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書評:『民族とナショナリズム』E.ゲルナー

①紹介

今年一発目に紹介する本は、イギリスの哲学者アーネスト・ゲルナーが著した『民族とナショナリズム』(加藤節監訳、岩波書店、2000年)です。昨年紹介したB.アンダーソンの『想像の共同体』と同じく、ナショナリズムの古典と呼ばれており、その誕生の要因の一つに読み書き能力を挙げている点は興味深いです。

②考察

・「ナショナリズムとは、第一義的には、政治的な単位と民族的な単位とが一致しなければならないと主張する一つの政治的原理である」
→ゲルナーによれば、この原理が害されたときに生じるのが「ナショナリズムの感情」だという。中国によるウイグル人虐殺や、ロシア・ウクライナ戦争、日本の抱える領土問題など、時代の歪みを解くヒントはこれか。

・「民族を生み出すのはナショナリズムであって、他の仕方を通じてではない」
→ナショナリズムがなければ、どれだけ人が集まっても烏合の衆でしかないだろう。民族が存続するのに、人間は呪術的な力に頼らざるを得ないようだ。

・「近代的で最新式の快進撃を続ける高文化は、それが不朽不滅で、強固で、再確立しうるものとてっきり信じ込んでいる民俗文化から拝借した(そして、その過程で様式化した)歌や踊りを通して、自らを崇拝するのである」
→戦前の日本が国民をまとめるために生み出した天皇制はこれの典型例だろう。神風特攻や靖国神社参拝問題も元を辿ればここに行き着くに違いない。なお、ゲルナーは別頁で「高級宗教」なる概念を用いているが、これを指すものか。

③総合

私は今までナショナリズムという言葉を聞くたびに、「保守」や「右翼」を思い浮かべ、悪い印象を抱いていたが、本書を読んでから、それが左か右か、革新か保守かの二項対立で捉えられるほど単純な話ではないことに気づいた。ただ、戦争と関連づけて考察されることが多いので、注意深く批判的な理解が不可欠となる。本書は、右にも左にも寄らない歴史観を政治哲学的な視点から読者に提示する一冊と言えよう。

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