神敦子

書き物をうけおったり、校正や校閲をしたり、近所のイタリアンレストランで、お庭の草抜きを…

神敦子

書き物をうけおったり、校正や校閲をしたり、近所のイタリアンレストランで、お庭の草抜きを手伝ったりしています。 いろんなものを取材して、いろんなものを書いてきましたが、本当に思ったことを教室の後ろの壁にこっそり貼る、ぐらいの気持ちで、ちょっとずつ書いていきたいと思います。

最近の記事

からあげを1.5キロ揚げる

美容院で、「最近、からあげを1,5キロあげているんです」と言ったら、「うちは3キロです」と返されて、「負けたー」となった。 からあげ、翌朝のお弁当にいれたい。もしくはたくさん作って翌日のおかずの足しにもしたい、などと欲を出していると、とうとうそんなキロ数になるのである。 美容師のおっちゃんのとこには、子どもが3人いる。 うちにも3人いる。 髪の毛を切ってもらいながら、大体、お金の話ばかりをしている。 お金ない。お金かかる。 もしくは、どこそこの市場の野菜が新鮮でおいしいな

    • なじむことにはエネルギーが要る

      ホームシックにはならないと思っていた。 ひとりが好きだし、ずっとひとりが好きだったし、実家は好きじゃないし、地元への愛も別にないし、地元で祭りがあるからと言われたって、へえ、ぐらいでだから帰りたいとも思わないし、ひとりぐらしの心配というのは基本的に、お金のやりくりできるかな、だけだった。 でもなった。いや、ホームシックとは違うかもしれない。帰りたいとか、地元の友達に会いたいとか、実家が恋しいとかじゃなくて、わたし、ここになじめんと思った。なじめる気がしない。 息ができん。

      • あのひとは友達だったと思いたかった

        「高校を卒業したら、詐欺に気をつけろ」と言われた。 春になるとことさら、巣立ったばかりの若者を狙う詐欺が多く出没するらしい。 上京したばかりの学生の頃、たしかに詐欺は多くいて、壺も印鑑も着物も宝石も買わなかったけれども、化粧水とエステの回数券、それから美顔器は三回も別のところで買わされそうになった。 都会には、ありえないほどかわいくてきれいで、肌がつるつるぴかぴかきらきらしていて、髪の毛はふわんとしてくるんとして、どうやったらそんな状態になれるのか、そういう子がたくさん歩

        • 自己紹介など

          書き物をうけおったり、校正や校閲をしたり、近所のイタリアンレストランで、お庭の草抜きを手伝ったりしています。 いろんなものを取材して、いろんなものを書いてきましたが、ここでは、本当に思ったことを教室の後ろの壁にこっそり貼る、ぐらいの気持ちで、ちょっとずつ書いていきたいと思います。 どうぞよろしくお願い致します。(2024.5.13更新) ・ありのままの話 性と生についてのコラムを書いています。 神保町にあるフェムケアショップです。 フェムケアってなんぞや。 女性の外陰部を

        からあげを1.5キロ揚げる

          芦原妃名子さんのニュースに思うこと

          子どもの頃に、大好きな物語が映画になって、わくわくしながら映画館に観にいったら、全く別物になっていた。よかったねーと周りが言っているのに、なんだか悲しくて、ちょっと泣きそうになった。違うもん、と思った。本とは違うもん。 映画は大人気で、テレビ放送も何度もあって、これはこれでいいのかもしれないと思ったりもした。でもやっぱりしっくりこなくて、違うもん、としつこく思った。 一人暮らしを始めて、何度も観たその映画が、突然心にささって、どういうわけか、わんわん泣いた。たぶん、別の物

          芦原妃名子さんのニュースに思うこと

          裏も表も印刷だけの年賀状なんて

          裏も表も印刷だけの年賀状なんて、インク代もハガキ代も切手代ももったいないので、どうぞわたしには送らないでいただきたい。 そんな気遣いをしてもらうのが新年早々申し訳ない。 というよりも、宣伝ダイレクトメール以上に意図がわからなくてもやもやするから、本当にご遠慮申し上げたい。 なんのため? どうしてほしいの? としつこく考えてしまうのをやめたい。考えさせないでほしい。 こんなにも、もらってうれしくないハガキは、年間通して他にないだろうと毎年毎年思うぐらいに要らない。 生存報告

          裏も表も印刷だけの年賀状なんて

          元は取らなくていい

          元を取りたいという気持ちは、どうしたってあって。 ビュッフェに行ったら、オードブルとお肉とお魚、ピザもパスタも食べてお腹いっぱいになってしまっても、ケーキは全種類食べたい。 その結果食べすぎて、帰り道気持ち悪くなってしまったりする。 塾やら家庭教師やらたくさんお金を注いだ子どもには、高学歴を期待するけど、高学歴に価値があるのか不明、だから他にも習いごと、課金しどころは無限にあって、結局何がやりたいんだっけ、それは誰の幸せだっけ、だんだんわからなくなる。 長い期間つきあっ

          元は取らなくていい

          世界一要らない情報

          会社をやめるとき、わたしの送別会の幹事を、ちょっと苦手な先輩がしてくれた。 ふたり一緒にしなくてはならない仕事がたくさんあって、困ったなあ、やりにくいなあ、仕事でなければ、チャーミングですてきで、話も面白くて、きっと大好きなひとになっただろうに、なんだか悲しいことだなあ、でも仕方ない、仕事だから、どうしたって難しいことはあるよなあとずっと思っていたから、送別会の幹事をしてくれることを、単純に嬉しかった。 ありがたいなあと思っていた。 ありがとうございますと伝えたら、先輩はち

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          チョコレートが

          チョコレートが、ものすごくものすごく健康的で、青汁並みに栄養素がつまっていたら。 肩書きをもった偉いひとが、論文を書いてこぞって推奨してくるようなものだったら。 毎日かご一杯食べましょう、と電車の中まで迫ってくるようなものだったら。 ひとかけらを焦がれたりしただろうか。大事なひとにあげたいなどと思うだろうか。一体何をご褒美にすればいいのだろうか。 そんなつまらないことを考えながら、冷蔵庫の野菜室の奥に隠しておいた、ちょっといいチョコレートをひとりで食べる。

          チョコレートが

          クーポンを使い忘れた

          キャンセルできないけど、必要だから、えいやっと買った11,800円のものについて、25パーセント引きのクーポンを持っていたことを直後に気づいて、ここ数日ずっとひきずっている。 11,800円の25パーセントだから、2,950円。 2,950円かあ。 2,950円。2,950円。2,950円。とごはんを食べても道を歩いても駅の改札を通っても通り抜けても思う。 2,950円あったらできることを考えてしまう。 2,950円あったら。 いいランチは、食べられるな。 サラダとパスタ

          クーポンを使い忘れた

          ぐりとぐらの

          ぐりとぐらの絵本はもちろん大好きだけれど、ぐりとぐらのカルタというものがあって、それの読み札がいい。 もうできたかともいちどのぞく、と呟きながら、鍋のふたをあけたり。 やぎさんやっぱりやまがすき、と買い物帰りに坂道をのぼる。 短いフレーズが覚えやすくていい。 呟くだけで、楽しくなるのがいい。 ふと絵札も思い出して、ふふふとなるのがいい。 ねことらとらねこまねきねこ。 何かのおまじないみたいに唱えたりする。 たぶんいいことがある。 へたでもへいきげんきにうたえ、というの

          ぐりとぐらの

          靴下が値上がりした

          3足1,000円の靴下を、レジに持っていったら、1,300円だった。 あれ、これ、1,000円じゃなかったですか、と驚いたら、もう結構前に、1,300円になったんです、と店員さんが申し訳なさそうに言う。 そうか。 結構前か。 たしかに、もう長く靴下は買ってなかったけど。 でも、ずっと。もう本当に長いこと、1,000円でしたよね。でもそうなのか。物価高だからな。 物価あがらないとな。物価あがらない方がおかしいって経済の偉いひとたちも言ってたからな。日本だけですよとか。欧米で

          靴下が値上がりした

          もういないひとが不意に夢に

          みっつ上に、憧れの先輩がいて、高校卒業時と同じ様子で夢にでてきて、どうして今頃と起きてからぼんやりした。 夢の中でわたしは、自分の家に帰ったばかりで、どうしてだか先輩は、わたしの家から帰るところだった。 あの頃、わたしはきやすく声をかけたりできなかったのに、どうしたんですか、と驚いたままそれを隠さず声をかけていた。 ちょっとね、心臓を悪くしてね。 と先輩はちょっと言いにくそうにしながらそっと笑ったけど、違います、肺です、とわたしは夢で思いながらも言えなかった。 じゃ

          もういないひとが不意に夢に

          知らないあいだに

          緑ではなくみずいろのソーダ水と、ハムとレタスとチーズと半熟の目玉焼きが入ったサンドイッチが美味しくて、ともだちの結婚報告をきいて、よかったねよかったね、と一緒に泣いたふるい大事な喫茶店が、閉店した。 まだまだあると思っていた。 古いから、古くからあるから、未来永劫、古いままであると思っていた。 買いささえることができなかった。 申し訳ない。

          知らないあいだに

          夜の羊

          ふたご座流星群をみるために、深夜外に出てみたが、雲があった。 雲はぽこぽことおなじぐらいの大きさにちぎれたものが見渡すかぎりにひろがって、そこに風の帯があるのか、空の同じ高さの位置で並び、同じ向きに流れていった。 ひつじの群れみたいに。もこもこと夜空を風が流れる方にすすんでいた。 こういうのを、ひつじぐもと言ったのだったかなあ。いや、ひつじぐもは、1匹のひつじがそこにあるかのようにもこもこと湧き上がる雲をいうのだったかなあ。モンゴルの草原の景色だろうか。行ったことはないけど

          行くことを許される場所

          昨年末、突然時間ができた。 家族が皆でかけて、夜の9時まで帰らないという。 そうか。 夜まで誰もいないのか。 カーテンでも洗うか。と思ったが、それももったいないかもしれないと、勢いで外出したものの、どこへ行けばよいのかわからず、とりあえず銀行で、急ぎではない所用を済ます。 そうか。 夜まで誰も。 それはつまり、昼ごはんの支度をしなくてよいということであり、鍵を持たない家族のために夕方までに急いで帰ることをしなくてもよいということであり、夜までわたしの時間を過ごすことを許

          行くことを許される場所