毒親、虎親、怪獣親
Netflixの「ジェニファーのしたこと」(2024年4月10日公開)が人気となり、「タイガー・ペアレンツ」が英語圏であらためて話題になっていた。
「ジェニファーのしたこと」は、カナダ在住の親子で起こった殺人事件のドキュメンタリー。両親が銃撃され、娘が生き残った。
ベトナム系移民の両親の、娘(ジェニファー)にたいする厳しい教育が、ひとつの背景になっている。
The nuanced and complicated issue of Jennifer’s parents’ “tiger” parenting barely gets a mention.
タイガー・ペアレンツとは、中国人、あるいは東南アジアに特徴的な、子供の教育に厳しい、過干渉の親を指す。
中華系アメリカ人で法学者のエイミー・チェアの著書「Battle Hymn of the Tiger Mother」(原著2011年 邦訳『タイガー・マザー』)から広まった言葉だ。
背景には、儒教の伝統があるとされている。
「タイガー・ペアレンツ」のアメリカ版としては「ヘリコプター・ペアレンツ」(ヘリコプターで上空から子供を監視するように干渉する親)という言葉がある。
そういう言葉としては、日本人なら「教育ママ」を思い浮かべる。
そう、「Kyoiku mama」のほうが、エズラ・ヴォーゲルの「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(原著1979年)などで、「タイガーマザー」より先に世界的に知られている。
実際、「タイガーマザー」は、「キョーイクママ」と同じような概念だと英語圏でとらえられている。
日本では、「毒親」という言葉がよく使われる。
これは、スーザン・フォワードの「Toxic Parents」(原著1989年)の
邦訳『毒になる親』(1999年)から広まった。
「毒親」には、過干渉の「タイガーマザー」「キョーイクママ」も含まれるだろうが、ネグレクトなども含まれる。もう少し広い概念ということになる。
「Toxic Parents」という言葉は、英語圏でそれほど使われていないように思う。
日本でいう「毒親問題」は、英語圏では、ナルシシスティックな親の問題(そのため子供の自尊心が育たない)ととらえられることが多いのではないか。
つまり「毒親」では、親の側の人格異常が問題で、行き過ぎた教育熱心を特徴とする「タイガーマザー」「キョーイクママ」とは一応、別概念だろう。
これもNetlixの新作、スペインの実話をもとにしたドラマ「アスンタ・バステラ事件」(4月26日公開)に登場する、殺された娘「アスンタ」の母親が、「自己愛性人格障害」だと言われている。
ちなみに、学校などのクレイマーとなる「モンスターペアレント」は、向山洋一の造語(和製英語)だ。
だが、2008年のドラマ「モンスターペアレント」(フジテレビ系、米倉涼子主演)が輸出されたことで、この概念はアジア全域、とくに香港で広まった。中国語で「怪獸家長」と呼ばれ、「香港キッズ Hong Kong kids」(家族に依存しすぎる子供)などの言葉も同時に生まれている。
この「モンスターペアレント」も、「タイガーペアレンツ」「キョーイクママ」と関連して使われているようだ。
子育ては、むかしはもっと単純だったはずだが、近年は精神医学風の概念が氾濫し、親にとって厳しいものになっている。
「育て方」が、あとで子供に糾弾されるおそれがあるのだ。
斉藤学が言うように、こうした傾向は「アダルトチルドレン論」に始まり、日本ではそれが「毒親論」に収れんしていったのだろう。
子供にとっては、こうした概念で、自分のマイナス面を親のせいにできる。
それでなくても、教育の高コスト化が進んでいる。こうした言葉がふえるほど、ますます子育ての意欲が減退していくだろう。
<参考>
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