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ツルゲーネフ『初恋』読了

この小説は主人公が16歳の頃の初恋について回想し、初恋相手のコケティッシュなヒロインに弄ばれるなど非道徳的な内容を詩的な文章で記した手記の形式になっています。

この小説の読了直後の感想は、何かが気に入らなくて不満でした。
二回目にさらっと目を通してその正体が分かりました。主人公の初恋相手への感情と、主人公への感情がぐちゃぐちゃしていたのを整理して、ようやく分かりました。

まず、主人公の初恋相手のジナイーダに対しての変な感情がそれでした。彼女は私と同じ年齢なんですけど、私も彼女のように奔放に振る舞いたいと思っているけど、実際はそうできないから、なんだか気に入らないし、それはつまり、彼女に嫉妬しているのかもしれないと思いました。
でも、彼女の気持ちも分かるのです。自分を愛する人は誰も好きになりません。「私が興味あるのは、むしろ自分を服従させる人だけ」という台詞はなかなか刺さりました。

それから、主人公のウラジーミルについて、初恋相手に弄ばれるだけでなんだか可哀想に思いました。青春時代に初恋をして、その初恋相手はとんでもない女で、彼に対して苛めたり優しくしたりするのです。私は途中まで「ひょっとしたらジナイーダはウラジーミルを好きなのかもしれない」と思ったけど、そんなことはなくて、引越で別れる時「今まで苛めたこともあったけど、恨まないでね」なんて彼女に言われた主人公が「あなたがどんなに私をお苛めなさっても、どんなに苦しめなさっても、一生あなたを愛します、崇拝します」って言うんです。
こんなの、純粋すぎて、甘くて酸っぱい気持ちになります。
でもとても、彼の気持ちがわかります。私もそんな風な恋をしたことがあったことを思い出しました。少し特別扱いされたり冷たくされたり優しくされたりなんかして(私がそう思っただけだけど)それでたくさん苦しんで悩んで、でもあの人といれるならなんでも良かったのでした。
切なすぎる。愛しい人になら何をされても許すのです。
ジナイーダだって彼女が恋した相手に酷いことをされるのですが、何も言いませんでした。
本当の愛っていうのは、自分を犠牲にすることに喜びを感じることなのです。


そして、最後の場面にこんな記述がありました。

ああ、若さよ!青春よ!おまえはどんなことにも左右されず、まるで宇宙の宝物をすべて手にしているかのようだ。おまえは憂いにまで慰めを見出だし、悲しみまで似合ってしまう。自信たっぷりで大胆不敵だから「私は一人で生きていける。見ていてごらんなさい」などと言う。そう言うそばから、月日は飛ぶように過ぎ、数えきれないほどの日々があとかたもなく消えていき、太陽にさらされた蠟のように、雪のように溶けてしまうというのに。
青春に魅力があるとしたら、その魅力の秘密は、なんでもできるというところにではなく、なんでもできると思えるところにあるのかもしれません。持てる力を、他に使いようがないまま無駄遣いしてしまう、そこに青春の魅力が潜んでいるのかもしれません。誰もが自分のことを浪費家だと本気で思い込み、「ああ、時間を無駄につぶさなかったら、どれほどすごいことができただろう!」と本気で考える、そこにこそ潜んでいるかもしれません。(p.153-154)

ここを読んでいて侘しいというか虚しいというか、うまく言えないけどとにかく苦しくなりました。
今までの人生、たったの21年と半年間だと思っていますが、もう21.5年も終わってしまい、取り返すことの出来ない青春はどんどん過ぎていくのです。
あの時もっと勉強してたら、、、とかあの時勇気出して告白してれば、、、とか、たくさん思い残しがあります。
これは後悔とは少し違います、だって今の人生も好きですから。でも、もっとあれこれ出来たんじゃないかって思うんです。
悔しいけど、これはきっとこれからの将来で何度も思うことだと思います。
なんだか、悲観的になります。でもこういう‘’諦め”は人生において切り離すことができない存在だと思いました。

結局、この小説を読了して初めに抱いた不愉快な気持ちというのは、全て自分の青春についての感想だったというわけでした。

この小説は、作者のツルゲーネフが最も愛した小説だったそうです。
調べたところによると、ツルゲーネフ自身の体験を元にした半自伝的小説とのことでした。
だからこんなに理解してしまうのか、と納得しました。

これほどまでに切なくて哀しくて甘美で酸っぱい初恋は私にはなかったけれど、自分の青春だった儚い恋について懐かしく思いました。哀しい気持ちでいっぱいになりました。
青春はなんて哀しいのでしょう。
恋はなんて切ないのでしょう。

でも恋ってそんなに悪くないですね。
美化しているだけかもしれませんが、恋愛って儚いですね。
切なくて哀しくて美しいものなのですね。
そんな風に思いました。

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