【Netflix】「インドラ二・ムカジーの物語」野心の化け物、インドの「頂き女」
【概要】
インドラニ・ムカジーの物語: 埋もれた真実
The Indrani Mukerjea Story: Buried Truth
2024 | 年齢制限:13+ | 1シーズン |ドキュメンタリー
新事実とこれまでにない密着取材を通して、インドを震かんさせた25歳のシーナ・ボーラの失踪事件とそのショッキングなてん末を検証するドキュメンタリーシリーズ。
予告編
【評価】
2月に世界公開されたNetflixのドキュメンタリー。45分×4回。
2012年にインドで起こった「シーナ・ボーラ殺人事件」をあつかっている。
インド当局が介入して、公開が遅れたことでも、海外で話題になったこのドキュメンタリー。
海外では大ヒットしたんだけど、日本ではあまり評判を聞かない。
でも、見たほうがいい。
このシーナ事件、最近の日本で話題の事件に、ちょっとずつ似てるんだよね。
「宝島夫妻殺害事件」にも似てるし、「西新宿タワマン殺人」にも似てるし、「紀州のドンファン」事件にも似ているし・・
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このドキュメンタリーの主役は、殺人の首謀者と目される、インドラーニ・ムケルジーという女です。
そして、殺されたシーナは、インドラーニの娘。つまり、「子殺し」事件です。
まあとにかく、ここまで「野心」を隠さない女は、見たことがない。
海外でも、このインドラー二は「super ambitious」と評されていた。まさにそのとおり。
インドの超「頂き女」に、みんな驚くと思う。
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日本の「頂き女子」って、女を武器にした手口にだけ着目すると、ただの詐欺師だけど。
でも、その背後には、「金持ちになりたい」「成り上がりたい」「金と権力をもって自由になりたい」という「野心」があるわけですね。
詐欺はダメだけど、本来、そういう野心、上昇志向は、たたえられるべきものでもあるわけです。
タワマン殺人も、お店を経営して新宿のタワマンに住む野心ある女と、趣味に生きる野心のない男との事件なわけでーーわたしのような年寄りには、男女が逆転しているとしか思えない。
男が情けない・・と。
「少年よ、大志を抱け」というクラーク博士の言葉を、わたしの子供のころはさんざん聞かされたけど、いまあまり聞かないのは、「少年 boys」というのが性差別的だからかもしれない。
でも、あれ、復活させたほうがいいんじゃないでしょうか。男に大志がなさすぎて、女が野心的になりすぎている。
インドでも同じ、と思わせるのがこのドキュメンタリーですね。
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インドラーニは、詐欺師というわけではない。
2008年には、ウォールストリートジャーナルで「世界で最も力がある50人の女性」の1人に選ばれた大物。
インドのメディア王、ピーター・ムカジニーと結婚して、みずからも「インドのCNN」を目指したメディア企業のCEOでした。
彼女は、貧しい生まれだった。インドのような身分社会では、本来出世は難しい。
でも、このドキュメンタリーでみずから言うように、「子供のころから頭がよく」「どんな場所でも男たちの目をいちばん惹くほどきれい」だった。
インドの美人って、アーリア系の超美人が多い。
彼女を客観的に見ると、たしかにきれいとは思うけど、そこまでとは思えない。
でも、本人は「自分がいちばんきれい」だと思ってる。
これですよ。インドラーニの、この超ポジティブな自己肯定感が、このドキュメンタリーのインタビューでは何度も出てきて、圧倒されます。
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彼女は、インドの田舎から、3度結婚を繰り返し、そのたびに出世していく。
10代で田舎で知り合った最初の夫は「いい人」で、彼女を愛していたけれど、「生まれが貧しく、退屈」だから別れた。
彼女は出世の機会を求めて大都市のコルカタ(カルカッタ)に行き、そこの有力者と2度目の結婚をするけれど、「やっぱ、もっと大都市のムンバイで成功したい」ということで、別れる。
そしてムンバイに行き、見事ムンバイのメディア王を射止めて、みずからメディアの女王となる。(そして最終的には、そのメディア王の財産を引き継ぐ立場になる)
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そこで起こったのが、「シーナ殺人事件」です。
シーナは、ムンバイでは「インドラーニの妹」として紹介されていたのですが、実はインドラーニの娘。
公式には、最初の夫との子供。しかしインドラーニの申し立てでは、「16歳のときに父親にレイプされてできた子供」でした。
シーナは、長らくインドラーニの田舎に隠され、インドラーニの両親、つまりシーナから見れば祖父母に育てられていた。
インドラーニによれば、「私の出世の邪魔になるから、両親が気を利かせて私の代わりに育てた」ということですが、育児を親に押し付けたのが真相でしょう(「父親にレイプされてできた」という話は、その育児放棄の正当化のための嘘ではないかと疑われます)。
ちなみに、娘に「シーナ」という名前をつけたのは、インドラーニが「シーナ・イーストンのファンだったから」でした。世代がわかりますね。
そのシーナは、美しい娘に成長しました。実際、わたしの目からは、母のインドラーニより魅力的です。
そこで、インドラーニは、シーナを自分の後継者候補と考えたのでしょう。ムンバイに「妹」として呼び寄せる。
だが、そこで何かが起き、インドラーニにはシーナが邪魔になったーー
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2012年にシーナの姿が見えなくなったとき、それは「失踪」として処理された。
2015年、インドラーニの指示でシーナの殺害に関与したという、インドラ-ニの運転手の証言で、一気に事件化する。
その運転手の証言による、シーナ殺害のようすが、「宝島夫妻殺人」によく似ているんですよ。
首謀者、指示役、実行役と分かれ、被害者を車で誘い出し、最後は森のなかで死体を焼く。
インドラ-ニは、ほかの被疑者とともに逮捕されますが、結局2022年に保釈される。
実は、この事件はいまだ審理中で、結論が出ていない。被疑者はみんな保釈されて、自由の身です。
いかなるインドの「神秘な力」が働いているのか・・。
でも、このドキュメンタリーの描き方は、はっきり「インドラ-ニは黒」なわけです。
にもかかわらず、このドキュメンタリーに唯一協力した被疑者はインドラ-ニで、「何も隠すことはない。私は無罪。シーナはどこかで生きているはず」としゃべりまくっている。
その「悪びれなさ」がすごい。
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こういう「野心的な女」は、日本にもいますね。
最初に言ったように、「野心的」なのは本来、いいことです。
わたしがこのドキュメンタリーを見ながら連想したのは、小池百合子とか、デヴィ夫人とか・・
以前、noteに書いたことがある、漫画家の西原理恵子と娘の関係も連想しました。
目をみひらいて、憑かれたようにしゃべるインドラ-ニの顔は、以前テレビとかで見た西原理恵子に似てるんだよね。
子供を、金銭的援助を材料にあやつるところとか、子供の問題行動にたいして、自分で教育するのではなく「病気は専門家に」とすぐ精神病院に入れるところとか、ニュースで伝えられた西原と子供の関係を連想させました。
もちろん、似ているのはそこまでで、西原のところで同じような事件があったわけではないですが。
インドラ-ニのような、「自分の力だけで成り上がった」という女の自信は、周囲を圧倒するものがあるんですね。
彼女には、彼女だけが知る苦労がたくさんある。周囲の人間は、彼女ほどの苦労をしていない。自分だけが成功に値する、と彼女は思っているのでしょう。
女の成功者は、男の成功者より、孤独なのかもしれない。
インドラ-ニには、シーナ以外にも、子供がいます。
子供たちはそれぞれ、母親らしさのないインドラ-ニの権力的姿勢に反発する。
でも結局、みんなインドラ-ニの経済力に依存しているので、最後には彼女に屈服せざるを得ない。
それがインドラ-ニにもわかっている。
野心でのし上がり、成功した女は、立派だけど、モンスターにもなりうる、というのがよくわかるドキュメンタリーなのです。
<参考>
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