超うれしかった話。

僕という人間は、貢ぎ癖がある。
職場の後輩女子たちに、す〜ぐ奢っちゃう。
あと、推しと呼べる存在にも、す〜ぐお金を使ってしまう。

女優の宮﨑香蓮さん目当てで舞台を観に行ったとき、事前に『推し花』の募集があった。
これは、「お金を払えば、劇場のロビーで演者さんにメッセージを流せますよ」みたいなやつ。
当然払ったよね!!

そして最近、女優の広山詞葉さんの舞台でも似たようなシステムがあった。
広山さんのことが好きなので、こちらも当然払ったよね!!!
僕はそういう人間なのである。

あと、プロレスが大好きだ。
一番好きなのは、アメリカのWWEという団体で活躍するAJスタイルズ選手。給料は全て彼のグッズに注ぎ込んでいる。
AJが好きすぎて、アメリカから等身大パネルを取り寄せたくらいだ。

「推す」と「貢ぐ」は違うかもしれないが、「愛情は金額だろ!!」と思っているので、むしろ誇るべきである。

また、僕の仕事はテレビのDなのでエンタメにはお金を使いたい。
「経済回そうぜ!」である。

そんな中、超うれしかった出来事が。
今週、推しの後輩女子に貢げたのだ。

彼女はいつも僕がちょっかいをかけるたび、イイ感じにあしらってくれる。
僕は入社9年目で、相手は3年目。
先輩としての威厳が皆無なので、

「キモい」
「そんなんだから童貞なんですよ」
「なんていうかもう、かわいそう…」

などと言ってくれる。

お察しのとおり、彼女は本気で迷惑しているが、そんなの関係ない。

「いや〜、オレって好きな子いたらイジメちゃうタイプだからさ〜」

と言って、よりキモがられている。
これが最高に楽しいのだ。

しかしながら、訳あって僕が人生初のコンタクトレンズをするとき、遠隔操作で丁寧に指示をくれた。

「おい!全然目に入らないんだけど!!」とLINE。

「ちゃんと目ぇガン開いてます?」

「やっぱこわいよ!無理だよ!!どうしたらいいの!?」

「びびってんじゃねー!!」

「よし!片目だけ入ったぞ!」

「それが成長です」

と、なんだかんだ親身になってくれる。

そんな後輩女子なのだが、僕は普段どうやって話しかけたらいいのか分からないのである。
根っこが童貞なので、会話のキッカケが掴めないのだ。
だからちょっかいをかけるしかない。
そしてキモがられるし、ダルがられる。これの無限ループ。
彼女が堀北真希なら、僕は山本耕史なのだ。

そのことを彼女の同期の女子に話してみた。
すると、

「UFOキャッチャー得意ですか?」

と言われた。

どうやら、彼女の好きなキャラの景品が出ているらしい。

「あと、家の近くにイオンありますか?コラボ商品が出てるらしいですよ。でも、『近所にイオンないんだよなぁ』ってボヤいてました」

という情報もくれた。

よし、これは行くしかない!!
事前にXで調べたら「完売です」の嵐。しかし、「推しは推せるときに推せ!」だ。
もしもUFOキャッチャーで、景品のミニぬいぐるみをゲットできた場合のボケも考えた。

「まぁ、GPS埋め込んだからさ。これでお前んちの住所も分かるな」

「こうやってね、プレゼントを渡すことによってね、『それが後の主人です』みたいなエピソードを結婚式で話したりね」

この二つを絶対に言うぞ!

でも僕は女性の前で斜に構えてしまう。

きっと、

「いやぁ〜、なんかさ?たまたまゲーセン行って?なんかぁ〜、お前の好きなキャラだっつーから?なんかぁ〜、取ってきたよ」

って言うんだろうなぁと思った。

その週末、早速ゲームセンターへ。
すぐに景品を発見。
「これが彼女の好きなキャラか」と、ミニぬいぐるみを睨みつける。
ギャンブル大好き芸人さんが、「パチンコって脳汁が出るんですよ!」と言っているがあれは本当だ。
このチャンスを掴めば、彼女と話すキッカケになるわけで。
そこへきて僕は「愛情は金額だろ!!」という精神の持ち主。
年上の人間が年下の人間にアピールできることって、財力しかない。
もしこれが彼氏だったら「お金もったいないよ!」と止められるだろうが、僕はただの先輩である。
僕が彼女の立場なら「いけいけ!どんどんお金使え!!」と思うはず。
オレのお金なんて何の価値もないのである。

脳汁が溢れて、ガタガタと震えながらお金を投入。
合計で2500円使った。
その結果なんと!!
…何も取れなかった。
これ以上お金を使うと、仮に取れてもドン引きされる可能性がある。
そう思って切り上げた。
自己嫌悪に陥りながら「じゃあ、せめてイオンに行くか!」と、小走りで向かう。
そして売り場に到着!
コラボ商品は売り切れていた。
おいおいおい!
オレは一体何をしているんだ!?
世の中、結果が全てなのである。
どれだけ頑張ったかとかマジでどうでもいい。
成果をあげられなかったヤツに価値などないのだ。
思わず『ONE PIECE』のゾロばりに、

「……なにも!! な゛かった…!」

とつぶやいて帰った。
人というのは、こういうときに転売へ手を染めるのだろう。

そして週明け、推しの後輩女子と耳寄り情報をくれた女子に話しかけられた。

「ちゃんとゲーセン行ったんですか?」

と。

ここで僕はプライドの高さゆえ、

「は?行くわけねーだろ!アホか!!」

とウソをついてしまった。

結果を出せなかったことが恥だからである。

「そんだけお金使ったのに取れないのダサっ!」と思われたくない。
「本当に行ってくれたんですか!?うれしい!」と言われる可能性もあったかもしれないが、僕はそういう人間だ。

でも、やっぱりちょっと卑しいところが出てしまった。

耳寄り情報女子にだけコッソリ、

「さっきのウソ。本当はゲーセンで2500円使った。イオンも行った。でも、ダメだった。いわばゾロ。ゾロなのよオレは。頑張ったことだけはやっぱ伝えといてくんない?」

と超早口で言った。

めちゃくちゃダサい行為である。

なんだよ、「頑張ったことだけはやっぱ伝えといてくんない?」って。
僕が僕たる所以を表しているエピソードだ。

その数日後、身の回りで悲しい事件が起きた。
とてもショックだった。
ショックの度合いで言うと、「失恋した」「全財産を失った」「クビ宣告された」くらいのレベル。
都内で働いているのだが、その日は昼過ぎに終わったので、「羽田空港で飛行機の離着陸を眺めようかなぁ…」「上野動物園でパンダでも観に行こうかなぁ…」と絵に描いたように動揺した。

そして、気がついたら埼玉県は大宮駅のゲームセンターにいた。
ショックすぎて、誰かの喜ぶ顔が見たくなったのである。
そのときに思い浮かんだのが、推しの後輩女子だった。

ちなみにだが、位置関係を新幹線で表すと、品川駅に自宅があって、東京駅が職場、なのに新横浜駅のゲーセンに行った。みたいな感じ。
自宅と職場の間ではなく、自宅の先にあるゲーセンへ行ったのである。
動揺もあるけど、これってもはや「愛」じゃない!?
わざわざ遠いゲーセンに行ったのよ!?「推し」ってか「好き」なんじゃない!?
すると、前回取れなかったぬいぐるみを発見。
何の迷いもなく500円を投入。
三回プレイできるのだが、一回目であっけなく取れた。

「へ?」

と、情けない声が出る。
それと同時に、「心がこんな状態だってのに、取れるもんは取れるんだな」と、誰にも理解されない皮肉を言いたくなった。

そして、「取れた」とは言うものの厳密には違う。
アームが開いたのだが、そこにぬいぐるみが引っかかって景品口へ落ちなかったのである。

すぐさま近くにいた店員さんを呼ぶ。「陰」か「陽」で分けるなら「陰」のロン毛男性。

「あぁ…お客様、これはですね…」

と言って神妙な面持ちでカギを開ける。

えっ、マジかと思った次の瞬間、

「当然GETです!おめでとうございま〜〜〜〜すっ!!!」

と言われた。

いやお前、そのエンタメ精神いらねぇんだよ!
オレの精神状況知ってんのか!?!?
「失恋した」「全財産を失った」「クビ宣告された」くらいのレベルだぞ!!!
思わずブチギレそうになった。
しかし、大人なので当然耐える。

しばらくして、ジワジワと景品が取れた喜びを感じ始めた。
興奮して小走りでゲームセンターを出る僕。
そしてあることを思い出した。
「電車でもう一駅行けば、別のゲーセンもあるなぁ。しかもそこ、イオンの中だ!!」と。
電車に乗って、駅から徒歩20分のイオンへと向かった。

まず、ゲーセンではなく食料品売り場でコラボ商品を探す。
しかし、ここでも売り切れ。
まぁ、仕方ない。
切り替えてゲームセンターへ。
先ほどのぬいぐるみを発見!
「推しのグッズなんていくらあってもいいだろ!」の精神で、同じ景品に対し三度目のUFOキャッチャーに挑戦した。

数日前のゲーセンで2500円。
大宮で500円。
ここのイオンでは1500円使った。
合計金額4500円!

しかし、人生そんなうまくはいかない。そのイオンでは結局何の結果も出せなかった。
でも、ぬいぐるみを取れたことには変わりない。
僕は結果を出したのだ。

余談ではあるが、全然関係ない別の後輩にこのことを話した。
「3500円使うってすごいですね!」と勝手に1000円減らされた。
当然のようにブチギレたことは言うまでもない。

翌日、ウキウキで出社。
しかし、すれ違いで会うことはできなかった。
一応、自分の仕事道具の入ったロッカーへぬいぐるみを保管。
ゲーセンの袋は持ち運びでボロボロになっていたので、
余分にもらっておいたキレイな袋に移し替えておいた。

さて、どうしたものか。
もちろん、彼女の喜ぶ顔が見たい。

でも直接渡すと斜に構えてしまうので、

「お前への献上品、オレのロッカーに入れといたわ!」

と、LINEだけ入れておこうかと迷った。そうしたら会わなくていいし。

あまりにも迷ったので、出先にいる同期に電話。

「いや、直接渡せよ。っつーか、そんなことで電話してくんな」

と言われたので、この日は業務を終えて普通に帰宅。

その翌日、僕は誰よりも早く出社した。ソワソワとしているのだが、全然彼女がこない。
弊社はフレックスなので、いつ来るか分からないのである。
かといって、「今日会社来る?」と聞くのもなぁ。
思わず、「来ねーのかよ!帰ろうかな」と大声でつぶやいた。

すると昼過ぎに彼女が出社してきた。
「うわっ、どうしよ、ヤバっ!」と焦る僕。
周りに人がいる中で渡すのは恥ずかしい。絶対にカッコつけてしまう。
そう思ったので、彼女がロッカーへ行ったのを猛ダッシュで追跡!
言っていなかったが、僕は身長190センチある。
そんな男の猛ダッシュ。
ロッカーのある場所は電気がついていないこともあり、「うわっ!なんですか!?こわい!!!」と彼女に言われた。

ここで僕は自分のロッカーを開ける。

「なんかぁ〜、お前がぁ〜、喜ぶって聞いてぇ〜、取ってきたんだけどぉ〜、コレで合ってるぅ?」

と、案の定斜に構えて尋ねた。

彼女は袋を開けて、

「えっ!!」

と大声を出した。

そして、飛び跳ねて喜んでくれた。

やったぜオイ!!

イェーーーーーーーイ!!!!!

そのままハイタッチしてくれた。

文字どおり、飛び跳ねて喜んでくれたのである。
いや〜、オレ超うれしい!!!!!!!!!
やっぱり直接渡して正解である。

そして、未発表で終わる可能性のあった

「まぁ、GPS埋め込んだからさ。これでお前んちの住所も分かるな」



「こうやってね、プレゼントを渡すことによってね、『それが後の主人です』みたいなエピソードを結婚式で話したりね」

の二つを無事にボケることもできた。

彼女からは、いつものように「あ、そういうのいらないです」とあしらわれた。たまんねぇなオイ!!!
いや〜、本当にうれしい。
しばらく震えが止まらなかった。

その後、いつものように彼女へちょっかいをかける。

「ねぇ、やめて!…って言おうと思ったけど、推しのぬいぐるみ取ってくれたから今日だけは許す!!」

とのこと。

「今日だけは許す!!」??

お前、めちゃくちゃイイ女だな!!!
オレはうれしいよ!!!!!!!!
危うく勃起するところだったよ!!!!!!!!!!!

思わず彼女を下の名前で叫んでしまった。
記念で一緒に写真も撮った。

そこでもう、これまでのことを全部話した。
「気づいたら大宮にいて〜」とか「2500円使って〜」とか「イオンはどこも売り切れで〜」とか「『さっきのウソ。本当はゲーセンで2500円使った。イオンも行った。でも、ダメだった。いわばゾロ。ゾロなのよオレは。頑張ったことだけはやっぱ伝えといてくんない?』って言っちゃった」とか。
彼女は「ダサいですね〜!ってか、本当に言いそう」と笑ってくれた。

いや〜、本当にうれしい。うれしいよ、僕は。
悩みとかどうでもよくなったもんな。
そして目的を達成した僕はさっさと家に帰った。
僕が渡したミニぬいぐるみは、持ち歩き用に使うらしい。
お礼のLINEにそう書いてあった。
どうぞどうぞ、僕だと思って色んなところへ連れて行ってください。
GPSも埋め込んであることですし。
うれしすぎて、インスタのストーリーズで一時間おきに彼女の下の名前を書いて投稿した。
彼女はフォロワーでもなんでもないので、知るよしもないだろう。

その日の夜、まだまだうれしかった僕は、彼女の下の名前を叫びながら布団を抱きしめて寝た。
「『今日だけは許す!!』って、たまんねぇだろ!!結婚したら言ってもらえるのかなぁ?」と、妄想したとかしてないとか。
これもまた彼女は知るよしもないだろう。

以上、超うれしかった話。

僕には貢ぎ癖がある。
でも、喜ぶ顔が見れたのなら、貢ぐのも悪くないよね。

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ラジオのハガキ職人です。

仕事はテレビのD。

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そして『文学フリマ東京38』でエッセイを寄稿しました!

『BANDIT』という雑誌で、テーマが「ハガキ職人と笑い」。

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3年くらいnoteやってますが、まだ誰からもサポートされたことないです!