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究極のミニマリストとは?『スティル・ライフ』池澤夏樹

最近流行りの『ミニマリスト』という思想ですが、僕はミニマリストではないので、本物の人に、『根本的な思想が違う』と言われるかもしれません。

また今回紹介する『池澤夏樹』『スティル・ライフ』は、以前にも、

こちらの記事で短く紹介していますが、今回は、もう少し詳細な紹介になります。

①『ミニマリスト』・『ミニマリズム』の起源

『ミニマリズム』に関して、既にwikiが作成されていました。

短く要約すると、起源としては、

1950年代の『彫刻』、『絵画』
1960年代の『音楽』、『美術』

あたりから始まった『芸術』の分野での表現スタイルの1つ。

根底にある思想としては、
中国からもたらされて、日本で独自に発展した、『禅』に見出すことができるという論者もいる。
枯山水や水墨画、茶室、盆栽などは、限られた空間や色彩の中に無限の世界を見出す『ミニマリズム』である。

西洋における類似した認識 ー
『Simple is best(シンプル・イズ・ベスト)』という格言。
アメリカの航空技術者『クラレンス・ケリー・ジョンソン』が唱えた『KISSの原則』がある。

②『KISS の原則 』(英: KISS principle) について

1960年代の米国海軍において言われた、経験的な原理・原則の略語。

「Keep it simple stupid.」(シンプルで愚鈍にする)
もしくは、
「Keep it simple, stupid.」(シンプルにしておけ!この間抜け)
もしくは、
「Keep it short and simple.」(簡潔に単純にしておけ)

頭文字をとって『K.I.S.S.』と略される。

意味するところ ー
『設計の単純性(簡潔性)』は成功への鍵だということ。
『不必要な複雑性は避けるべきだ』ということ。

『KISSの原則』の由来

『クラレンス・ケリー・ジョンソン』(1910-1990)
『ロッキードスカンクワークス』の技術者
によって造られた。

この言葉は、一般には、
『Keep it simple, stupid.(シンプルにしておけ!この間抜け)』
と解釈される。
しかし、ジョンソン自身は「simple」「stupid」の間に句読点がない。
『Keep it stupid simple.(シンプルで愚鈍にする)』
と書いていた。
そのため元々この言葉に、エンジニアを馬鹿にする意図はなかった。

この原則の実例として次のような逸話がある。
ジョンソンが設計チームに一握りの工具を手渡して言った。
「平凡な整備員が戦闘状況おいて、
この工具だけを使って修理ができるようなジェット戦闘機を開発しろ」

と課題を出した。

・『KISSの原則』に類似の概念をいくつか……

この原則の起源と思われる、いくつかの似た概念。
・オッカムの剃刀
「何事もできるだけ単純な方がいい。
ただし、単純にしすぎてはならない」

ー『アルベルト・アインシュタイン』
・「単純であることは究極の洗練だ」

ー『レオナルド・ダ・ヴィンチ』
・「完璧とは、これ以上加えられないときではなく、これ以上削りとれないときに達成されるようだ」
ー『アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ』
・コーリン・チャップマン(ロータスの創業者)は、設計者たちに 
ー「単純かつ軽量にしろ」と要求した。
などである。

・KISSの原則に逆らった例

ロシアの『ソユーズロケット』 ーシンプルな設計だが、比較的信頼性が高い。
1960年代〜現在に至るまで使われつづけている。
これに対し、
アメリカの『スペースシャトル』 ー「(250万個もの部品を使い)人類がこれまでに製造した中で最も複雑な機械」などと言われている。
しかし、比較的信頼性が低い。
・事故を何度も起こし
・死者も多数出し
・5機中2機を失い
・保守費用が巨大化し

2011年に廃止になってしまったことでも示されている。

・ソフトウェア開発における『KISSの原則』

「なし崩しの機能追加主義」
KISSの原則に反して、仕様が徐々に複雑化していくことは、ソフトウェア開発の世界でよくみられる。
ソフトウェアが複雑になるにつれて、
・使い方を習得する時間が増えたり
・操作に手間取ったり
・どれが重要な機能なのか分からなくなったりする。

さらには、
・ハードウェアへの要求スペックが高くなったり
・製品価格が高くなったりもする。

しかし、大多数のユーザーが実際に使用する機能は、そのごく一部であったりする。
ユーザーへの負担や開発コストを考えると、単純なソフトウェアの方がユーザフレンドリーで、生産性が高い可能性がある。

・アニメ業界での『KISSの原則』

『リチャード・ウィリアムズ』 ー著名なアニメーター

増補 『アニメーターズサバイバルキット』
Author Richard Williams Genre Animation, Instruction
Published 2001 (Faber and Faber)

その著書の中で、『KISS の原則』を説明している。
また、ディズニー社の『ナイン・オールドメン』も、
アニメーターのバイブルとされる本の中で、この原則について書いている。
「経験の浅いアニメーターはしばしば、動かしすぎをしたり、やりすぎをする。身振りや表情や口の動きを、ことさら強調しすぎたりするのである。
ウィリアムズはアニメーターたちに、『KISS の原則』を考えろと言っている。

③『ミニマリズム』の思想

1960年代 
アメリカ合衆国に登場し、主流を占めた傾向、またその創作理論。
『minimal(最小限) + ism(主義)』という組み合わせの造語。
要素を最小限度まで切り詰めようとした一連の態度から生まれた。
『必要最小限』を目指す一連の手法・様式。
芸術の諸分野(美術・建築・音楽・哲学・生活様式 等々)で導入、展開された。
その結果、ミニマリズム文学、ミニマリズム建築なども生まれた。

それが現在、
日常の『ライフスタイル(生活様式)』として実践され、
『ミニマリズム』の思想に基づいて生活する、その立場を提唱する人を呼ぶようになった。

④『断捨離』思想

『断捨離』とは?
本来、ヨーガの行法。
1.断 :「新たに手に入りそうな不要なものを断る」
2.捨:「家にずっとある不要な物を捨てる」
3.離:「物への執着から離れる」

2009年出版のこの本のヒットにより、一般に流行。

※著者『やましたひでこ』は、『断捨離』を商標登録している。

⑤『スティル・ライフ』池澤夏樹

『スティル・ライフ』池澤夏樹

「中央公論」1987年10月号に発表した中編小説。
・第98回芥川龍之介賞 ー※初めてワープロで書かれた芥川賞受賞作としても知られている。
・第13回中央公論新人賞
2つを同時受賞。

タイトルの『スティル・ライフ』とは ー
本来『静物画』の意味。
作者の池澤夏樹自身は「静かな生活」の意で捉えている。

・簡潔なストーリー紹介
主人公は『ぼく』と名乗り、『ぼく』の一人称形式の小説。
ある会社の公金を横領した過去を持つ『佐々井』
2人の3カ月間の奇妙な共同生活を描く。
1980年代当時のバブル期の日本社会的な乾いた文体。
無機的な人間関係
『ぼく』と『佐々井』との奇妙な距離感。
寓話的な世界観を構築している。

今回紹介したいのは主人公『ぼく』ではなく、もう一人の
『佐々井』という登場人物。

⑥小説『スティル・ライフ』の登場人物『佐々井』のライフスタイル

ここで個人的に『究極のミニマリスト』と思う人物の紹介です。
※創作上の人物ではありますが。

『池澤夏樹』という作家の書いた小説『スティル・ライフ』の登場人物『佐々井』

この佐々井は、自分がいた会社の命令で、会社の金を株運用し、莫大な利益をあげた後、その大金を持ち逃げする。
その後その金を一切使うことなく、警察の捜査から逃げるため、
・特定の住所を持たない
・家具は何一つない
・什器の類もほとんどない
・全ての身の回りのものは、大きな登山用のリュックと、2つの中位の鞄に収まる。

・食事はほとんど自炊。
・収入はアルバイトで必要最小限だけを稼ぐ。
・本などは、読み終わったら捨てる。

こうしてその日暮らしで毎日を切り抜けながら、公金横領の公訴時効が来るまで生活する。

※業務上横領罪の時効は7年。(刑事訴訟法250条2項4号、刑法253条)
時効期間が過ぎると責任を追及されることはなくなるかというと、そうではない。
刑事責任を追及されることはないが、
民事上の損害賠償責任を追及される可能性がある。
一般社員が横領行為をした場合、民事上は不法行為となる。(民法709条)
不法行為の時効期間は3年。

・その他のルール
海外逃亡はしないという自分で決めたルール。
そして横領したお金にも一切手をつけない。

要するに
・社会に属さない
・組織にも属さない
・それらとの関わりを基本的には拒否

それでいて社会生活から遠い場所へ行って完全に切り離すわけでもなく、ギリギリのところで、社会との必要最小限の関わりを保つ。

なぜそんなことをするかは、読者の感想に委ねます。

1987年刊行の『芥川賞受賞』小説。
そのストーリー中の重要な登場人物。
今思うと、これこそ究極の『ミニマリスト』だったのでは?と考えます。

⑦『スティル・ライフ』一度だけ映像化

そして今や、作品のwikiにすら書かれていないが、

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『スティル・ライフ〜霧子とマリエの犯罪的同棲生活』

『田中裕子』『南果歩』主演で単発テレビドラマ化されています。(もう一度見たい)

原作では『佐々井』『ぼく』という2人の男性が主役だった。
ドラマでは『霧子』『マリエ』という女性2人に置き換えられている。

1989年放送1話完結ドラマ。
池澤夏樹の芥川賞受賞作をドラマ化した作品。
『マリエ』ー失恋が原因で将来を見失い、精神的バランスを失った若きピアニスト。
『霧子』ー彼女の前に現れた謎の女性。

2人の不可思議な生活を描いていく

プロデューサー : 堀川とんこう、和田旭
ディレクター・監督 : 堀川とんこう
原作 : 池澤夏樹 脚本 : 筒井ともみ
出演 田中裕子、南果歩、黒田アーサー、岸谷五朗、橋爪功ほか。
第27回ギャラクシー賞奨励賞受賞作品。

『簡単なストーリー紹介』
下町の染色工場でアルバイトをするマリエ(南果歩)
3ヶ月前、ピアニストの卵として、音大で優秀な成績を収めていた彼女の左手が急に動かなくなった。
そして恋人のチェリスト・悠二(黒田アーサー)を同級生に奪われたマリエは、
音大を休学し通院するようになる。
そんな折、マリエが知り合ったのが、同じ工場に勤める霧子(田中裕子)だった。数回しか口をきいたことの無かった謎の女・霧子に対し、マリエは不思議な魅力を感じていた。
だが霧子は、何故か急に工場を辞め、その数日後マリエに妙な相談事を持ちかけてきた。

ストーリーの大筋はほとんど小説と同じ。

主人公『ぼく』と『佐々井』を女性2人にして、二人が主役といったキャスティング。

ストーリーの設定として『マリエ』の失恋がエピソードに加わっているが、特に全体に影響はない。

ただ、今現在、このドラマを視聴する方法はないようです。

⑧著者『池澤夏樹』公式サイト『cafe impala』

池澤夏樹 公式サイト『cafe impala』
2001年9月11日の事件をきっかけに、池澤夏樹はメール・マガジンの配信を開始した。
世界の状況を読み解き、来たるべき時代についての思索を広くシェアするために、毎日執筆し、配信した。
その窓口として、配信されたメール・マガジンのアーカイブとして、WEB サイトcafe impalaは誕生。
cafeと名付けたのは、かつてパリのカフェで人々が出会い、議論をし、そこから多彩な芸術が生れ、フランス革命への道が開かれたように、「議論をする場あるいはきっかけ」となれば、という願いからだった。
impalaは池澤夏樹のエッセー「インパラは転ばない」に登場する、平坦ではない原野を素早く走り抜けることができる動物です。
9.11をきっかけに始まったメール・マガジン「新世紀へようこそ」は「パンドラの時代」、「異国の客」と続き、同時にcafe impalaは池澤夏樹の仕事や書評などのアーカイブも加わり、池澤夏樹の公式サイトとして発展してきた。
現在は、池澤夏樹の全作品の電子アーカイブの構築を進めている。
これからもますます広く深く池澤ワールドをご紹介して行きます。

『わたしのなつかしい一冊』編纂:池澤夏樹 絵:寄藤文平
本は帰ってくる。
友情、自由、冒険、歴史――ぜんぶ本が教えてくれた。人気作家ら50人が、何度も読み返す〈人生の一冊〉を語る。毎日新聞好評連載「なつかしい一冊」がついに書籍化。軽やかな絵と文章でおくるブックガイド。

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