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書評:『中東問題再考』飯山陽

①紹介

前回紹介した『イスラム教再考』の著者でイスラム学者・飯山陽氏による『中東問題再考』(扶桑社新書、2022年)の書評です。アフガニスタンやイラン、トルコ、イスラエル、そしてパレスチナ。これらの国々が抱える問題はなぜ非常に複雑なのか?日本のメディアと「専門家」の言説に歪められた中東の現実を直に見つめ、自らを先入観から解き放つ一冊です。

②考察

・「日本がタリバン支援をするということは、日本人の税金がタリバンのテロや抑圧に使われるかもしれないことを意味するのです」
→2021年8月、米軍撤退後のアフガニスタンをタリバンが再び制圧した件について。この2年前にアフガン支援の先頭に立っていた中村哲医師がタリバンの凶弾に倒れ死亡。邦人の殺害にもかかわらず、支援と銘打ち、テロリスト集団に資金をばら撒く日本政府の考えが全く解せない。

・「イランは『親日』、トルコは『親日』という『宣伝』を見たら直ちに、イランもトルコもそれよりはるかに『親中』であるという事実を思い起こすべきなのです」
→革命を建前にして戦争と悲劇を周辺国に提供するイラン。中国の経済支援により同胞のウイグル人から目を背けてしまったトルコ。日本は過去に借りがあって両国に仲良しアピールをしているのだろうが、いいように利用されているに過ぎない。だから日本はナメられる。

・「古いパラダイムに固執した争いや対立ではなく、新しい考え方や共通の関心事に基づく対話と和平で隘路を切り開く突破口を作ろうと前を向く中東諸国こそ、私たちが手を携え協力していくべき相手です」
→第一次世界大戦中にイギリスが展開した「三枚舌外交」は、近年の中東問題を探り得るほどの大きな意味をもう持っていないとして、飯山氏は2020年の「アブラハム合意」を支持。歴史が変わるのなら、私たちも思考を変えなければならないだろう。

③総合

飯山氏の持論にはどれも説得力があった。特に「パレスチナ=善、イスラエル=悪」の先入観が中東問題についての考察を難しくしているという指摘はその一つだ。この問題が、100年前にイギリスが巡らした謀略の帰結だと世界史の教科書で学んだ私にとっては衝撃だったと言っても過言ではない。本書は2022年に出版されたので、昨年10月に始まったハマスとイスラエルの武力衝突についての言及は当然ないが、それを考える一助には十分なり得るだろう。

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