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エッセイ

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記事一覧

『ブルシット・ジョブ』/技術革新と人類の増加

『ブルシット・ジョブ』/技術革新と人類の増加

 仕事に就く以前の学生時代は、間接的であっても労働を通して自分の仕事が世の中の役立つことを実感できるだろうと素直に考えていた。ある程度の年月を民間企業で働いた後の現在、過去の期待はやや無邪気だったと思える。私が実際に経験した仕事の多くは、その本質から離れた形式的な作業で肥大化し、仕事が受け手にとって価値あるものかは第一義的ではなく、表面上の目的は体裁を整えるための虚飾でしかないことも珍しくはない。

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『旅の断片』が差し出す「羅針盤」

『旅の断片』が差し出す「羅針盤」

 若菜晃子の『旅の断片』は世界19カ国での旅の記憶を主観に従って短く切り取った旅のエッセイである。世界各地で素朴に暮らす人々の飾らない姿と、雄大な自然を感じさせ、清涼な読後感が心地よい一冊である。

 あくまで旅行者の視点で旅の素晴らしさを伝えることが主眼の本書だが、ところどころ、旅をした時点では会社員だった著者の悩みを書きとどめた、ある種生臭い箇所がいくつか存在する。そこでの著者は仕事の意義を疑

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amazonレビューと数量化の静かな浸透

 Twitterなどで書籍の作者がamazonレビューについてつぶやく光景をときおり目にしてきた。どのような話の流れで触れられるかといえば、その多くは、悪意のある低評価がつくことで営業的に妨害されるという憤りである。実際、内容に則しているならまだしも、まともに読んでもいないと思しき悪質なレビューや、内容の一部のみをあげつらった悪意を感じる投稿を目にすることは少なくない。世界最大手のECサイトとして

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目指すべき文章

目指すべき文章

【注記】
 タイトルの内容とは別に、noteに対するとある目論見もあって初の有料記事として投稿します。私の既存の記事と比べて特に優れていたり有用だという理由から有料設定にしているわけではありません。悪しからず前もってご了承ください。目論見については、オマケとして末尾で触れています。

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「読書歴」という言葉に思う

「読書歴」という言葉に思う

 ツイッター上で読書報告を目的としてアカウントを利用するようになって半年ほどが経った。アカウントの用途から、私がフォローしているアカウントは読書を趣味として、読んだ本や愛好する作家の情報などをツイートし、読書に関連して意見を交わしたり共感を分かち合ったりといった交流を目的とするユーザーが大半を占めている。このツイッターアカウントにおいて、タイムラインや、読書に関連するハッシュタグを検索していてよく

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唯一無二の仕事

唯一無二の仕事

 『敗れし者なれど』という時代小説を読んだ。主人公の佐脇良之は前田利家の弟であり、あまり有名ではない実在した武将だ。物語は三方ヶ原で討死した良之がもしも生存していたら、という所から始まっている。信長に遠ざけられた過去もある良之は、侍としての自分の実績に忸怩たる思いを抱いている。妻子も持たない彼は、「生涯に一つでよい、何かをこの世に遺しておきたい」と、主君のもとを離れた一浪人の立場で、要人の暗殺を企

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「リアリティがない」とは?

「リアリティがない」とは?

 「リアリティがないっていうけど、そんなにリアリティが欲しいんなら小説なんか読まなければいい」。先日、概ねそんな意味の言葉を、読書レビュー目的のツイッターアカウントのタイムラインで目にした。有名な小説家の発言を、ユーザーが拾ってツイートしたものだ。

 「リアリティがない」はフィクションに対する批判として誰もが見聞きしたことがあろう常套句だ。そして、擦り切れた安上がりの言葉のわりには、もっともらし

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SNSで、メメント・モリ

SNSで、メメント・モリ

 読書レビュー用のTwitterのアカウントを使い始めて7ヵ月ほどが経過した。発信も兼ねて本格的にツイッターを利用するようになって、ときどき目にするようになったのが、フォローとフォロワー(FF)数が同時にひとつずつ減る現象である。私が知る限り、原因は次のふたつである。

 ①相互フォローからのブロック(ブロ解)
 ②相互フォロワーがアカウントを削除

 SNSを利用していない人や、ツイッター利用歴

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元気があれば、何でもできる?

元気があれば、何でもできる?

 多くの人が当たり前に知っていることなのに、自分だけが長く気付かずにいたことに、後になって驚くことがある。たぶん誰しも多少は身に覚えのある経験ではないだろうか。あまり適当な例が思い浮かばないが、例えばアメリカの首都をずっとワシントンではなくニューヨークと勘違いしていたとか。知らずにいたことに後でびっくりする経験は、なにも具体的な情報に限ったことでもない。

 30年前に放映されたTVアニメ『21エ

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