なのです。

これをみると”クリスマス鬱”や”クリスマス自殺"というのが、フェイク…とまでは言わないにせよ少し大袈裟に言われていることがよくわかりますね。

そうは言っても中にはクリスマスに絶望的な気持ちになる方がいるのも事実。

そんな方のために、小生の過去記事「誕生日と精神医学」でも紹介した”誕生日ブルー対策法”をアレンジしたクリスマス鬱を克服する方法をご紹介して本記事を終えたいと思います。

<クリスマス鬱を克服する方法>

クリスマスは早めに寝る: 悶々とした気分から脱出するために早めに寝て睡眠時間を確保しましょう。

クリスマスをちょっと特別にしてみる: 少し早起きをして、通勤途中でカフェで少し時間を過ごすのはいかがでしょうか?日常に少し変化を与えることで、心をはずませましょう。

期待しない: 「ひょっとして誰かからパーティーのお誘いが…」と期待せず、「今日は365日のうちの1日に過ぎない」と思いましょう。

忙しくする: クリスマスのことが頭から離れない人は、むしろ忙しくしてクリスマスのことを忘れちゃいましょう。何かに打ち込めば無の境地に…?

飲みすぎない: クリスマスだからといって一人で呑むとついつい深酒になりますが、これはよろしくないです…。適量を嗜みましょう(小生はクリスマスとか関係なく飲んでいますが…😅)。

キリスト教信者ではないことを認識する: そもそもクリスマスはキリスト教信者の行事。神道や仏教が主流である我が国では無関係のイベントですよ😤!

それでも寂しければ家族と過ごそう: 海外ではクリスマスは「家族と祝う行事」だそうです。もしクリスマスを共に過ごす恋人や友人がいない場合、ケーキを買って実家に戻ってみてはいかがでしょうか?

クリスチャンになる: もし一緒に過ごす家族がおらず、それでもクリスマスに寂しい…、と感じるあなた!クリスマスにそんなに寂しい思いをするのであれば、いっそのこと真のキリスト教信者(クリスチャン)になり、教会にいってミサに参加してみてはいかがでしょうか(ちなみに小生はクリスチャンではなく神道の家系です⛩)?

専門家に相談: 色々試してみても、やはりクリスマス鬱に陥りそうな時は、カウンセラーや精神科医など専門家に相談してみましょう。背景にうつ病などの精神疾患が隠れている場合、治療によってクリスマス鬱から卒業できるかも知れません。


【まとめ】

クリスマスに自殺者が多くなるか否かを検討した海外論文を紹介しました。
・本研究結果によるとクリスマスシーズンではむしろ自殺者数は減り、いわゆる”クリスマス鬱”が都市伝説であることがわかりました
日本においても月別自殺数を調べると、クリスマスシーズンである12月が最小でした(過去6年のデータ平均)。
・クリスマスが寂しくて耐えられない方へ…、小生が紹介した対策法は役に立たないかもしれませんが、クリスマスという一宗教行事があなたの価値を決めるわけではありません!いつも通りに過ごしてください!


【参考文献など】

1.Nothing like Christmas--suicides during Christmas and other holidays in Austria. Ploderl M et al., Our J Public Health, 2015

2.Best evidence topic report. Suicide at christmas. Carley S and Hamilton M, Emerg Med J, 2004

3.Seasonality of self-destructive behaviour: seasonal variations in demographic and suicidal characteristics in Van, Turkey. Aydin A et al., Int J Psychiatry Clin Pract, 2013

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