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建築家 廣部剛司 言葉と音楽と建築と

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建築家の廣部剛司が思い立ったときに書いていくnoteを作成しました。
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#建築

アトリエのイタリア紀行

アトリエのイタリア紀行

 事の起こりは、シチリアの美術館に行きたいと思い立ったことだった。

建築家 カルロ・スカルパが、そのキャリアの初期(1954年竣工)に手掛けた「パラッツオ・アバテリス」は第二次世界大戦中に爆撃され、瓦礫になっていた建物を修復していった建築で、シチリア州立美術館となっている。

 スカルパは、学生時代からずっと気になり、幾度もその作品を辿っているけれど、ずっとシチリアには足を延ばせないでいた。

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緩やかなる崩壊へ

緩やかなる崩壊へ

     軍艦島への調査上陸を経て

    廣部剛司



 一本の一升瓶が、それまで行われていた生活が突如として閉ざされたことを語るかのように朽ちた床の上に置かれていた。次の引き取り手を待つことを決めた炭鉱の街は、解体されることもなく、1974年の1月15日、住民を失った。

 1974年の閉山を機に無人島となった端島は、通称「軍艦島」と呼ばれている。その遠めの外観が、三菱造船で建設してい

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「響きのかたち」の再掲載のこと

「響きのかたち」の再掲載のこと

雑誌「モダンリビング」で連載しておりました「響きのかたち」。
先月から1篇ずつweb記事として再掲載されていますが
2回目の記事がアップされました。
取り上げているのはルイス・カーン設計の〈エシェリック邸〉です。

実は普段から自分が<建築と音楽>の関係について
意識しながら設計しているのですが、それについてもこの名作住宅をかりて
触れております。

絶え間ない変化を続ける地球のインフォメーション

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建築と音楽の<実は親密な>関係

建築と音楽の<実は親密な>関係

(おそらく)今年唯一となるライブまで2週間を切りました。音楽は自分にとっては、自然と「建築」に結びついています。

そのわけを書き始めると自分の場合かなり長くなってしまいますが(時間がないときはつい「建築よりキャリアは長いので」などと言ってしまいます…)、端的に思いついたことを綴ってみますと…

例えば、10/9のライブで演奏する予定の新曲があります。もう長いこと、ギター+ベース+ドラムの三人だけ

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水辺の空間とバワの建築

水辺の空間とバワの建築

大学の教え子がスリランカに行くという。熱心な学生でオープンデスクにも来たいと。それならば…と、インターンの最終日に3月に訪れたスリランカの写真を見せるプチレクチャーをすることに。

建築家 ジェフリー・バワの作品を巡ることを主目的としたツアーに参加したのが3月上旬のこと。それからずっと、整理せねばと思いつつ4000枚近く撮影した写真はそのままになっていたけれど、ここで一念発起。1/10くらいに絞り

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記憶と記録の時差

記憶と記録の時差

GAのジェフリー・バワを購入。バワの2つの自邸。3月に訪れた記憶と照合しながらページをめくっていると不思議な感覚にとらわれる。
それはおそらく、この本の写真が撮られた瞬間と、今年の3月との間のタイムスパンによるものなんだろうと思う。

写真は瞬間を切り取る。つまりこの写真集はある時代の一片を切り取っている。当たり前のようでいて、最近のようにデジタルで見たものがすぐにネット上に出まわる感覚との差異を

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サイドウェイ 建築への旅 台湾版-リニューアル

サイドウェイ 建築への旅 台湾版-リニューアル

拙著『サイドウェイ 建築への旅』の台湾版が出版されたのは2009年のことでしたが、このたび表紙をリニューアルして再版されました。

サブタイトルや写真のチョイスなどは先方にお任せだったのですが、雪の室生寺で撮影した一枚が表紙に使われているのは新鮮な驚きがありました。 

実は今回、再版されるにあたって、序文の執筆依頼がありました。8ヶ月の旅から20年目の今をテーマに書いた一文、書籍には翻訳されて掲

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雑誌「ENGINE(エンジン)」に『Gray ravine』掲載

雑誌「ENGINE(エンジン)」に『Gray ravine』掲載

発売中の雑誌「ENGINE(エンジン)」に目黒区の『Gray ravine(グレー・ラヴィーン)』が掲載されました。

今回のテーマは、「今どきの都市住宅」ということで、都心の密集地に建つこの住宅が取り上げられました。

「ENGINE(エンジン)」はクルマを中心にした雑誌ですので、大きなインナーガレージがある住宅や、面白いクルマを所有されているお宅が良く出ていると思います。

今回の特集の面白い

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ソニービルのルーバー

ソニービルのルーバー



ソニービルのルーバーが届きました。

この表面に施されている白系の塗装は四半世紀前のリフレッシュ工事の時に施されたもの。
一本ずつ取り外して工場塗装→再取り付けされました。

自分が芦研に入って最初につくった模型がその改修のためのものでした。
先入観ができるだけないように、と白模型でつくったところ
「白くするのもいいなぁ」と芦原先生が言われたのが記憶に残っています。

隣に置いてある金属の鈴は

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「発酵する都市-Fermented City-」

「発酵する都市-Fermented City-」

月曜日の朝、事務所で朝の申し送り事項だけ確認して、駅に向かいました。

向かった先は前橋工科大学。韓亜由美さん他の建築学会賞(業績賞)受賞記念講演が行われるということで、伺うことにしました。

渋谷から湘南新宿ラインで高崎まで2時間。そこから更に両毛線に乗り前橋駅へ。そこから大学まではバスがありますが、乗り継ぎが余り良くなかったためタクシーで大学へ。

二子新地から3時間あまりで到着した前橋工科大

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「次代への手紙」

「次代への手紙」

30分前のこと。

書籍を探していて、ふと恩師の著作を手に取ると「次代への手紙」というタイトルの付いた短文が目に入る。

思わず読みかえしたその文末に、ひそかな影響を感じつつ、実は励まされていたのだと思う朝。

「部分発想の場合は天性の素質が少なくても必死の努力でかなりの成果を上げることができる。若き建築家はよく自分の素質について考え、友人がどんな変わったデザインをしても、まどわされることなく我が

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海中展望塔と建築の境界線

海中展望塔と建築の境界線

勝浦の海中展望塔。

訪れるのはおそらく大学2年生の時以来。

夏休みの設計課題が「海中展望塔」だったため、事例として観に行きました。
あらためて、海に起立する鉄の構築物をみていると、船舶などと建築の境界線を考えます。

先日展覧会を拝見したコルビュジエの改修した「アジールフロッタン」がRC造の船舶だったことから
ふとその著書『建築をめざして』をひもといてみると

<もし、一瞬でも運輸の道具だとい

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岡崎はジャズの街なんですよ

 

 2015年に竣工した『岡崎の曲屋(まがりや)』という住宅の設計、現場を通して何度も岡崎には通っていたけれど、いつも時間に余裕が取れなくて現場以外の場所をほとんど訪れたことはなかった。

 今回ひょんな繋がりで岡崎の建築相談会に呼んで頂くことになり、2日目の朝、早起きして(ごく一部ではあるけれど)街歩きをすることができた。城下町にルーツを持つ街並みの一部を感じながら岡崎城まで、約1時間ほど歩

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