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書評:『資本主義はなぜ自壊したのか』中谷巌

①紹介

かつて「構造改革」の旗振り役だった経済学者・中谷巌氏による『資本主義はなぜ自壊したのか-「日本」再生への提言』(集英社文庫、2011年)を紹介します。著者が見逃していたグローバル資本主義の落とし穴とは?それはもう止められないのか?解決策の一つは、良き古き日本の文化と精神にありました。

②考察

・「私たちの暮らしている社会は長い歴史伝統の中で作られたものであり、そうした背景を抜きにして、単純な経済モデルにのみ依拠して社会の諸問題を解決しようというのは、あまりにも安直な考え方ではないのか」
→多角的視点なしに、歴史の産物としての経済を学んでも意味はないだろう。過度な資本主義と結びついた昨今の日本社会では、歴史学を含め人文系の学問が軽んじられる傾向にあり、この事態を私は憂いている。

・「日本社会の連帯や安心感を取り戻すことを『国家』に期待するのは間違っている」
→まさにこれ。国民のニーズに応える力は持ち合わせていないものだと最初から割り切り、持ち金が少なくても心を満たせる「何か」を誰かと共有できるよう、市民主体でできることを探さなければ、私たちは何もせず嘆いて終わるだけだろう。

・そのときになって初めて気づいても遅すぎるのだ。モンスターを暴走させ、人類を滅びの淵に追いやったのは、欲望を抑えることができなかった、他ならぬ我々自身ではあると」
→「モンスター」は、グローバル資本主義を指す。昨今の温暖化の進行ぶりを見れば、罪悪感を抱かずにはいられない。しかし、私のような人間に何ができるのか。状況が深刻なのは百も承知だが、具体的にどんな対策をすれば良いのかわからない。そう言っている時点で思考停止状態なのかもしれないが、この話題を誰かと共有してみたい。

③総合

グローバル資本主義の誕生と破綻の原因を大国アメリカの歴史に見出している点は見逃せない。日本と欧米、双方の宗教観の違いが今日における労働観の違いを生み出しているという中谷氏の指摘には思わず目から鱗が落ちた。また、彼は日本経済の再興策の一つとして、自国の伝統文化に親しむことの重要性を説いており、西洋近代の合理主義批判として解することもできる。しかし、これは決して反米あるいは日本礼讃を意味するのではなく、それぞれの経済システムに一長一短があると捉えるべきものだろう。

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