神敦子

書き物をうけおったり、校正や校閲をしたり、近所のイタリアンレストランで、お庭の草抜きを…

神敦子

書き物をうけおったり、校正や校閲をしたり、近所のイタリアンレストランで、お庭の草抜きを手伝ったりしています。教室の後ろの壁にこっそり貼る、ぐらいの気持ちで、ちょっとずつ書いていきたいと思います。

記事一覧

ズボンの右と右を作ってしまう

右足をつっこむ筒をつくり、左足をつっこむ筒をつくり、それを重ねて縫い合わせるというのが、ズボンの作り方なのだけれども、無地のリネンなどでズボンを作る際、ときどき…

神敦子
5日前
1

とりあえず湯をわかす

何もやりたくない日がある。 ていねいな暮らしというものを実践したいと高い志はあるけれども、起きただけでわたし偉い、とねぎらいたくなる日というものがあって、そうい…

神敦子
1か月前
8

なじむことにはエネルギーが要る

ホームシックにはならないと思っていた。 ひとりが好きだし、ずっとひとりが好きだったし、実家は好きじゃないし、地元への愛も別にないし、地元で祭りがあるからと言われ…

神敦子
2か月前
8

あのひとは友達だったと思いたかった

「高校を卒業したら、詐欺に気をつけろ」と言われた。 春になるとことさら、巣立ったばかりの若者を狙う詐欺が多く出没するらしい。 上京したばかりの学生の頃、たしかに…

神敦子
4か月前
13

自己紹介など

書き物をうけおったり、校正や校閲をしたり、近所のイタリアンレストランで、お庭の草抜きを手伝ったりしています。 いろんなものを取材して、いろんなものを書いてきまし…

神敦子
5か月前
27

芦原妃名子さんのニュースに思うこと

子どもの頃に、大好きな物語が映画になって、わくわくしながら映画館に観にいったら、全く別物になっていた。よかったねーと周りが言っているのに、なんだか悲しくて、ちょ…

神敦子
5か月前
21

裏も表も印刷だけの年賀状なんて

裏も表も印刷だけの年賀状なんて、インク代もハガキ代も切手代ももったいないので、どうぞわたしには送らないでいただきたい。 そんな気遣いをしてもらうのが新年早々申し…

神敦子
6か月前
3

元は取らなくていい

元を取りたいという気持ちは、どうしたってあって。 ビュッフェに行ったら、オードブルとお肉とお魚、ピザもパスタも食べてお腹いっぱいになってしまっても、ケーキは全種…

神敦子
7か月前
5

世界一要らない情報

会社をやめるとき、わたしの送別会の幹事を、ちょっと苦手な先輩がしてくれた。 ふたり一緒にしなくてはならない仕事がたくさんあって、困ったなあ、やりにくいなあ、仕事…

神敦子
7か月前
5

チョコレートが

チョコレートが、ものすごくものすごく健康的で、青汁並みに栄養素がつまっていたら。 肩書きをもった偉いひとが、論文を書いてこぞって推奨してくるようなものだったら。 …

神敦子
7か月前

クーポンを使い忘れた

キャンセルできないけど、必要だから、えいやっと買った11,800円のものについて、25パーセント引きのクーポンを持っていたことを直後に気づいて、ここ数日ずっとひきずって…

神敦子
7か月前
3

ぐりとぐらの

ぐりとぐらの絵本はもちろん大好きだけれど、ぐりとぐらのカルタというものがあって、それの読み札がいい。 もうできたかともいちどのぞく、と呟きながら、鍋のふたをあけ…

神敦子
7か月前
4

靴下が値上がりした

3足1,000円の靴下を、レジに持っていったら、1,300円だった。 あれ、これ、1,000円じゃなかったですか、と驚いたら、もう結構前に、1,300円になったんです、と店員さんが…

神敦子
7か月前
3

もういないひとが不意に夢に

みっつ上に、憧れの先輩がいて、高校卒業時と同じ様子で夢にでてきて、どうして今頃と起きてからぼんやりした。 夢の中でわたしは、自分の家に帰ったばかりで、どうしてだ…

神敦子
7か月前
2

知らないあいだに

緑ではなくみずいろのソーダ水と、ハムとレタスとチーズと半熟の目玉焼きが入ったサンドイッチが美味しくて、ともだちの結婚報告をきいて、よかったねよかったね、と一緒に…

神敦子
7か月前
3

夜の羊

ふたご座流星群をみるために、深夜外に出てみたが、雲があった。 雲はぽこぽことおなじぐらいの大きさにちぎれたものが見渡すかぎりにひろがって、そこに風の帯があるのか…

神敦子
7か月前
4
ズボンの右と右を作ってしまう

ズボンの右と右を作ってしまう

右足をつっこむ筒をつくり、左足をつっこむ筒をつくり、それを重ねて縫い合わせるというのが、ズボンの作り方なのだけれども、無地のリネンなどでズボンを作る際、ときどき右と右とか、左と左を作ってしまう。
ときどき、というか結構ひんぱんに間違えそうになる。模様がないとか、表と裏の質感がほとんど同じとか、布の裏表が明確ではないと、「中表にして縫う」という工程で「中裏で縫ってしまう」ということがある。わりとよく

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とりあえず湯をわかす

とりあえず湯をわかす

何もやりたくない日がある。
ていねいな暮らしというものを実践したいと高い志はあるけれども、起きただけでわたし偉い、とねぎらいたくなる日というものがあって、そういう時はとりあえず湯をわかす。
やかんに水を注いで、火にかけてみる。

それから無印良品で買ったノートを広げる。
罫線が細くて、中心にリングがなくて、のりしろのようなものもなくて、広げるとぱたんと開くし、何と言っても分厚いのがいい。
もうすぐ

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なじむことにはエネルギーが要る

なじむことにはエネルギーが要る

ホームシックにはならないと思っていた。
ひとりが好きだし、ずっとひとりが好きだったし、実家は好きじゃないし、地元への愛も別にないし、地元で祭りがあるからと言われたって、へえ、ぐらいでだから帰りたいとも思わないし、ひとりぐらしの心配というのは基本的に、お金のやりくりできるかな、だけだった。

でもなった。いや、ホームシックとは違うかもしれない。帰りたいとか、地元の友達に会いたいとか、実家が恋しいとか

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あのひとは友達だったと思いたかった

あのひとは友達だったと思いたかった

「高校を卒業したら、詐欺に気をつけろ」と言われた。
春になるとことさら、巣立ったばかりの若者を狙う詐欺が多く出没するらしい。

上京したばかりの学生の頃、たしかに詐欺は多くいて、壺も印鑑も着物も宝石も買わなかったけれども、化粧水とエステの回数券、それから美顔器は三回も別のところで買わされそうになった。

都会には、ありえないほどかわいくてきれいで、肌がつるつるぴかぴかきらきらしていて、髪の毛はふわ

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自己紹介など

自己紹介など

書き物をうけおったり、校正や校閲をしたり、近所のイタリアンレストランで、お庭の草抜きを手伝ったりしています。 いろんなものを取材して、いろんなものを書いてきましたが、ここでは、本当に思ったことを教室の後ろの壁にこっそり貼る、ぐらいの気持ちで、ちょっとずつ書いていきたいと思います。
どうぞよろしくお願い致します。(2024.6.17更新)

・ありのままの話
性と生についてのコラムを書いています。

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芦原妃名子さんのニュースに思うこと

芦原妃名子さんのニュースに思うこと

子どもの頃に、大好きな物語が映画になって、わくわくしながら映画館に観にいったら、全く別物になっていた。よかったねーと周りが言っているのに、なんだか悲しくて、ちょっと泣きそうになった。違うもん、と思った。本とは違うもん。

映画は大人気で、テレビ放送も何度もあって、これはこれでいいのかもしれないと思ったりもした。でもやっぱりしっくりこなくて、違うもん、としつこく思った。

一人暮らしを始めて、何度も

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裏も表も印刷だけの年賀状なんて

裏も表も印刷だけの年賀状なんて

裏も表も印刷だけの年賀状なんて、インク代もハガキ代も切手代ももったいないので、どうぞわたしには送らないでいただきたい。

そんな気遣いをしてもらうのが新年早々申し訳ない。
というよりも、宣伝ダイレクトメール以上に意図がわからなくてもやもやするから、本当にご遠慮申し上げたい。
なんのため? どうしてほしいの? としつこく考えてしまうのをやめたい。考えさせないでほしい。
こんなにも、もらってうれしくな

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元は取らなくていい

元は取らなくていい

元を取りたいという気持ちは、どうしたってあって。

ビュッフェに行ったら、オードブルとお肉とお魚、ピザもパスタも食べてお腹いっぱいになってしまっても、ケーキは全種類食べたい。
その結果食べすぎて、帰り道気持ち悪くなってしまったりする。

塾やら家庭教師やらたくさんお金を注いだ子どもには、高学歴を期待するけど、高学歴に価値があるのか不明、だから他にも習いごと、課金しどころは無限にあって、結局何がやり

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世界一要らない情報

世界一要らない情報

会社をやめるとき、わたしの送別会の幹事を、ちょっと苦手な先輩がしてくれた。

ふたり一緒にしなくてはならない仕事がたくさんあって、困ったなあ、やりにくいなあ、仕事でなければ、チャーミングですてきで、話も面白くて、きっと大好きなひとになっただろうに、なんだか悲しいことだなあ、でも仕方ない、仕事だから、どうしたって難しいことはあるよなあとずっと思っていたから、送別会の幹事をしてくれることを、単純に嬉し

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チョコレートが

チョコレートが

チョコレートが、ものすごくものすごく健康的で、青汁並みに栄養素がつまっていたら。
肩書きをもった偉いひとが、論文を書いてこぞって推奨してくるようなものだったら。
毎日かご一杯食べましょう、と電車の中まで迫ってくるようなものだったら。

ひとかけらを焦がれたりしただろうか。大事なひとにあげたいなどと思うだろうか。一体何をご褒美にすればいいのだろうか。
そんなつまらないことを考えながら、冷蔵庫の野菜室

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クーポンを使い忘れた

クーポンを使い忘れた

キャンセルできないけど、必要だから、えいやっと買った11,800円のものについて、25パーセント引きのクーポンを持っていたことを直後に気づいて、ここ数日ずっとひきずっている。

11,800円の25パーセントだから、2,950円。
2,950円かあ。
2,950円。2,950円。2,950円。とごはんを食べても道を歩いても駅の改札を通っても通り抜けても思う。

2,950円あったらできることを考え

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ぐりとぐらの

ぐりとぐらの

ぐりとぐらの絵本はもちろん大好きだけれど、ぐりとぐらのカルタというものがあって、それの読み札がいい。

もうできたかともいちどのぞく、と呟きながら、鍋のふたをあけたり。
やぎさんやっぱりやまがすき、と買い物帰りに坂道をのぼる。

短いフレーズが覚えやすくていい。
呟くだけで、楽しくなるのがいい。
ふと絵札も思い出して、ふふふとなるのがいい。

ねことらとらねこまねきねこ。
何かのおまじないみたいに

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靴下が値上がりした

靴下が値上がりした

3足1,000円の靴下を、レジに持っていったら、1,300円だった。

あれ、これ、1,000円じゃなかったですか、と驚いたら、もう結構前に、1,300円になったんです、と店員さんが申し訳なさそうに言う。

そうか。
結構前か。
たしかに、もう長く靴下は買ってなかったけど。
でも、ずっと。もう本当に長いこと、1,000円でしたよね。でもそうなのか。物価高だからな。
物価あがらないとな。物価あがらな

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もういないひとが不意に夢に

もういないひとが不意に夢に

みっつ上に、憧れの先輩がいて、高校卒業時と同じ様子で夢にでてきて、どうして今頃と起きてからぼんやりした。

夢の中でわたしは、自分の家に帰ったばかりで、どうしてだか先輩は、わたしの家から帰るところだった。

あの頃、わたしはきやすく声をかけたりできなかったのに、どうしたんですか、と驚いたままそれを隠さず声をかけていた。

ちょっとね、心臓を悪くしてね。

と先輩はちょっと言いにくそうにしながらそっ

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知らないあいだに

知らないあいだに

緑ではなくみずいろのソーダ水と、ハムとレタスとチーズと半熟の目玉焼きが入ったサンドイッチが美味しくて、ともだちの結婚報告をきいて、よかったねよかったね、と一緒に泣いたふるい大事な喫茶店が、閉店した。

まだまだあると思っていた。
古いから、古くからあるから、未来永劫、古いままであると思っていた。
買いささえることができなかった。
申し訳ない。

夜の羊

夜の羊

ふたご座流星群をみるために、深夜外に出てみたが、雲があった。

雲はぽこぽことおなじぐらいの大きさにちぎれたものが見渡すかぎりにひろがって、そこに風の帯があるのか、空の同じ高さの位置で並び、同じ向きに流れていった。
ひつじの群れみたいに。もこもこと夜空を風が流れる方にすすんでいた。
こういうのを、ひつじぐもと言ったのだったかなあ。いや、ひつじぐもは、1匹のひつじがそこにあるかのようにもこもこと湧き

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