見出し画像

とりあえず湯をわかす

何もやりたくない日がある。
ていねいな暮らしというものを実践したいと高い志はあるけれども、起きただけでわたし偉い、とねぎらいたくなる日というものがあって、そういう時はとりあえず湯をわかす。
やかんに水を注いで、火にかけてみる。

それから無印良品で買ったノートを広げる。
罫線が細くて、中心にリングがなくて、のりしろのようなものもなくて、広げるとぱたんと開くし、何と言っても分厚いのがいい。
もうすぐ二冊目が終わる。

一冊目の最初のページに2017とあるので、かれこれ七年はつけている。たらホイル焼き、ブタの味噌漬け、などの献立とともに、かぶ、なす、にんじん、など買い物メモ、保健師さんに電話などの予定も、ごちゃごちゃに書いてある。

なんでもノートなのである。
家族の予定が書いてある。補充しなければならない日用品リストも書いてある。
こどもの発育の記録も書いてある。言われて嬉しかったことが書いてある。旅行に行く前にやるべきリスト、持っていくものリスト、帰ってからの備忘録もある。
唐突に、やりたいことリストもあって、フランスに行きたいとか。誰それに会いに行きたいとか。
書式に決まりもなく、何をどれだけの熱量で書いても書かなくても許されるけれども、悲しいきもちやもやもやしたことはできるだけ書かないようにしよう、嘘は書かなくていいけれども、読み返して再度悲しくならないように慎重に書くべし、と決めてあるノートである。

読み返すとその時々の自分の心模様とか状況なんかが思い出されて、わたしという人間に積み重ねた過去があるということを実感できて、無駄じゃなかった、何もないわけじゃなかったと思えるのがうれしい。

何もやる気にならない日は、やらなければ腐ると思われることを書き出していく。
朝ごはんを食べるとか。歯を磨くとか。

ちょっと余力があれば、かかえている仕事はいつまでなのかを確認するとか書いてもいい。今日はどのあたりまで進めるのがよいか考えるとか。
花がらがひどいから庭をはくとか。別にやってもやらなくてもいいけれども、うっかり気がついてしまった、みたいなこともとりあえず書く。

料理。とだけ書いても、動ける日と動けない日があるのであって、動けない日は、ことこまかに書いておく。献立はこれ。だから切るべき野菜はこれ。ごはんは五合。など、指示書として書く。

その頃には、お湯がわいている。
ことことしゅんしゅんわいているので、それを飲む。お湯のまま飲むこともあるし、コーヒーにすることもある。
甘いシロップで割ってもいい。お茶もいい。あたたかいものはいい。血がめぐる気がする。
それから立ち上がって、窓をあける。

書き出したことをひとつでも実行できたら、チェックをいちいちいれる。
わたし、超がんばってるじゃんと、歯磨きひとつであっても、とてつもなくすばらしいことをやりとげたような気分になってよい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?