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食事と精神医学(3):チョコレートを食べるとノーベル賞が取れる?〜海外文献の紹介〜

【本記事は全て無料でご覧になれます】

こんにちは、鹿冶梟介(かやほうすけ)です!

先週から今週にかけて、ノーベル賞受賞者の発表がありましたね😆

残念ながら今年は日本人受賞者はおりませんでしたが、毎年この季節は期待に胸を膨らませます。

(日本人が受賞するのでは…、と思うとなんだかドキドキしませんか?)

さて、今回の記事は「あるものをたくさん食べるとノーベル賞が取れるかもしれない…?」という論文について紹介します。

小生も大好きな「あるもの」とは、一体…?

...って、タイトルを見たらバレバレですね😅

皆様も、チョコを齧りながら本記事を是非楽しんでください。

↓チロルチョコでパーティーはいかがですか?



【研究紹介】

Chocolate consumption, cognitive function, and Nobel laureates, Messerli FH, N Engl J Med, 2012

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23050509/

<目的>
チョコレートの消費量とノーベル賞受賞者数に相関があるかを調べる

<方法>
国民一人当たりのノーベル賞受賞者数ランキングは、Wikipediaで調べた。このデータをもとに当該国の人口1,000万人に対するノーベル賞受賞者数を算出した。
2011年10月10日までに授与されたすべてのノーベル賞受賞者を対象とした。一人当たり年間チョコレート消費量のデータは、Chocosuisse、 Theobroma-cacao、 Caobiscoから入手した(2022年現在はリンク切れ)。

<結果>
23 カ国において、1 人当たりのチョコレート消費量と 1,000 万人当たりのノーベル賞受賞者数との間には、有意な線形相関が認められた(図 1)。
回帰直線の傾きから、ある国のノーベル賞受賞者数を1人増やすには、国民1人当たり年間約0.4kgのチョコレートが必要であると推定された。


図1:国別人口1000万人あたりのノーベル賞受賞者数とチョコレート消費量

<結論>
チョコレートの消費量は各国のノーベル賞受賞者数と密接に相関している。

【鹿冶の考察】

本研究について、”チョコっと"長いですが補足説明します。

<本研究のきっかけ>

そもそも「なんでチョコレートとノーベル賞の関係を調べたの?」と疑問をもった方もいると思います。

実は、以前より「食品性フラボノイド(ポリフェノール)は認知機能を向上させる」と言われきました。

そしてチョコレートの原料であるカカオ豆にはフラバノール、通称"カカオポリフェノール"が多量に含まれております。

ある日のこと、チョコレート好きのMesserli医師(本研究の著者)は、「ポリフェノールが認知機能を改善させるなら、チョコレートをたくさん食べる人は頭良いんじゃね...?」とチョコレートを齧りながら思ったそうです。

しかし過去の研究を調べたところ、人のチョコレート摂取量はマチマチで、エビデンスレベルの高い疫学研究はないことが判明します。

普通なら、ここで調査を諦めると思うのですが、Messerli医師は「頭良い人 = ノーベル賞受賞者だな!?よっしゃ、ノーベル賞受賞者の多い国のチョコレート消費量を調べてみっか...!」と、切り口を変えて調べたのが本論文なのです...!

(少し脚色してますが、Messerli医師は論文中でリンツ(Lindt)のダークチョコを毎日食べているとCOIの開示をしております)


<論文のクオリティ>

Messerli医師の探究心、諦めない心、そしてチョコレート愛には感服しますが、正直言って研究の質(クオリティ)としては低いです。

そもそも対象となる国はたった23カ国であり、しかもノーベル賞受賞者が多い国 = 頭が良い人が多い国、という訳ではありません!

チョコレート消費とノーベル賞受賞という二つの事象の間には、無数の交絡因子が存在しており、ちょっと飛躍した仮説と思わざるを得ません。

(この点はMesserli医師も認めているところではあります)

しかも、本研究はwikipediaのデータとネットで得られるチョコレート消費量を”チョコチョコ”っと調べただけです…。

研究の労力的にはブログで紹介するようなレベルの論文が、超一流医学雑誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載されるとは...、10年前の論文とは言え、ちょっと信じられません…。


<だがしかし、この結果は興味深い>

しかし、この論文が超一流医学雑誌に掲載された理由があります。

それは、「データがあまりにも綺麗」という点です。

図1のグラフでも示したように、各国のチョコレート消費量とノーベル賞受賞者数は綺麗な直線を描いているように見えます。

計算では、相関係数は0.791(スウェーデンを除外すると相関係数は0.862!)と驚異的な数字が出ております。

相関係数は0に近いと「無関係」であり、1に近づくと「相関あり」とみなされます。

通常、この手の研究では0.4-0.7あれば、「相関がありそうだ」と研究者は喜びますが、これが0.7を超えると「すごい発見だ!」と小躍りします(かなりざっくり説明しております)。

無数の交絡因子が存在するとは思いますが、それでもこの結果は検証するに値する興味深いものなのです。


<その後の研究: やはりチョコを食べるとノーベル賞!?>

以前からチョコレートによる認知機能改善の報告はありましたが、本論文が発表された後、"雨後の筍"の如く同様の論文が次々に発表されました。

詳細は割愛しますが、2017年に発表されたレビューによると、14の臨床研究のうち12の研究でチョコレートによる認知機能改善効果が報告されているのです(文献2)!

具体的なチョコレートの作用としては、1.集中力の向上、2.情報処理速度アップ、3.ワーキングメモリーの改善、4.血管保護作用…、などが挙げられております。

これだけ報告されているとなると、やはり「チョコレートの認知機能改善効果」って本物かも知れませんね。

従って、先ほどは散々ディスりましたが、Messerli医師の研究は多くの臨床研究の呼水になったので、やはり価値のあるものだったのではないでしょうか?

ただし、「チョコレートを食べる => ノーベル賞をゲット!」という因果関係は証明されておりません。
つまり、チョコレートをいくら食べてもノーベル賞受賞は保証できません(悪しからず)!

【まとめ】

ノーベル賞受賞者数とチョコレート消費量に関する論文を紹介しました。
・チョコレートに含まれるポリフェノールが人の認知機能を向上させるため、チョコ消費量が多い国ではノーベル賞を受賞者が多い…、と筆者は考えたようです。
・飛躍した仮説ですが、その後の臨床研究の呼水になったので価値ある論文と思います。
・ただし、いくらチョコを食べてもノーベル賞受賞は保証できません
・小生、チョコ大好きです!

↓ノーベル賞メダルのレプリカだそうです。


【参考文献など】

1.Chocolate consumption, cognitive function, and Nobel laureates, Messerli FH, N Engl J Med, 2012

2.Enhancing Human Cognition with Cocoa Flavonoids. Socci V et al., Front Nutr, 2017


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