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ideaboard® 開発ストーリー連載 #2_デザイン開発編 | プロトタイピングと仮説の更新

 この連載では、中西金属工業株式会社(以下、NKC)が、2019年に発売した新しいホワイトボード『ideaboard®(アイデアボード®)』の開発に関わったプロジェクトメンバーから広く話を聞き、ideaboardが世に生み出されるまでのストーリーを記録します。
<過去の記事>
ideaboard® 開発ストーリー連載 #1_発想編 | アイデアの種を育て続ける

Ideaboard使用シーン

 第2回目となる今回は、引き続き、NKC 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN 室長の長﨑 陸さんに、アイデアを具現化していくプロセスについてお聞きします。

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長﨑 陸 / Riku Nagasaki
中西金属工業株式会社 社長付 戦略デザイン事業開発室 KAIMEN
NKC BUSINESS DESIGN CENTER

1.デザインによってビジネスを開発する”KAIMEN”の第一プロジェクト

ーそもそも戦略デザイン事業開発室 KAIMENとはどんな部署なのでしょうか?

最初は、インハウスデザイン部署をやらないかと声をかけてもらったのがきっかけです。

ただ、僕はインハウスデザインのビジネスモデルには限界がきていると思っていて。ほんとうにデザイン経営をするなら、新しいアイデアをデザイナー主導で形にして世に問うていく、というプロセスをしないといけない。それが俗に言うデザイン主導イノベーションとかデザインマネジメントですね。
本当にそんなことをしたいなら、私が有り方を提案するのでそれに乗ってくれますか?というような話をして。その結果、3年間の期限つきで、デザインによってビジネスを開発していくKAIMENという部署を立ち上げさせてもらったんです。

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ーideaboardのプロジェクトがKAIMENとして動き出したのは?

KAIMENは最初の半年間僕1人だったんですよ。メンバー探しとか、オフィスづくりとか、孤独な作業を1人でしていました。そこから何か1人でも具体的に進めていけるもの、って考えたときに一番現実的なものがアイデアボードでした。

2.まず作り、積み重ねていく偉大なる失敗

ー頭の中で育てたアイデアをどのように形にしていったのですか?

これが最初のスケッチ。とりとめもなくスケッチしながら考えていました。

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反らないようにしたい、2つにつなげたい、中はハニカムで軽くしたいとか。つなげたり重ねたりするときにパチパチくっつくとか、ベルトでまとめたら1人で5枚持って運べるとか。いろいろアイデアを作ってたんです。

あと僕は物理やサイエンスが好きな人間なので、構造とかの問題も思い浮かぶんですね。例えば複数の多極磁石を、軸を中心に遊動、回転させると、奇数個でも偶数個でも自動的にSとNが回って隣り合う構造ができるんじゃないか、とか。これおもしろい、じゃあ早速作ってみようと、百均でネオジウム磁石を買ってきて実験しました。それをベースに、形にしたのが最初のプロトタイプです。

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ー早速作ってみるんですね。

KAIMENとしてまず作るということは、一番大事にしていること。まず作る、まず形で見せる。これはもはやKAIMENの存在意義でもある。超たくさん作ります。
だいぶ慣れてきて精度は上がってきましたけど、やっぱり失敗することの方が大事。失敗作ができないと逆に辛いし、プロジェクトの筋としてあやしいことのほうが多い。今回の初期プロトタイプも後々失敗作になるんですけどね。(笑)

ーマーケティングのリサーチは?

そもそも市場調査を信じていないし、特に今までなかったものを作るときは誰も良し悪しを判断できない。そういった意味では平易な意味でのマーケットリサーチは全くしてないです。

それより、人が既存商品やプロトタイプをそれぞれどう使っているか観察することを重視します。なんか戸惑ってるな、とか、立て方に苦しんでるなとか。使う人をずっと見ているとわかってくるんです。

3.「柔軟に組める」という仮説の検証

ーこの段階でも実際に、ユーザーの使い方を観察したんですか?

ある程度プロトタイプが形になったときに、それを5枚パッキングして、普段からアイデアを会話していたMTRL KYOTO(マテリアル京都)へ送らさせてもらったんです。1FにFab Cafeもあるし、空いてるスペースに自立させてみたりとか、いろいろクリエイティブな使い方をしてくれるかなと勝手に思っていました。

結果、僕たちの完全な失敗(笑)!こっちが意図した通りには全然使ってくれない。前提が全く違った。そこには機能面から来る理由と、体験面から来る理由の2つがあったんですよね。

まず、複数枚をつなげて床に置くとき、平らに見える床でも大抵10-20mm程度の段差はあるので、マグネットがそのズレを吸収しきれなくて外れてしまう。1箇所が外れると全部崩壊する。そうなったらもう、ユーザーは諦めちゃう。機能的にはここですね。

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あと、1人が1枚だけを抱えこむ使い方が多かったことも想定と違いました。自分と隣のデスクの隙間に突き刺して、自分専用ホワイトボード兼間仕切りにしてみたり、デスクの正面に立ててテープで固定しちゃったり。
たまに2枚使う人もいたけど、マグネット接続が不安だからテープでぐるぐる巻きにして固めてしまっていることもあった。。2枚くっつけてA型に自立させる使い方すらされてなかった。なるほどと思いましたね。少なくとも自分たちが最初の仮説としてつくった「柔軟に組める」っていうのはどうやら間違っていそうだと。

4.固定観念を取り払うのはリアルなユーザーの観察

ー初めから大事に育ててきた仮説を捨てて、次の仮説を更新するってすごく勇気がいりそうですね。

自分たちも人間なので、自分自身が抱えるバイアス、偏見、固定観念みたいなものからは、絶対に免れられない。その固定観念をどうシステマチックに壊していくか、という方法論なんです。

自分がこうだ!って思った仮説をプロトタイプにしてまずは人や環境にぶつけてみる。すると、仮説が間違っていて、でも別の方法でカバーできるかもって気づく。それが自分のバイアスが一個外れるときだと思います。

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ある程度訓練を積んだデザイナーって、人よりも想像力が豊かだと思うんです。人よりも少し早く、つまづきそうな石が見えて、石を取り除いてあげられる。だから使いやすいボタンの形、エラーを起こさない使い方、怪我をしない形、製造時の問題点まで想像ができる。
ただ、今は社会環境や問題がどんどん複雑になっていて、それらの問題を解決するためには、デザイナーの想像力だけでは全然対応できないんです。

そこを補完できる方法がやっぱりリアルな社会で、リアルな人に使ってもらうこと。その中で起こるバグやエラーを観察して、また自分たちの仮説を更新していくっていう作業です。その繰り返しのために、社外ではMTRL KYOTOを皮切りに、その後他のいろんなデザイン事務所に配っていきました。

ーユーザーも自身で気づいていないような違和感やニーズを、観察から見つけることってすごく難しそうに思えます。

僕の趣味が「ユーザーの目的外利用」の収集なんです。設計者が意図してない使われ方をユーザーが主体的に工夫して「用をなす」みたいなことがよくあるんですけど、その発見が趣味。
例えば、これはスポーツショップの靴売り場の値札に除菌スプレーを引っ掛けてる、売り物として。

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水のサーバーをテントの重しにしたり。グラウンドの集まり、みんなの荷物は、なぜ、ここに置くのか?とかね。

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無意識にやってると思われがちだけど、実は人って直感的にすごく考えてる。人が環境に対して反応しているその裏側には、普遍的なアイデアとか困り事が絶対潜んでると思うんですよね。

誰も口に出さないし、言葉にできるところまで分かってもないっていうところをちゃんと発見する。この目的外利用の観察っていうのは、KAIMENの活動の肝にもなるところだと思います。

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5.仮説の更新で行き着いたのは”1枚のシンプルな板”

ーMTRL KYOTOでの実験結果を経て、その後プロジェクトはどのようにすすみますか?

仮説を更新するんですけど、要するに、くっつけなくていい。とにかく使い勝手がいい、1枚のシンプルな板があればいい、という風に変わった。ただそのときは、板同士をつなげるアイデアを完全に捨てたわけではなく、自分の中ではまだ2枚3枚とくっつけたいと思ってたんですけど。

ここまでで、「何をデザインすべきか」という、”デザインの与件”はデザインし終わった。この仮説Ver.2をベースにして、さらに精度の高いアウトプットにつなげられるインダストリアルデザインの協業先を探し始め、f/p designさんに行き着きました。

次回 ideaboard 開発ストーリー連載_#3 へ続く
(取材・文 / (株)NINI 西濱 萌根,  撮影 / 其田 有輝也)

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