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恍惚の玉のショッキングピンク

休日まえの深い夜、一週間のバケーションのため新宿の西口、ココ・シャネルのまえで売人と話している。こっちは太客だぞ、何度買ったと思うんだとかえせば、あいにくスタンプカードなどはないんでね、贈与はないよとのこたえ。たちまち激しい口調で応酬。

買おうとしているのは玉一週間分。数個喰って死んだのもいたなと、ゴシップ記事を検索。ああそうだ、この男女だ、ピンクな関係だったのに残念だなと呟く。純度については自信があると売人は言った。その言葉をまったく信じないまま玉のショッキングピンクを一週間分購入した。

突然、売人もろとも覆いかぶさる人混みに呑まれた。ココ! と手を差し伸べるが嫉妬に燃え上がる彼女はみるみる離れていく。嫉妬深いココ・シャネルのまえでショッキングピンクについて語るのは禁句だったのだ。渦のなか、ハイヒールのかかと、バッグのチャック、托鉢僧の鈴も鳴る。托鉢僧については托鉢僧を偽造したルンペンと言う話もある。とにかく恍惚の玉をポケットに、渦に流され、ゲームセンターに漂着していた。

気をとりもどす。コインを入れ一週間バケーションめがけてアクセルをふむが即ゲームオーバー。恍惚の玉をつまみ食いしようと販売機のチェイサーを買えばチェンジされたコインをふたたび入れてカーチェイスし終えてから再度チェイサーをおかわりすればチェンジされたコインを入れてまた、とループしても結局はゲームオーバー信号の赤。

赤でとまっている。ココ・シャネルが嫉妬する玉のショッキングピンクを握りしめて、一週間バケーションに入ってよいと告げる青を待つのだ。バケーションが終われば真っ青になっているだろう。それでもバケーションへ入る合図の青を待つのだ。

恍惚が暮らしのバケーションにおける第一希望だった。けれども一人きりで、一体、誰と。


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