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読みがえり

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読んだ本のレビュー(書評)をまとめています。雑多な書棚ですが、興味があればどうぞ!※注意🚨紹介している本を一度読んでから開くのをオススメします。限りなくネタバレに近いので笑笑
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2024年1月の記事一覧

書評:『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

書評:『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

①紹介

経済学者・水野和夫氏による『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書、2014年)を紹介します。資本主義の矛盾が招いた社会の停滞は「終わり」の始まりに過ぎません。それを見届ける私たちにできることは何か。ヨーロッパが理念としてきた「蒐集」の歴史に触れながら、その代替案を探ります。


②考察

・「グローバリゼーションとは、『中心』と『周辺』の組み替え作業です」
→一言で表すと「中心」は

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書評:『世界がわかる宗教社会学入門』橋爪大三郎

書評:『世界がわかる宗教社会学入門』橋爪大三郎

①紹介

社会学者・橋爪大三郎氏による『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫、2006年)を紹介します。私たちにとって宗教とは一体何なのでしょう。日本人が苦手なこの分野。古代から現代にもたらされた遺産を、世界のありのままの姿を広く浅く観察してみませんか?

②考察

・「日本人は要するに、宗教音痴なのです」
→私自身クリスチャンだが、キリスト教の本質を熟知しているわけではない。そして生まれ故郷

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書評:『デミアン』ヘルマン・ヘッセ

書評:『デミアン』ヘルマン・ヘッセ

①紹介

ドイツの小説家ヘルマン・ヘッセによる『デミアン』(高橋健二訳、新潮文庫、2007年)を紹介します。第一次世界大戦の敗戦国ドイツ。その若者たちの内面に巣食う喪失感をテーマに書かれた本書は、自己探求の意義とそれに至る葛藤を読者の心に深く刻みつけるものでしょう。


②考察

・「すべての人間の生活は、自己自身への道であり、一つの道の試みであり、一つのささやかな道の暗示である」
→ヘッセが主

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書評:『日本人とユダヤ人』イザヤ・ベンダサン

書評:『日本人とユダヤ人』イザヤ・ベンダサン

①紹介

作家・山本七平がイザヤ・ベンダサンという筆名で著した『日本人とユダヤ人』(角川文庫、1971年)を紹介します。私たちが何気なしに感じる「空気」や「普通」の概念。それは仏教でも儒教でもなく、日本人のほとんどが意識せぬままに信じている不思議な宗教に起因するものでした。

②考察

・「ユダヤ人にとっては、明日がどうなるかは絶対だれにもわからないので、明日の生き方は、全く新しく発明しなければな

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書評:『服従』M.ウエルベック

書評:『服従』M.ウエルベック

①紹介

たまには小説を読むのも悪くない。そう思って今回、フランスの作家ミシェル・ウエルベックの『服従』(大塚桃訳、河出文庫、2017年)を読んだので紹介します。2022年のフランス大統領選に勝利したのはイスラーム政党!?キリスト教的西欧の廃れを前に主人公の「ぼく」が下した決断は?恐ろしいほどに現実味がある社会派小説です。

②考察

・「イスラームは世界を受け入れた」
→「ぼく」より先にイスラー

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書評:『帝国主義』レーニン

書評:『帝国主義』レーニン

①紹介

ロシアの革命家レーニンによる『帝国主義』(宇高基輔訳、岩波文庫、1956年)を紹介します。内容は、前回紹介したマルクスとエンゲルスの共著『共産党宣言』と概ね似ていますが、それを総論、本書を各論と捉えて読むと全体像が掴めるでしょう。

②考察

・「帝国主義はプロレタリアートの社会革命の前夜である」
→レーニンによれば、帝国主義は資本主義の発展形である。マルクスは、資本主義体制が自由競争→

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書評:『国家の品格』藤原正彦

書評:『国家の品格』藤原正彦

①紹介

数学者・藤原正彦氏によるベストセラー本『国家の品格』(新潮新書、2005年)を紹介します。近代西洋の合理主義が生んだ「論理」によって教育の質が下がり、伝統文化が侵食された昨今の日本。誇れる「国柄」を取り戻すためのカギを、古来より重んじられている「情緒」と「形」に見出します。

②考察

・「『国民は永遠に成熟しない』のです」
→藤原氏は、現代の日本人が精神的に弱くなってしまった原因を「論

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書評:『中東問題再考』飯山陽

書評:『中東問題再考』飯山陽

①紹介

前回紹介した『イスラム教再考』の著者でイスラム学者・飯山陽氏による『中東問題再考』(扶桑社新書、2022年)の書評です。アフガニスタンやイラン、トルコ、イスラエル、そしてパレスチナ。これらの国々が抱える問題はなぜ非常に複雑なのか?日本のメディアと「専門家」の言説に歪められた中東の現実を直に見つめ、自らを先入観から解き放つ一冊です。

②考察

・「日本がタリバン支援をするということは、日

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書評:『共産党宣言』マルクス、エンゲルス

書評:『共産党宣言』マルクス、エンゲルス

①紹介

言わずと知れたドイツの思想家マルクスとエンゲルスによる『共産党宣言』(大内兵衛・向坂逸郎訳、岩波文庫、2007年)を紹介します。19世紀中頃に書かれたものとは言え、現代社会が抱える環境・労働問題にも一石を投じていると理解でき、その影響は計り知れません。

②考察

・「ヨーロッパに幽霊が出るーー共産主義という幽霊である」
→その「幽霊」は後に20世紀末のソ連崩壊と資本主義の勝利によって大

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書評:『資本主義はなぜ自壊したのか』中谷巌

書評:『資本主義はなぜ自壊したのか』中谷巌

①紹介

かつて「構造改革」の旗振り役だった経済学者・中谷巌氏による『資本主義はなぜ自壊したのか-「日本」再生への提言』(集英社文庫、2011年)を紹介します。著者が見逃していたグローバル資本主義の落とし穴とは?それはもう止められないのか?解決策の一つは、良き古き日本の文化と精神にありました。

②考察

・「私たちの暮らしている社会は長い歴史伝統の中で作られたものであり、そうした背景を抜きにして

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書評:『イスラム教再考』飯山陽

書評:『イスラム教再考』飯山陽

①紹介

イスラム学者・飯山陽氏の『イスラム教再考-18億人が信仰する世界宗教の実相』(扶桑社新書、2021年)を紹介します。私たちが日本のメディアを通して知るイスラム教は本当に平和で穏やかな宗教なのか?気鋭の著者がリベラリスト(と呼んでいる他の学者たち)の嘘を暴き、隠された真実を読者に突きつける一冊です。

②考察

・「イスラム教の教義のありのままの姿を認めることと、全てのイスラム教徒が戦争を

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書評:『民族とナショナリズム』E.ゲルナー

書評:『民族とナショナリズム』E.ゲルナー

①紹介

今年一発目に紹介する本は、イギリスの哲学者アーネスト・ゲルナーが著した『民族とナショナリズム』(加藤節監訳、岩波書店、2000年)です。昨年紹介したB.アンダーソンの『想像の共同体』と同じく、ナショナリズムの古典と呼ばれており、その誕生の要因の一つに読み書き能力を挙げている点は興味深いです。

②考察

・「ナショナリズムとは、第一義的には、政治的な単位と民族的な単位とが一致しなければな

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