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夏街

ビニールバッグを抱えた少年少女、中央線の座席の上、ぶらつかせている細い足の長さもちょうど、ちょこんと上目遣い、並べた肩も細かった

向かいに立つ男が親と見える、彼は釣り道具を持っている、向かっているのは海と伺える、目的地は近場の千葉、いや、新幹線もありえる

だんだん海が恋しくなってくる、自慢じゃないが泳ぎは達者、それだから夏はうれしいはずなのだ、しかしいまバッグのなかには謎の荷物

ばっくれたらにっちもさっちもいかなくなるだろう、なにが入っているのかどうにも察知できないでいる、釣り道具ではないはず、つれない荷物



新宿駅東口を屹然と出て、荷物をコインロッカーに入れたらさあOK、新装開店の喫茶店に入る、アイスコーヒーを流し込んだらさっさと会計

花束を買って歌舞伎町へ歩けば、駐車場で知らない男と落ち合った、ロッカーの番号を入れた花束、注射痕のあるそいつに渡してさようなら

リアス式海岸を思わせるバロック調の風俗街、色あいを駅へ向かう、リアリティある女たちの波が流れてきた、色々な香水に船酔いを起こす

東口から日が沈む西口へ、廻ってみればもうこんな時刻になっている、買ってみた果汁入りかち割り氷、満喫できない夏の夕刻にしたたり落ちる


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