マガジンのカバー画像

小説

62
自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
運営しているクリエイター

#トランスジェンダー

フェミニズムとの離別

フェミニズムとの離別

 女らしくと強いられたくない
 女子力高いと褒められたくない
 歩く女性器と思われたくない
 女だからと低く見るな
 違う生き物として見るな

 隠されていた枕詞は
 「僕だって男なのに」

 胸の中に嫉妬の巣を見つけてしまった僕は
 「女を馬鹿にするな」ともう叫べない
 僕はその主体ではない
 女の怒りは女の手に

 僕は僕だけの孤独な怒りで
 向こう岸を眺め遣る

 男と女の間の断絶
 その谷

もっとみる
産みたくない僕の話を聞いて

産みたくない僕の話を聞いて

「子供、欲しいの?」

 グレーのスウェット姿の彼はベッドに寝転んだまま「いてもいいかなと思って」と答える。視線はスマホの液晶の上を細かく上下し続けている。

「どうしてそう思うの?」

「んー、なんとなく?」

 彼は寝返りを打って、にへらと口元を緩める。

「こちらは産みたくないし、今の状況で育てていくのも無理だと思っています。子供が欲しいなら説得してよ。どうして子供が欲しいの?」

 彼はス

もっとみる
【小説】自食(リアル人狼ゲームの話)

【小説】自食(リアル人狼ゲームの話)

 今日も吊られずに済んだ。

 村に紛れ込んだ人狼に、また一人、喰い殺された。

 人狼を炙り出すための会議が今日も開かれる。

「ねえ、彼氏作んないの?」

 化粧の濃い村人Aが話題を振ってくる。

「なかなか良い人いなくてさあ」

 村人らしい口調、手つき、表情になるよう注意を払いつつ答える。

「どんな人がタイプなの?」

 ピンクの爪の村人Bが食い付いてくる。掘り下げなくていいのに。

 

もっとみる
不義

不義

 結婚という契約を交わした男と女は無条件に祝福すべきものとされている。

 人を集めて幸せそうな顔をしてみせて、永遠という空疎を誓う。体裁さえ整えておけば、そこは喜びの場なのだという約束事が、不安も憂鬱も塗り込めて覆い隠す。

 婚姻関係という型に収まって数年後、喪失をきっかけとした心身の不調に対処するために読み漁った本から得たいくつかの概念は、私にとって禁断の知恵の木の実だった。

 どんなとき

もっとみる