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「発酵する都市-Fermented City-」

月曜日の朝、事務所で朝の申し送り事項だけ確認して、駅に向かいました。

向かった先は前橋工科大学。韓亜由美さん他の建築学会賞(業績賞)受賞記念講演が行われるということで、伺うことにしました。

渋谷から湘南新宿ラインで高崎まで2時間。そこから更に両毛線に乗り前橋駅へ。そこから大学まではバスがありますが、乗り継ぎが余り良くなかったためタクシーで大学へ。

二子新地から3時間あまりで到着した前橋工科大学にはのんびりとした空気が流れていました。

講演が始まったのは13時。そこから間に15分の休憩をはさんで18時までの5時間ほど。久しぶりに頭フル回転の勉強モードでした。

そもそも韓さんとの最初の出会いはもう20年ほど前。自分がまだ芦原建築設計研究所のスタッフだった頃です。

当時、「FAX建築批評」というコーナーがGAjapanの巻末にあり、ときおり投稿していました。それを見つけられた とあるメーカーの社長さんが自社で行うクローズな講演会に呼んでくださいました。そこで少し前に日経アーキテクチュアでアクアラインのシークエンス・デザインを紹介されていた韓さんにお目にかかったのが最初です。

音楽に強い関心がある自分には、「速度」の中でシークエンスをデザインするという手法に惹かれました。勇気を出して話しかけたのが始まりです。

それからやりとりをさせて頂くようになり、芦研退所後に8ヶ月の世界放浪をしたときは、現地のご友人を紹介していただいたりしていました。

韓さんのお仕事は、既存の「仕事」の上にあるわけではなく、その時は仕事として認識されていないようなことに挑み、デザインする価値があるという事に対して付加価値を生み出す、いってみれば「仕事そのもののカテゴリーをつくる」というような活動をされ続けています。

今回受賞された「アーバンフォレスト朝霞浜崎団地バリューアップ計画」については、あまりよく存じ上げなかったのですが、この日は協働された方々との丁寧なプレゼンテーションが行われ、よく理解することができました。

時を経て疲弊した団地のリノベーションについては、現在様々な取り組みがされていますが、韓さんのお仕事で特に印象に残ったのは、住民の目線でサーベイをするところは特殊なことでは無いのかも知れませんが、それを「デザイン」の課題に変換して提示されていることです。

つまり、テクニカルに何かを更新する、どこかのインテリアを豪華にするなどというリノベーションではなく、人のこころ。つまり情緒にうったえるためのデザインに情熱が注がれているということです。

お話を伺うと、住民が住まいながらされた丁寧なリノベーションは、工事中のプロセスも含めてデザインされ、団地の中の様々なシーンが記憶の中でシーケンシャルに繋がるような手法で編み上げられていることが分かります。

それらの手法が消極的な問題解決ではなく「デザイン」でできることに変換され、プランそのものに大鉈(なた)を振るうことなく、住民達が誇れる場になったという事に驚かされます。

同時に、「デザイン」の可能性について新たな可能性を示唆されているように感じました。

この日の後半は様々なジャンルのパネリストによるディスカッションでしたが、建築家が単体の建築を依頼されて設計する、という流れそのものを揺さぶられるような事例紹介と対話が続きました。

それぞれの職能についてあらためて考えてみたくなる、そんな議論は参加者がそれぞれ「自分の問題」として受けとめる余地を含んでいたように思います。5時間に及んだ会で途中退席された方がほとんどいなかったのもそれを顕していると思いました。

打ち上げにも混ぜていただき、帰りは新幹線を使わないと自宅に戻れない時間になりましたが、続けて挑み続けること、価値を発見し、深め続けること…

つくり手として大切なことは何か、と問われていた時間をいただいたような気がしています。


廣部剛司

http://www.maebashi-it.ac.jp/department/ide/info/event/-fermented_city-2017.html







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