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1972 | わたしの人生のノート。50代のおばさんです

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マガジン

  • #超短編

    原稿用紙1〜2枚くらいの短い読みものです。ちょっと読んだら、今日はゆっくり休んでくださいね

  • #小説

    長いのでお時間あるときに読んでいただけたらうれしいです。お待ちしています

  • #短編

    超短編より少し文字数が多いですがすぐ読み終わります。日常の延長のようなささやかなお話で、少しあなたの心が軽くなりますように。

  • #自己紹介

  • #日々のこと

記事一覧

眠れない夜の癒し系恋愛小説「また明日」蒼井氷見 #超短編

「それでは、商品が届き次第、ご連絡いたしますので」 大きな唇をした店員が、あかるい声で葉月に伝票を手渡した。 買ってしまった。 入荷待ちの、憧れの旅行鞄。 店を出…

himi
11日前
4

【恋愛小説】「大気の状態が不安定」

鎌倉初夏の鶴岡八幡宮の太鼓橋の前には、行楽客がごった返していた。目に刺さる若葉と、色彩豊かな人々の服装が、時速三十キロの速度で目の前をかすめ去って行く。 赤、…

himi
13日前
6

眠れない夜の癒し系恋愛小説「地下鉄に乗って」蒼井氷見 #超短編

信号が青に変わる。 歩き出す。 銀座四丁目の交差点を、和光から三越側へ。私は迷わず、松屋の地下へと向かう。 赤坂トップスのチョコレートケーキひと箱を買って、本当…

himi
13日前
3

眠れない夜の癒し系恋愛小説「SHOOTING STAR」蒼井氷見 #短編

きっかけは、女友達の瑞希のひとことだった。「行ってみたいよねって話になって」 瑞希の言葉に、私は、海水浴帰りの渋滞中に見るともなく目に入る、お決まりのネオンを思…

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2週間前
3

眠れない夜の癒し系恋愛小説「七夕の夜に」蒼井氷見 #超短編

新婚旅行で訪れたハワイ島の「黒い砂」という名の海辺で、大きなウミガメを観た。 私たちはずっと、手を繋いでいた。 喧嘩した日曜の夜にヴェランダから見る空の闇は、あ…

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2週間前
6

眠れない夜の癒し系恋愛小説「桜」蒼井氷見 #短編

最近、天気予報が当たらない。使いあぐねた傘が、街を歩くのに邪魔をする。 けれど今夜は、そんな人たちを、割と多く見かけるのでほっとする。 この4月で入社5年目を迎え…

himi
2週間前
4

眠れない夜の癒し系恋愛小説「メイベリンの夏」蒼井氷見 #超短編

あの人のことを忘れることができるのなら、どこへでも行こうと思う。 辿り着いた坂道。焼け付くアスファルトの緩い曲線。降り始めた雨。 車窓を開ける。 運転席側も助手…

himi
2週間前
3

眠れない夜の癒し系恋愛小説「22時22分」蒼井氷見 #超短編

うまくいかないたくさんのこと。 がんばっているつもり、疲れているふり。 笑顔のない一日、ついそっけなく返してしまったあの人への返事。 すべてを洗い流すように。 霧…

himi
2週間前
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眠れない夜の癒し系恋愛小説「温水プール」蒼井氷見 #超短編

仕事が終わると、最近はいつも此処へ来る。消毒された温水の匂いと、独特の熱を帯びた湿度と。いつものシンプルな黒の水着を選び、水泳キャップとゴーグルを嵌める。 泳ぎ…

himi
2週間前
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自己紹介

himi | 1972年栃木県生まれ。京都芸術大学芸術学部卒。夫と社会人1年生の息子と3人暮らし。仕事はweb編集者をしています。好きなものはソフィア•コッポラと洋服と田島貴…

himi
2週間前
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ソファが欲しい

ソファが欲しいなあと思う今日この頃です。 紺色のカバーは色褪せているし、2.5シーターの真ん中らへんがたぶん少し、凹んでいます。私も含め、家族は平気で座ったり寝転…

himi
2週間前
2

自分の人生で何が大切かを考える

昨日、葉書が1枚届きました。自分宛でした。 暑中見舞い?引越し通知? 文面を返すと、友人のご主人が亡くなった知らせでした。しかも半年前に葬儀を済ませたとのこと。 …

himi
2週間前
3

ガスを抜く

気の置けない人たちと取材を兼ねて夜呑み。 私は下戸なので、オンオフ関係なくソフトドリンクです。 皆さん呑むとあまり食べないからと言い、刺身や焼き物を二、三品頼ん…

himi
3週間前
1

移住や2拠点生活ができない代わりに月1で鎌倉旅に行くことにしています#2

*映画「紅の豚」のネタバレが少しあります 鎌倉が好きです。 埼玉からは電車で日帰りできる距離ですが、移住にセカンドハウス…etc、住むとなるとなかなかハードルの高い…

himi
3か月前
眠れない夜の癒し系恋愛小説「また明日」蒼井氷見 #超短編

眠れない夜の癒し系恋愛小説「また明日」蒼井氷見 #超短編

「それでは、商品が届き次第、ご連絡いたしますので」
大きな唇をした店員が、あかるい声で葉月に伝票を手渡した。

買ってしまった。
入荷待ちの、憧れの旅行鞄。

店を出て、ライトアップされたショーウィンドウを振り返り、溜息をつく。仕事のストレス発散という大義名分のもとに、今まで幾らの散財をしてきただろう。あの有名デザイナーは、自分のような日本人の小娘が、こんな諦め半分の気持ちで鞄を手にすることを、果

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【恋愛小説】「大気の状態が不安定」

【恋愛小説】「大気の状態が不安定」



鎌倉初夏の鶴岡八幡宮の太鼓橋の前には、行楽客がごった返していた。目に刺さる若葉と、色彩豊かな人々の服装が、時速三十キロの速度で目の前をかすめ去って行く。
赤、青、黄色、緑、白、白、白、白、白。
人混みをすり抜けるとき、人々が海の白波に見えることがある。慶之(よしゆき)の背中に摑まりながら枝理は、遠い昔、叔父のバイクの後ろに乗って、さとうきび畑の間を抜けたあの道を思い出す。
晴れた初夏の朝。

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眠れない夜の癒し系恋愛小説「地下鉄に乗って」蒼井氷見 #超短編

眠れない夜の癒し系恋愛小説「地下鉄に乗って」蒼井氷見 #超短編

信号が青に変わる。

歩き出す。
銀座四丁目の交差点を、和光から三越側へ。私は迷わず、松屋の地下へと向かう。

赤坂トップスのチョコレートケーキひと箱を買って、本当にそれだけを買って、銀座をあとにする。信号待ちをしているとき、

-クリスマス一週間前の週末、つまり今日みたいな日は、ディズニーランドが空いているらしいよ。

という会話を、誰かがしていた。

今日は私にとって、ひと足早いクリスマス。

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眠れない夜の癒し系恋愛小説「SHOOTING STAR」蒼井氷見 #短編

眠れない夜の癒し系恋愛小説「SHOOTING STAR」蒼井氷見 #短編

きっかけは、女友達の瑞希のひとことだった。「行ってみたいよねって話になって」

瑞希の言葉に、私は、海水浴帰りの渋滞中に見るともなく目に入る、お決まりのネオンを思い出す。

その建物は、ずいぶん昔からそこに建っていた。明らかに「いかがわしい」雰囲気を醸し出す外観。煤(すす)けた赤茶色の壁。閉め切った窓。電球の切れかかったネオン。建物の周辺に民家はなく雑草が生え放題の荒れ地で、国道から入口へと続くで

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眠れない夜の癒し系恋愛小説「七夕の夜に」蒼井氷見 #超短編

眠れない夜の癒し系恋愛小説「七夕の夜に」蒼井氷見 #超短編

新婚旅行で訪れたハワイ島の「黒い砂」という名の海辺で、大きなウミガメを観た。
私たちはずっと、手を繋いでいた。

喧嘩した日曜の夜にヴェランダから見る空の闇は、あの黒い砂浜を思い出させた。

人はなぜ、旅に出るのだろう。
恋人たちはなぜ、口論を繰り返すのだろう。
私たちはなぜ、出逢ったのだろう。

残業続きでボロボロになった顔で初めて言葉を交わした日。
緊張していたイタリアンレストランのディナー。

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眠れない夜の癒し系恋愛小説「桜」蒼井氷見 #短編

眠れない夜の癒し系恋愛小説「桜」蒼井氷見 #短編

最近、天気予報が当たらない。使いあぐねた傘が、街を歩くのに邪魔をする。
けれど今夜は、そんな人たちを、割と多く見かけるのでほっとする。

この4月で入社5年目を迎えた真昼と里香は、新宿御苑にほど近いそばの出版社の1階で受付業務をしている。金曜の夜。心地好いディナーの後、2人は、行きつけの西麻布のクラブが活気づくまでの半端な時間をもて余しながら、桜並木をガードレール沿いにしばらく歩いた。緩く生温かい

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眠れない夜の癒し系恋愛小説「メイベリンの夏」蒼井氷見 #超短編

眠れない夜の癒し系恋愛小説「メイベリンの夏」蒼井氷見 #超短編

あの人のことを忘れることができるのなら、どこへでも行こうと思う。

辿り着いた坂道。焼け付くアスファルトの緩い曲線。降り始めた雨。

車窓を開ける。
運転席側も助手席側も、後部座席も、右も左も、すべて。
車は、雨の小淵沢を走る。もう濡れてしまったって構わない。
メイベリンのダイヤルマスカラはとっくに剥がれてしまった。

-わかっている。

走れば走るほど、あの人の棲む、街からの距離が遠のけば遠のく

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眠れない夜の癒し系恋愛小説「22時22分」蒼井氷見 #超短編

眠れない夜の癒し系恋愛小説「22時22分」蒼井氷見 #超短編

うまくいかないたくさんのこと。
がんばっているつもり、疲れているふり。
笑顔のない一日、ついそっけなく返してしまったあの人への返事。

すべてを洗い流すように。
霧のシャワーを浴びよう。

髪を濡らし目を閉じて、落ち込んだ気分を、マイナスイオンで洗い流そう。

なくならないコンプレックス、しょんぼりやの自分。

ゼロになんてならなくていい。
浴室から出たら、前を向こう。
ごわごわした新しいタオルで

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眠れない夜の癒し系恋愛小説「温水プール」蒼井氷見 #超短編

眠れない夜の癒し系恋愛小説「温水プール」蒼井氷見 #超短編

仕事が終わると、最近はいつも此処へ来る。消毒された温水の匂いと、独特の熱を帯びた湿度と。いつものシンプルな黒の水着を選び、水泳キャップとゴーグルを嵌める。

泳ぎながら、色々なことを考える。つまらない会社のこと、うまくいかない恋のこと、美人の友達に嫉妬したこと。そして何度もターンを繰り返す。

ここに来てから1キロ、泳げるようになった。学生の頃は、25メートルがやっとだったのに。

-200メート

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自己紹介

自己紹介

himi |
1972年栃木県生まれ。京都芸術大学芸術学部卒。夫と社会人1年生の息子と3人暮らし。仕事はweb編集者をしています。好きなものはソフィア•コッポラと洋服と田島貴男さん。音楽も好きでジャズピアノ偏愛者です。ジャズに詳しくなりたくて勉強中です。今欲しいものはキーボードとソファと食洗機とちゃぶ台です。キーボード以外は、どちらかというと買い替えです。あと転職活動中です。将来は鎌倉の観光ガイ

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ソファが欲しい

ソファが欲しい

ソファが欲しいなあと思う今日この頃です。

紺色のカバーは色褪せているし、2.5シーターの真ん中らへんがたぶん少し、凹んでいます。私も含め、家族は平気で座ったり寝転んだりしていますが…
そして何より、リビングでの存在感が年老いたクジラのように大きく(大げさ)、20年選手のくたびれ感が悪目立ちしているような気がするのです。

ソファを替えたら、人を呼べる家になるんだけどなあ。と、ほかの散らかった部分

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自分の人生で何が大切かを考える

自分の人生で何が大切かを考える

昨日、葉書が1枚届きました。自分宛でした。

暑中見舞い?引越し通知?
文面を返すと、友人のご主人が亡くなった知らせでした。しかも半年前に葬儀を済ませたとのこと。
印刷された活字と絵の端に短く、手書きのメッセージが添えられていました。彼女らしい気遣いで、やっとの思いで筆を走らせたことが感じ取れました。そして、突然家族を失ったショックが当然癒えていないことも。

私自身、父の新盆を終えたばかりで、故

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ガスを抜く

ガスを抜く

気の置けない人たちと取材を兼ねて夜呑み。
私は下戸なので、オンオフ関係なくソフトドリンクです。

皆さん呑むとあまり食べないからと言い、刺身や焼き物を二、三品頼んで、お酒が進む、進む。

酒の席なんていままで数え切れないほど経験しているはずなのに、その光景が新鮮で、「ああ、お酒が呑める人は、日頃こうやってガス抜きをしているんだなあ」としみじみ。

私は、外で(あるいは家で)お酒を呑んで気晴らしをす

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移住や2拠点生活ができない代わりに月1で鎌倉旅に行くことにしています#2

移住や2拠点生活ができない代わりに月1で鎌倉旅に行くことにしています#2

*映画「紅の豚」のネタバレが少しあります

鎌倉が好きです。
埼玉からは電車で日帰りできる距離ですが、移住にセカンドハウス…etc、住むとなるとなかなかハードルの高い話。
それならばと、定期的に訪れるのをルーティンにしよう…と思い立ったのがつい先月。今回の鎌倉トリップは、ルーティン化して2回目の来訪です。

朝食は必ずここで外食、特に朝ごはんは洋食が好きです。家で食べられないもの、自分が作れないも

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