見出し画像

書評:『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

①紹介

経済学者・水野和夫氏による『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書、2014年)を紹介します。資本主義の矛盾が招いた社会の停滞は「終わり」の始まりに過ぎません。それを見届ける私たちにできることは何か。ヨーロッパが理念としてきた「蒐集」の歴史に触れながら、その代替案を探ります。
 

②考察

・「グローバリゼーションとは、『中心』と『周辺』の組み替え作業です」
→一言で表すと「中心」は先進国、「周辺」は途上国のこと。グローバリゼーションの実態は、先進国が途上国からあらゆる資源を掠めとり、その過程で出た「ごみ」の処理を途上国に押しつけることだ。しかし、途上国の人々は先進国の事情を知らないため、「ごみ」は処理されないままどんどん溜まっていき、気づいた時には、対症療法はほとんど意味を為さなくなる。
 
・「現在のグローバリゼーションで何が起きるかというと、豊かな国と貧しい国という二極化が、国境を越えて国家のなかに流れることになります」
→水野氏によれば、「周辺」が新興国になって資源が尽きると、「中心」の資本は国内に無理やり「周辺」を作って利潤の追求に走るという。日本におけるその例が非正規雇用者の飽和であることは周知の事実だろう。
 
・「資本主義の終焉とは、近代の終わりであると同時に、西欧史の終わりであると言っても過言ではありません」
→中世の頃から資本主義と相性の良い「蒐集」(集めること)を理念としてきたヨーロッパの終焉が予想されているのは、蒐集の対象である金や領土が尽きようとしているからだ。なお、その手法は今日のアメリカが他国への「布教」(押しつけ)によってグローバリズム体制の中心となったこと(『資本主義はなぜ自壊したのか』中谷巌、集英社文庫、2011年)と対照的で興味深い。
 

③総合

本書が経済書であり、出版されたのがちょうど10年前なので、当時と現在とで事情が異なることを意識しながら読む必要があった。「脱成長」は噛み砕いて言うと、過度な生産と消費を抑えることで、生産者だけでなく私たち消費者も取り組まなければならない課題だ。歴史への問いからグローバル資本主義の闇を暴く本書は、日々の何気ない行動への疑いを私たちにもたらす一冊だ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?