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セゼール『帰郷ノート』

エメ・セゼール『帰郷ノート』(1939)を読んだ。

アフリカ西部のフランス領・マルティニク島における植民地主義、奴隷制、人種差別をめぐる散文詩だ。


詩といっても、島についての地理的・歴史的知識がないと、ほとんど意味が分からない。

平凡社版(砂野幸稔・訳)は、詳細な訳注が付いているおかげで何とか理解できる。

しかしながら、知識がないと読解できないというのは詩として成立しているのだろうか。

それなら評論形式のがよかったのではないかと余計なことを考えてしまう。

訳者の解説「エメ・セゼール小論」によると、『帰郷ノート』はパリ高等師範学校時代に書き始めたものだ。

勉強には身が入らなかったようだが、やはりエリートらしく知識を重んじていたと言える。


それはともかく、奴隷制や骨相学の具体的描写が非常に生々しく、世界史の教科書には書かれていない事柄を知ることができる。

黒人である作者による黒人観も興味深い。

そして、「ネグリチュード(黒人性)」という言葉に熱い想いが込められているのが伝わってきた。

また、過酷な史実とともに地名が多く登場するので、いわゆるダークツーリズムのガイドブックとしての価値もあろうかと思う。



写真は、セゼール(右)

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