マガジンのカバー画像

読書

24
読書記事まとめ
運営しているクリエイター

#コラム

天袮涼/希望が死んだ夜に

天袮涼/希望が死んだ夜に

今思えば学生時代ほど、情け容赦ない理不尽、抗えない不条理に晒される年代があるだろうか。

“親ガチャ”という言葉があるように子は親を選ぶことが出来ない。

“カースト制”という言葉も集団生活においては実在する。

温かい食事暖かい布団清潔な衣類を毎日与えられて養われたという経験は決して当たり前ではないのだ。

貧富の差はそのまま学校生活においての“カースト制”に直結することもある。



この作

もっとみる
恩田陸/私の家では何も起こらない

恩田陸/私の家では何も起こらない

息の長い作家は、村上春樹の言葉を借りるならば皆、“職業としての小説家”だ。

彼らの中には唯一無二の持ち味を生み出しながらも、数本の柱を持っている作家が一定数いる。

村上春樹は、短編中編長編翻訳、

山田詠美は、外国人との恋愛を描いた作品と青春小説、

といった具合に。

中でも恩田陸の柱の多さには毎回舌を巻く。
しかもそのどれもが高く評価されるのだからもう舌はぐるんぐるん、唸ることさえ出来ない

もっとみる
世田谷ピンポンズ/都会なんて夢ばかり

世田谷ピンポンズ/都会なんて夢ばかり

世田谷ピンポンズ。今の時代を生きる若きフォークシンガーだ。

2015年には又吉さん(ピース:又吉直樹)と共作で曲を発表。

見た目は文学的、ご本人も古書店、喫茶店がお好き。

歌う曲は郷愁的、明るい曲調の曲もどこか物悲しく切実センチメンタル。そして、どこまでも優しい。上手くやれなかった日、自分のことが嫌いになりそうな時、聴くと救われる。
隣にそっと寄り添ってくれているみたいだ。

また、グッズが

もっとみる
島本理生/ファーストラヴ

島本理生/ファーストラヴ

なんの予備知識もなく、『ファーストラヴ』を手に取り読み始めて驚いた。

この作品が大衆文学であること

殺人事件というサスペンスが扱われていること

直木賞受賞作であること

これらの事実に。

私が描く島本理生という作家のイメージ、それは、純文学、恋愛小説、芥川賞受賞候補作多数、という文字の羅列だったからだ。

だが、しかし、読み進めていくうちに、紛れもなく島本理生という一人の生身の人間が生み出

もっとみる
伊坂幸太郎/逆ソクラテス

伊坂幸太郎/逆ソクラテス

各章少年の視点で語られる連作短編集だ。

とても暖かい筆致で描かれている。

この作品は、

【自分の視座をきちんと持つこと】

【見た目や周りの意見に流されず真実や本質を見抜く力】

が、いかに大切か教えてくれる。

これは、大人の世界でも子供の世界でも共通だ。

ビジネスシーンにおいて

SNSの世界において

メディアリテラシーという言葉もあるように、マスメディア、ニュースを観るにあたって

もっとみる
島本理生/あられもない祈り

島本理生/あられもない祈り

古典にもなり得る。
序文でそんな予感がした。
あまりに美しいものだから咏かなとさえ思った。
見た目は本だがこの作品は"恋”そのものである。私は今"恋"を抱えている。

から始まる最後の数行を読んだとき、予感は確信に変わった。

育った環境から人は逃れられないのか“あなた”と“私”の物語は、三年前の夏の日、二人一緒に岩場の陰で日の入りを待っているところから始まる。

物語の終盤、“あなた”と行きたか

もっとみる
若林正恭/表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

若林正恭/表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

Go Toトラベルが話題だが、誰かと一緒に行く観光を目的とした旅行には苦手意識と嫌悪感を抱き、一人で行く旅行には興味がない。

誰かと一緒に行く旅行は、行くことが決まったその日から緊張し憂鬱な日々が続く。幼い頃、毎年夏休みに用意されていた家族旅行も苦痛で、時期が近付くと情緒不安定になるほどだった。ちゃんと楽しめるか、心配なのだ。

テンションが高い人たちが苦手だ。例として挙げるならば、ディズニーラ

もっとみる
江國香織/ぬるい眠り

江國香織/ぬるい眠り

結婚する前は、その行為は[浮気]と名付けられている。

結婚した後は、[不倫]と呼ばれるらしい。

まるで、[にきび]と [ふきでもの]みたいだ。

同じこと、同じものなのに、呼び方が変わる。

しかも厄介なことに、後者は罰則付きなのだ。

私は、不思議で仕方なかった。どうして人の感情の動きに罰が生まれるのだろう。

不思議で不思議で仕方なくて、調べたりもした。

まあ当然、結婚という制度が関係す

もっとみる
カツセマサヒコ/明け方の若者たち

カツセマサヒコ/明け方の若者たち

「フジロック、IKEAでデート、ヴィレッジヴァンガードで待ち合わせ...同年代の筆者が描く物語、同時代を生きた者なら共感するだろう。」

というお触書を、Twitterのタイムラインで目にした。気になった。

その直後、普段からリプのやり取りをさせていただいているアカウントの方と、たまたま本の話になり、こちらの著書が話題にのぼった。

買うしかないと思った。

直後、『明け方の若者たち』の著者カツ

もっとみる
宇佐見りん/かか

宇佐見りん/かか

マザーコンプレックス文学マザーコンプレックス文学、果たしてそのような言葉が既に存在するのかどうかわからないが、たまにそう呼びたくなる文学がある。
宇佐見りん氏の『かか』は間違いなく、そのひとつだ。
悪い意味ではないので誤解しないでいただきたい。

この物語に登場する女性陣は、それぞれマザーコンプレックスを抱えているように見える。

明子は子供の時に母である夕子を亡くし、かかは姉の夕子にばかり母の愛

もっとみる
山田詠美/120%COOOL

山田詠美/120%COOOL

高校時代、友人から「林真理子が好きな女子は幸せになり山田詠美が好きな女子は苦労するらしいよ。」と言われた。

そんな予感はしていた。

それでもいいと思った。だってエイミーはこんなにも潔くて、かっこいい。

ワンハンドレッドトウェニィパセント、クール。

津村記久子/君は永遠にそいつらより若い

津村記久子/君は永遠にそいつらより若い

タイトルが秀逸。

世の中に出た当初は『マンイーター』というタイトルだったと教えていただいた。

書籍化のタイミングで改題したという。

改題されていなかったら手に取らなかった可能性すらあるのだからタイトルがいかに大切か。

2021年映画化とは知らずに引っ張り出した芥川賞作家のデビュー作にして太宰治賞受賞作。デビュー作が鮮烈な印象の作家は多い。

モラトリアムな学生の話かなと思いきや理不尽な暴力

もっとみる
佐藤幹夫/村上春樹の隣には三島由紀夫がいつもいる。

佐藤幹夫/村上春樹の隣には三島由紀夫がいつもいる。

上記一文は、私が本書を手に取った理由にもあたる。

私も、村上春樹氏のこの発言に、疑問を持つ者の一人だ。

そんなはずがないのだ。読んでいないはずがないのだ。

村上春樹『ノルウェイの森』と夏目漱石『こころ』このふたつの作品は、似ていると私は感じた。

・死を内包しながら生きる主人公

・アイデンティティの喪失

・まるで人間味のない人形のような女性(ヒロイン)の描かれ方

などが、そう考えた要因

もっとみる
有栖川有栖/虹果て村の秘密

有栖川有栖/虹果て村の秘密

純文学以外に好きなジャンルが2つある。

1つは、"青春ミステリ(ジュブナイル・ミステリ)"
もう1つは、"百鬼夜行(日本の昔話のようで少し不思議な小説)"
だ。
特に2つめが曖昧な表現になったので、具体的に好きな作家や作品を例として挙げさせていただくと、
"青春ミステリ(ジュブナイル・ミステリ)"
恩田陸
『六番目の小夜子』
『ネバーランド』
『黄昏の百合の骨』
『麦の海に沈む果実』
辻村深月

もっとみる