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ズボンの右と右を作ってしまう

右足をつっこむ筒をつくり、左足をつっこむ筒をつくり、それを重ねて縫い合わせるというのが、ズボンの作り方なのだけれども、無地のリネンなどでズボンを作る際、ときどき右と右とか、左と左を作ってしまう。
ときどき、というか結構ひんぱんに間違えそうになる。模様がないとか、表と裏の質感がほとんど同じとか、布の裏表が明確ではないと、「中表にして縫う」という工程で「中裏で縫ってしまう」ということがある。わりとよくある。

そうすると、右と右、もしくは左と左、の筒ができあがるのだけれども、これをふたつ並べてみると、なんというか、なんともいえない情けない気持ちになる。
同じ向きの足の筒が並んでいる。右と右の脚が並んでいるところを想像する。踊っているようにみえる。足をそろえて並んで踊っているひとを斜め横から眺めているような感じなのである。ラインダンスのようというか。ちょっと愉快なのである。「へい」と陽気な雰囲気になる。それが情けないのである。

どちらかをほどいて、裏返して、中表にして、右と左にしなければならないのであるけれども、この「ほどく」というのがめんどうくさい。はりきって先に裾の始末までしていた場合は、そのあたりからほどかなくてはいけない。
めんどうくさいので、裾の始末については、全部ほどくことはせず、筒の長辺になるところだけをほどき、ほどいたところだけを縫い直すという横着をする。あまりきれいな始末ではない。でもまあ自分の服だし。あるいは家族の服だし。裾の縫い目がどのようになっているかなんて、道ゆくひとは誰もみてへんやろう。しかしこの筒の長辺が長い。股下にあたる長辺が長い。さしてあしなが族ではないはずなのに、ほどいてもほどいても結構な距離がある。
ああ、めんどうくさいなあと思いながらほどいて、裏を返して中表にして「今度こそ」と思いながらミシンを踏み、右筒を左筒にするのだけれども、すべて縫って筒をふたつ並べてみたらまたなんだか妙な具合であるので、よくよく股のあたりをみたら、また同じものがふたつできている。「あああ、右を左にするのではなかった、左を右にするのだった」と気付いたりする。間違っているからほどいたのに、それをまた間違った状態に縫い直していたりする。なんで。右をほどいてまた右をつくるなんて。なんで。

嘘でしょ。またほどくの。また縫い直すの。あああ、めんどうくさいと腹をたてて、またほどいてそれでまた縫い直している最中に、今度は下糸がなくなったりする。仕方なく、ボビンをはずして、下糸を作って、とかしている間に、どんどん時間がたっていく。あああ、もういやだー。

ということをハンドメイド先輩に訴えたら、裏表がわかりにくい布で服を縫うときには、表側にマスキングテープでしるしをつけておくといいと教えていただいた。
それ以降、間違うことはないのだったが、ズボンを作るときにはいつまでたっても緊張する。これ、右です、右、この向き、はい、オッケーです、左、左はもうこちらに縫ってあります、オッケーです、と声だし指さし確認しながら、誰に聞かせるわけでもなく新人の運転手のように縫う。

ちなみにこういうことは、スナップでもよくやる。
スナップのでこぼこは、こう。こうがこうなって、こう。この面がこの面とかみあってくっつく。何度も確かめてから縫い付けるのに、気がついたら裏向きに縫い付けている。もう、と怒りながら糸を切り、もう一度同じ向きに縫いつけたりしている。

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